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「ひどいなその男……よく五年も続いたな」
「私が馬鹿だったからだよ」
「そうかもしれないけど、向こうも馬鹿だと思うぞ? 髪以外に魅力がないとか、人を見る目がなさすぎる」
「レン君?」

 彼はおもむろに、私の髪に触れる。
 マルク様と同じように、けれど少し控えめに。

「髪が綺麗じゃなくて、髪も綺麗なんだ。俺は君が頑張っていることを知っている。この店に通っている者たちもそうだ。この店が、君自身に魅力が溢れているから、客も増えていく。何より頑張ってる奴は好きだよ」
「レン君……」

 彼の言葉が、心に溶け込む。
 頑張りを認めてほしかったわけじゃない。
 私がやりたいと思ったことだから、周りから馬鹿にされようとも、私がそうありたいと思ったから。
 それでも、彼の言葉は嬉しかった。
 彼の言葉が、話し方が、息遣いが……どこか両親に似ていたから。
 私が何かをやり遂げると、優しく語り掛ける様に褒めてくれた父と母の姿を思い出す。
 堪えていた涙が溢れそうになって、慌てて袖で拭う。

「ありがとう。元気出たよ」
「そうか。俺にできることがあれば言ってくれ」
「うん」

 その言葉だけで私は救われている。
 大変なことばかりだけど、今日も、明日も頑張ろうと思える。
 いつの間にか彼の言葉が、私の支えになっていたことに気付かされた。
 彼だけじゃない。
 このお店に来てくれる人たちの言葉も、私に勇気をくれる。

「じゃあ俺は行くよ。長居しても邪魔になるしな」
「そんなことないけど」

 もう少し話をしていたかった。
 けれど私こそ、彼の邪魔をしたくない。

「また来てね」
「ああ」

 手を振り、彼を見送る。
 毎日会えるわけじゃないから、次はいつ来てくれるだろうと想像する。
 別れたあとはいつも寂しい気持ちになった。
 もう少しだけ……。
 なんて思っていると、カランとベルが鳴る。
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