14 / 15
14.お風呂タイム
しおりを挟む
「というわけだから、一緒にお風呂入ろうか!」
「……は?」
夕食の時間。
突拍子もなくそんなことを言い出したブラムに呆れる。
「お風呂だよ! お・ふ・ろ!」
「それは聞こえているから」
「だったら決まりだね! いやー楽しみだなぁ~」
「ちょっ、勝手に決めないでよ! 私は良いなんて一言も言ってないから!」
慌てて否定した私に、ブラドが答える。
「いやいやいや~ 前に約束したじゃないか? 忘れたのかい?」
「は? そんな約束した覚え――」
と言いながら、思い当たることが一つあった。
前にこいつの挑発に乗せられて賭けをしたときだ。
私が負けたら、一緒にお風呂へ入ってもらうとかいう話をした記憶がある。
「ま、まさか賭けの話してるの?」
「その通り! あの賭けは俺の勝ちだった! 俺が勝った場合の条件は、一緒にお風呂に入ることだっただろう?」
確かにそうだけど……
「い、嫌だ。なんで私があんたと」
「拒否権はないって! 大体さっき、主人である俺の目を潰しただろ? あれの罰も含まれているんだから」
「うっ……」
それは申し訳ないと思っているから反論できない。
だけど一緒にお風呂?
お風呂って……
「あーもう! わかった! 一緒に入ればいいんでしょ!」
悩みはしたが諦めることにした。
どうせ首輪の影響で断っても従うしかない。
こいつの言う通り、最初から私に拒否権はないんだ。
それに……まぁ……別に嫌ではないという。
「じゃあ決まりだね! 親睦を深めるためにも裸の付き合いと行こうじゃないか!」
「し、親睦……」
本当にそれだけだろうな?
不安を感じながら夕食を終えた。
片付けも済ませたら、一緒にお風呂場へ向かう。
広々とした脱衣所で、隣り合って服を脱ぐ。
特別変わった会話はなく、ブラムは淡々としている。
私は横を確認しながらだったのに、これじゃまるで私だけが意識しているみたいだ。
「あっ、タオルで巻くのはなしだからね」
「うっ……わ、わかった」
服を脱いだ私とブラムはお風呂場へ入った。
湯が張られていて、そこから立ち昇る湯煙が濃く視界を塞ぐ。
それでも近くにいる互いの身体は、結構ハッキリ見えてしまうのだけど。
「……」
「おや? 思ったより冷静だね? もっと騒ぐかと思ってたよ」
「ば、馬鹿にするなよ。こっちは風呂場で暗殺だってしたこともあるんだ。男の裸なんて見慣れてる」
「それは物騒だな~ でも見慣れてはちょっと嘘なんじゃないか?」
「な、何でだよ」
「だってほら、顔が赤いよ?」
言われて気付く。
風呂の熱気の所為ではなくて、私の頬は熱くなっていた。
彼に気付かされて余計に意識してしまう。
「く、首輪の所為なんだから仕方がないだろ!」
「はっはっはっ! やはり残して正解だったね。今のほうが表情豊かでかわいいよ」
「ぅ……か、可愛いとか言うな」
こいつは平気でそういうことを口にする。
お陰で私の心は揺れっぱなしだ。
「さて! じゃあさっそく――」
ブラムが話だし、私は身構える。
こんな状況だ。
肩たたきなんてぬるい命令はしてこないだろう。
覚悟を……
「背中だけ流してもらおうかな?」
「えっ……背中だけ?」
「ああ。頼めるかい?」
「お、おう……」
拍子抜けするお願いに戸惑いつつ、言われた通りに背中を流す。
椅子に座った彼の背中は広くて、人の肌とは思えない程白く綺麗だった。
そんな彼の肌に見入っていた私は、彼が私の顔をじっと見ていたことに気付く。
「な、何だよ」
「いや。何度も見ても、君の赤い髪は綺麗だなと思ってね」
「なっ……またそんなこと言って」
「事実だからね。何か特別な手入れでもしてるのかい?」
「手入れ?」
「ほら。シャンプーとかは良い物を選んで使ってたり」
「そんなのないよ。今までは風呂だって一週間に一度は入れればマシだったからさ。シャンプーもしたことなかったし」
そもそも暗殺者に必要ないことだ。
ここに来てからも適当に済ませている。
そのことを伝えたら……
「それは良くないな! せっかく綺麗なんだから手入れはしないと!」
「え、そんなこと言われても……」
「ちょっと場所変わって。俺が髪を洗ってあげよう」
「い、いやそんな」
「いいから変わりなさい」
「……はい」
なぞの圧に押し切られて、私は言われた通りに座る。
さっきまでと逆の位置関係になり、ブラドがシャンプーを始まる。
他人に自分の髪を洗われるなんて初めてで、妙に緊張する。
「これからはちゃんと毎日シャンプーするんだぞ?」
