上 下
3 / 5

3.逃走と再会と

しおりを挟む
 今、この状況を招いていた。

「まさか……殿下が?」

 考えたくない。
 だけど、それ以外に考えられない。
 一体何のために?
 違う。
 そんなことはどうでもよくて、私が一番ショックなのは、無実の罪を言い渡されている私を、ただ黙ってみていること。
 助けようとも、意見しようともされない。
 つまり、そういうことなのだと。
 私にかけてくれた言葉は全て、嘘で作られた偽物だったんだ。
 今さらになって気付かされた。
 遅すぎたんだ。

「反論はないようだな? ならば処分を言い渡す! 宮廷錬金術師アイリス・クレンベル、貴方を国王陛下暗殺を企てた罪人として投獄、三日後に死刑とする」

 言い渡された判決は、もっとも思い死罪。
 こうして私の人生は幕を下ろす。
 何も残せず、誰にも認めらず、利用されるだけされて捨てられる。
 そんなの……

「嫌……だよ」
 
 こぼれた涙の雫が、地面にポツリと落ちる。
 その時、一羽の鳥が王座の間の煌びやかなガラス窓を突き破って侵入した。

「な、何だ?」
「鳥だと?」

 全員の視線が上に向けられる。
 私も涙で瞳を潤ませながら天井を見上げた。
 そこには一羽の鳥が飛んでいた。
 鳥はくちばしで小さな小瓶を咥えている。
 黄色い液体の入ったその小瓶に、私だけが見覚えを感じた。

 あれは――

 鳥が小瓶を落下させる。
 落下した小瓶が地面に衝突すれば割れる。
 当たり前のことだけど、私はそうなる前に両目を閉じた。
 知っているから。
 あの小瓶の中身と、大気に晒された瞬間に起こる激しい発光現象を。

「ぐっ、め、目が……」

 小瓶が割れ、眩しい光が部屋に広がる。
 目を開けていた者たちの視界が閉ざされ、目を瞑っていた私だけが平常に見える。
 
 ――走れ!

 その直後、頭の中に声が響いた。
 聞き覚えのある力強い声に、私の身体はぶるっと震える。
 そして涙を拭い、一目散に部屋の出口へとかけた。
 小瓶を持ってきた鳥が先頭を飛び、私をどこかへ案内してくれている。
 どこへ案内しているのかわからないけど、私はそれに従って走った。
 後ろなんて気にせず、前だけを向いて。

 そうしてたどり着いたのは……

「はぁ、はぁ……ここって……」

 懐かしい場所に出た。
 緑が美しい木々が生い茂る森の中。
 私はこの森に、小さい頃からよく足を運んでいた。
 錬金術の素材を集めるために、この森はとても良い環境だったんだ。
 でも、一番の思い出はそこにはない。
 私はこの場所で、一人の少年と出会った。

「懐かしいだろ? ざっと一年ぶりだからな」

 その少年は青年となり、今……私の前に立っている。

「ラル君?」
「ああ。久しぶりだな、アイリス」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

聖女ロボットが完成したので、人間の聖女はもう必要ないそうです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
エルディットは聖女として、アデライド王国の平和を守っていた。だがある日、若き国王ジェイリアムによって、その任を解かれる。……なんと、ロボットの聖女が完成したので、もうエルディットは不要とのことらしい。 「頭を下げて頼めば、残りの人生の面倒を見てやる」と言われたが、エルディットはそれを拒否し、国を出た。意にそわぬ相手に平伏するほど、プライドのない女ではなかったからだ。 そしてエルディットは、しばらく旅をした。 彼女は最終的に、遠い田舎で、のんびりと平和で幸せな人生を送ることになった。 一方、エルディットのいなくなったアデライド王国では、ジェイリアムがロボット聖女と共に、完璧なる国づくりを目指していた。 人間よりも優れた能力を持つロボット聖女の導きにより、アデライド王国はさらに発展していくが、完璧な国を目指すあまり、ジェイリアムとロボット聖女の行動はしだいにエスカレートしていく。 ジェイリアムはまだ知らなかった。 自分の判断のせいで、アデライド王国がいかなる末路を辿るのかを……

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...