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 今日は特別な日だ。
 年に二度、王都に席を置く全ての貴族が招かれ集まるパーティーが開かれる。
 貴族同士の交流、情報交換が主となる催しには、王族も参加する。
 自分の存在を王族にアピールしたり、未来の夫、妻を探す場としても設けられる。
 重要なのは、どんな貴族であっても参加できるということ。
 たとえばそう、私みたいに貴族とは名ばかりの貧乏令嬢だとしても。

「アイリス、君とは長い付き合いだ。こんな形になってしまうことに心苦しさはある。けれどあえて言わせてもらうよ」

 そんな大きな催しで、婚約者の彼は私に告げる。
 冷たく、抑揚もなく、ハッキリと。

「君との婚約を破棄したいと思っている」
「……え?」

 突然のことで言葉を失った。
 彼とは婚約者になってから五年は経過している。
 出会った時から数えたら、十年以上の付き合いだった。
 小さいころから知っているいわゆる幼馴染。
 お互いのことはよく知り、分かり合っていると思っていた。

「マルク様……? 今……なんと……」
「君との婚約を破棄したい」
「――!」
「聞こえないなら何度でも言おう。もっと大きな声で言ってほしいならそうする」

 周りには大勢の貴族たちが談笑していた。
 こちらに興味なさげなフリをして、チラチラと見ている。
 中には見物人のごとく、私たちを見ながらケラケラと笑う姿もあった。
 すでに悪い意味で注目されている。
 これ以上は……みじめだ。

「いえ……でも、どうして?」
「そうだね。僕たちの婚約は、君の家……ルストワール家が没落する前に結んだものだった。家同士の親交を深めるために決められたものだったが、僕は構わなかった」
「わ、私も……マルク様のことが……」

 私のルストワール家と、マルク様のアイスバーグ家は三世代ほど前から交流が深い。
 両親の世代でも変わらず、家族ぐるみの付き合いがあった。
 親交が深い家同士で、婚約者を見つけるのはよくある話だ。
 政略的な意味が強い関係性だけど、私は気に入っていた。
 マルク様は女性好きで、よく他の女性とも仲良くしている姿を見る。
 それでも私の婚約者で、私を一番に考えてくれている。
 必ず最後は私に元へ戻ってきてくれる。
 何より私が一番長く彼と付き合い、通じ合っていると思っていた。
 だけど……。

「悪いけど僕は、そこまで君のことを愛していたわけじゃないんだ」
「――!」

 どうやら本気で思っていたのは、私のほうだけだったらしい。
 婚約者になって五年……今さらになって真意を知る。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

新作投稿してます!

『婚約破棄に追放されても知っていたので平気ですよ! ~平民の癖に生意気だと罵られた新米魔法使いオルトリア、天才っぷりで英雄公爵に溺愛される~』

PC版の場合はページ下部にリンクがあります。
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