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 バレてる。

「やっぱりそうだよね? 一度見たことがあるんだ。あんなに綺麗な人は他にいないし、見間違うはずがないよ」
「……」

 綺麗と言われるのは悪い気分じゃなかった。
 しかし正体がバレたならどうしよう。
 隣国の聖女が一人でいる。
 おかしな状況に疑問を抱かないはずはない。

「どうしてここに? しかも一人で」
「それは……」

 素直に言ってもいいだろうか。
 追放されましたと。
 悩んでいると、予想外の音が響く。
 
 ぐぅ~。

 お腹がなった。
 そういえば、朝から何も食べていなかったな……。

「……」

 恥ずかしい。
 男性に、王子にお腹の音を聞かれるなんて。
 最悪だ。

「せっかくなら、食事をしながら話をしよう」
「え?」
「さっきの女性を助けてくれたお礼だよ」
「助けたのは私では……」
「いいや、君の勇気ある行動が彼女を救ったんだ。もし君がいなければ、俺は間に合っていなかっただろうからね。聖女というのは力だけじゃなく、心もさす言葉なんだね? 尊敬するよ」
「……」

 自然な会話の中で私のことを褒めてくる。
 何気ない一言が、私にはぐっときた。
 思えばあまりない経験だ。
 感謝されることはあれど、君は凄いと、素晴らしいと褒められる回数は少なかった。
 むしろ逆で、どうしてこの程度の作法も覚えられないんだとか。
 罵倒されることのほうが多かった気さえする。
 だから素直に嬉しかった。

「そんな聖女様が一人ここにいる。何かあったんだろうね」
「……」
「よければ話を聞きたい。力になれるかはわからないけどね」
「どうしてそんなことを?」

 初対面で、何の関係もないのに。

「俺の国の人を助けてくれたんだ。王子として、それに報いる以外の理由があるか?」
「――!」

 心に衝撃が走るようだ。
 私が知っている王子とは大違いで。
 聖女として多くの人と関わってきた。
 心が見える、とは言えないけれど、接するだけでわかることもある。

 この人は……私がこれまで出会った中で、一番誠実な人かもしれない。

「わかりました。お話ししてもいいです」
「そうか。じゃあ行こう。話すなら、ここより王城のほうがいい」
「はい」

 私たちは王城へと向かう。
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