2 / 35
1-2
しおりを挟む
「……ふぅ、やっと終わった」
誰もいなくなったことを確認して、ようやく肩の荷が下りる。
やりがいのある仕事だ。
多くの人から感謝されるし、求められていることも心地いい。
けれどその分、一人が背負うには重すぎる期待が常にのしかかっていた。
加えて聖女は、この国で私一人だけだ。
皆が聖女を求めて私の元を訪ねてくる。
毎日毎日、迷える人の数は減るどころか、増え続けていた。
人生は一度きりで、不安を抱えることは仕方がない。
聖女の力に頼りたくなる気持ちも理解できる。
できるのだけど……。
「鍵をなくしたとか。そういうのくらいは自分でなんとかしてほしいわね……」
どう考えても、聖女の力に頼らなくても解決できる悩みも多い。
国民の一部は、聖女のことを便利屋か何かと勘違いしているのではないだろうか。
私だって一人の人間で、彼らと同じように不安や不満を抱えていることに、誰か気づいてくれないだろうか。
私は小さくため息をこぼす。
すると、大聖堂の扉が開く音がした。
私は扉のほうへと視線を向ける。
「こんばんは、イリアスさん」
「マリィさん……」
「随分と疲れているみたいじゃない。聖女とあろう者が情けないわね」
「……いえ、すみません」
彼女の名前はマリィ・ノーマン。
ノーマン公爵家の長女であり、立場的には私の姉に当たる人だ。
ただし血縁関係はなく、他人だけど。
彼女はニヤリと笑みを浮かべる。
「そんなに大変そうなら辞めてしまってもいいのよ。あなたみたいな田舎娘には、聖女の地位は不釣り合いだもの」
「……」
彼女はいつものように悪態をつく。
そう、いつものことだった。
彼女が私のことが嫌いなのだ。
その理由はシンプル。
私が彼女から……聖女の地位を奪ってしまったから。
「失礼するよ」
「――! ライゼン様、いらっしゃったのですね」
「ああ、こんばんは、イリアス」
少し遅れて大聖堂にもう一人、今度は男性がやってくる。
彼はライゼン・スパークロン様。
私が聖女として活動するこの国……スパーク王国の第一王子にして、私の婚約者でもある。
「マリィもこんばんは。君も来ていたんだね?」
「はい。不甲斐ない妹が、しっかり聖女としての務めを果たしているか見守っていました」
「そうか。優しいんだね、君は」
「そんなことありません」
二人はにこやかに会話している。
婚約者のライゼン様が、意地悪を言われている私を助けにきてくれた?
そんなことはまったくない。
婚約者などというのは名ばかりで、聖女だから勝手に決められたことに過ぎない。
そのことを、ライゼン様自身が認めていないのだ。
「本当なら、君が聖女に選ばれるはずだったのだけどね……どうしてこんなことになってしまったのか」
「申し訳ありません、ライゼン様……」
「君が悪い訳じゃないよ。神様も意地悪だね? それとも……イリアスの性格が、とても悪かったりするのかな?」
「……」
彼もマリィと同じく、私のことを快く思っていない。
理由は彼女と似ている。
誰もいなくなったことを確認して、ようやく肩の荷が下りる。
やりがいのある仕事だ。
多くの人から感謝されるし、求められていることも心地いい。
けれどその分、一人が背負うには重すぎる期待が常にのしかかっていた。
加えて聖女は、この国で私一人だけだ。
皆が聖女を求めて私の元を訪ねてくる。
毎日毎日、迷える人の数は減るどころか、増え続けていた。
人生は一度きりで、不安を抱えることは仕方がない。
聖女の力に頼りたくなる気持ちも理解できる。
できるのだけど……。
「鍵をなくしたとか。そういうのくらいは自分でなんとかしてほしいわね……」
どう考えても、聖女の力に頼らなくても解決できる悩みも多い。
国民の一部は、聖女のことを便利屋か何かと勘違いしているのではないだろうか。
私だって一人の人間で、彼らと同じように不安や不満を抱えていることに、誰か気づいてくれないだろうか。
私は小さくため息をこぼす。
すると、大聖堂の扉が開く音がした。
私は扉のほうへと視線を向ける。
「こんばんは、イリアスさん」
「マリィさん……」
「随分と疲れているみたいじゃない。聖女とあろう者が情けないわね」
「……いえ、すみません」
彼女の名前はマリィ・ノーマン。
ノーマン公爵家の長女であり、立場的には私の姉に当たる人だ。
ただし血縁関係はなく、他人だけど。
彼女はニヤリと笑みを浮かべる。
「そんなに大変そうなら辞めてしまってもいいのよ。あなたみたいな田舎娘には、聖女の地位は不釣り合いだもの」
「……」
彼女はいつものように悪態をつく。
そう、いつものことだった。
彼女が私のことが嫌いなのだ。
その理由はシンプル。
私が彼女から……聖女の地位を奪ってしまったから。
「失礼するよ」
「――! ライゼン様、いらっしゃったのですね」
「ああ、こんばんは、イリアス」
少し遅れて大聖堂にもう一人、今度は男性がやってくる。
彼はライゼン・スパークロン様。
私が聖女として活動するこの国……スパーク王国の第一王子にして、私の婚約者でもある。
「マリィもこんばんは。君も来ていたんだね?」
「はい。不甲斐ない妹が、しっかり聖女としての務めを果たしているか見守っていました」
「そうか。優しいんだね、君は」
「そんなことありません」
二人はにこやかに会話している。
婚約者のライゼン様が、意地悪を言われている私を助けにきてくれた?
そんなことはまったくない。
婚約者などというのは名ばかりで、聖女だから勝手に決められたことに過ぎない。
そのことを、ライゼン様自身が認めていないのだ。
「本当なら、君が聖女に選ばれるはずだったのだけどね……どうしてこんなことになってしまったのか」
「申し訳ありません、ライゼン様……」
「君が悪い訳じゃないよ。神様も意地悪だね? それとも……イリアスの性格が、とても悪かったりするのかな?」
「……」
彼もマリィと同じく、私のことを快く思っていない。
理由は彼女と似ている。
33
お気に入りに追加
2,223
あなたにおすすめの小説
この婚約破棄は、神に誓いますの
編端みどり
恋愛
隣国のスーパーウーマン、エミリー様がいきなり婚約破棄された!
やばいやばい!!
エミリー様の扇子がっ!!
怒らせたらこの国終わるって!
なんとかお怒りを鎮めたいモブ令嬢視点でお送りします。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
私に聖女は荷が重いようなので田舎に帰らせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるアフィーリは、第三王子であり婚約者でもあり上司でもあるドルマールからの無茶な要求に辟易としていた。
傲慢な性格である彼は自分が評価されるために利益を得ることに躍起になり、部下のことなど考慮しない人物だったのだ。
積み重なった無茶な要求に、アフィーリは限界を感じていた。それをドルマールに伝えても、彼は怒鳴るだけだった。
「申し訳ありません。私に聖女は荷が重いようですから、誰か別の方をお探しください。私は田舎に帰らせてもらいます」
遂に限界を迎えたアフィーリはドルマールにそう告げて聖女をやめた。
初めは彼女を嘲笑うドルマールだったが、彼は程なくして理解することになった。アフィーリという人材がどれだけ重要だったかということを。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる
珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて……
ゆっくり更新になるかと思います。
ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m
【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
追放された令嬢は英雄となって帰還する
影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。
だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。
ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。
そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する……
※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる