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 基本的に、研究室は一人一部屋。
 自由に出入りが許されているのは、発明家本人と護衛のみ。
 ただし、同じ研究テーマをもつ発明家が集まって、一緒に研究を進めている場合もある。

「おい、例の話本当なのか?」
「そうらしい。陛下が興味を示されたとか」
「ありえない。なぜあんな奴の研究が……」
「俺も信じられない。だがどうやら、魔石の代用品になるという点を陛下は注目されているようだ。魔道具という形さえ崩さず、動力だけ変えてしまば今の体制は続けられる」
「くそっ、そんな都合の良いエネルギーがあるなんて」

 暗い部屋で苦い顔をする男たち。
 彼らは共同で研究しているわけではない。
 共通しているのは、サクラや彼女の父親の研究テーマが気に入らないということ。
 その本質は、彼女に対する劣等感である。
 自分たちが気付けなかった可能性に着目し、今にも届きそうになっている。
 才能の差、発想力の差を見せつけられ、焦りと妬みが込み上げる。

「このままだと……我々の研究も無駄に」
「そ、そんなことあるはずがない! 我々の研究こそ、この国の未来を担う重要なものだ! あんな奴の戯言に負けるなど」

 そう言いながら、心のどこかで感じてる。
 彼らはとても優秀で、未来における不安要素にも気づいている。
 サクラが彼らに言い放ったことは図星だった。
 気付いていながら変えようとしない。 
 自分たちが老いて死んだ後の問題で、そんな先のことなんて関係ないのだと。
 王宮付きの発明家という立場と威厳を守れれば良い。

「邪魔だ……あいつは……平民上がりの癖に偉そうな口をききやがって。私は貴族だぞ? 私が劣っているなどありえない。あってはならない」

 もちろん、それだけではない。
 人間の感情というものは複雑で、負の感情程強く残る。
 時に考えられないような愚行をするのも、人間だからである。

「あいつをどうにかして……そうだ。確かあいつ、護衛と一緒によく城を出ていたよな」
「あ、うん。確か素材を集めにいくとか。あんなの依頼すれば良いのに」
「そうだな……つまりその間なら、私たちが何をしていてもバレない」
「お、おいまさか……」
「お前たちも同じ気持ちだろう? この国の未来のために協力しよう」

 重ねて言うが、彼らは優秀な発明家だった。
 それでも人間であることに変わりはない。
 感情というものは時に愚かしく、視野を狭めてしまう。
 今の彼らが、まさにそれだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 王都から北へ馬車で半日。
 さらに歩いて一日。
 高く聳え立つ山々の麓に、私とシークは足を運ぶ。

「ようやく着いたな」
「うん。でもこれから山登りだよ?」
「わかってるよ。というか、お前の方こそ大丈夫か?」
「大丈夫。歩けなくなったら負ぶってもらうから」
「全然大丈夫じゃないだろ……俺が」

 発明家の中でも、私はよく外に出るし体力はある方だと思う。
 ただ基本は研究室に閉じこもっているから、険しい山道なんて登れる体力はない。
 運動不足の自覚している。

「毎度思うけど、わざわざ自分で取りにこなくても良いんじゃないか?」
「駄目だよ。素材は質も重要だから、自分の目で確かめないと」

 以前は業者に頼んでいたこともあった。
 でも明らかに仕事がテキトーで、頼んだ素材じゃないものまで入っていたり。
 私が依頼する素材が特殊だからということを差し引いても酷い。
 発明家からだけじゃなくて、王宮で働くいろんな人から腫れものを見る目をされるし、仕方がないのだけど……
 たぶん、私を平等に見てくれるのは、隣にいるシークと陛下くらいだ。

「さて、それじゃ昇るよ」
「ああ」

 登山中はほとんど会話もなく、淡々と歩く。
 険しい山道を登っている途中に、楽しい会話をする余裕はなかった。
 目的の洞窟へたどり着く頃にはヘトヘトで、入り口で座り込む。

 
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