「う、うん」
そう言いながら彼の手は動く。
頭をマッサージされているみたいで気持ちいい。
誰かにシャンプーしてもらうって、こんなにも気持ちいいものなんだな。
「どうだい? 気持ちいいかい?」
「……うん」
「それは良かった。小さい頃にやってもらった時の見様見真似だけど、案外覚えているものだね」
「小さい頃って?」
「五歳くらいのときかな」
思った以上に前の話だった。
「な、なぁ、ここって私以外の使用人はいないの?」
「いないよ。見ての通り」
「いつから?」
「俺が神祖になってから」
「なってから?」
「俺だって最初から神祖だったわけじゃないんだよ。ほら、もう流すよ」
流れる湯に目を瞑る。
最初から神祖ではないという言葉がひっかかる。
「はい終わり」
「あ、ありがとう」
「どう? 気に入ってくれたかな?」
「ま、まぁ……悪くなかった」
「そうか。だったらついでに身体も洗ってあげようか?」
「なっ、なな……いらない!」
「遠慮しなくてもいいんだよ~」
「うるさい変態!」
平手打ちの音は風呂場だと余計に響く。
その後は一緒に浴槽へ入った。
私はむすっとしたまま、ブラドは頬を押さえている。
何となく気まずい空気か続き、少しだけ居心地が悪い。
そんな静寂を破るように、ブラドが口を開く。
「ルビー」
「な、何だよ」
「君の疑問を解消してあげるよ」
「は? 疑問?」
「俺がどうして神祖になったのか。今日まで何があったのか」
ブラドは切なげな表情を見せて続ける。
「知りたいのだろう?」
「……」
私はこくりと頷いた。
「ちょうど良い。これから一緒にいるなら、知っておいてもらったほうが良いだろう」
「……は?」
夕食の時間。
突拍子もなくそんなことを言い出したブラムに呆れる。
「お風呂だよ! お・ふ・ろ!」
「それは聞こえているから」
「だったら決まりだね! いやー楽しみだなぁ~」
「ちょっ、勝手に決めないでよ! 私は良いなんて一言も言ってないから!」
慌てて否定した私に、ブラドが答える。
「いやいやいや~ 前に約束したじゃないか? 忘れたのかい?」
「は? そんな約束した覚え――」
と言いながら、思い当たることが一つあった。
前にこいつの挑発に乗せられて賭けをしたときだ。
私が負けたら、一緒にお風呂へ入ってもらうとかいう話をした記憶がある。
「ま、まさか賭けの話してるの?」
「その通り! あの賭けは俺の勝ちだった! 俺が勝った場合の条件は、一緒にお風呂に入ることだっただろう?」
確かにそうだけど……
「い、嫌だ。なんで私があんたと」
「拒否権はないって! 大体さっき、主人である俺の目を潰しただろ? あれの罰も含まれているんだから」
「うっ……」
それは申し訳ないと思っているから反論できない。
だけど一緒にお風呂?
お風呂って……
「あーもう! わかった! 一緒に入ればいいんでしょ!」
悩みはしたが諦めることにした。
どうせ首輪の影響で断っても従うしかない。
こいつの言う通り、最初から私に拒否権はないんだ。
それに……まぁ……別に嫌ではないという。
「じゃあ決まりだね! 親睦を深めるためにも裸の付き合いと行こうじゃないか!」
「し、親睦……」
本当にそれだけだろうな?
不安を感じながら夕食を終えた。
片付けも済ませたら、一緒にお風呂場へ向かう。
広々とした脱衣所で、隣り合って服を脱ぐ。
特別変わった会話はなく、ブラムは淡々としている。
私は横を確認しながらだったのに、これじゃまるで私だけが意識しているみたいだ。
「あっ、タオルで巻くのはなしだからね」
「うっ……わ、わかった」
服を脱いだ私とブラムはお風呂場へ入った。
湯が張られていて、そこから立ち昇る湯煙が濃く視界を塞ぐ。
それでも近くにいる互いの身体は、結構ハッキリ見えてしまうのだけど。
「……」
「おや? 思ったより冷静だね? もっと騒ぐかと思ってたよ」
「ば、馬鹿にするなよ。こっちは風呂場で暗殺だってしたこともあるんだ。男の裸なんて見慣れてる」
「それは物騒だな~ でも見慣れてはちょっと嘘なんじゃないか?」
「な、何でだよ」
「だってほら、顔が赤いよ?」
言われて気付く。
風呂の熱気の所為ではなくて、私の頬は熱くなっていた。
彼に気付かされて余計に意識してしまう。
「く、首輪の所為なんだから仕方がないだろ!」
「はっはっはっ! やはり残して正解だったね。今のほうが表情豊かでかわいいよ」
「ぅ……か、可愛いとか言うな」
こいつは平気でそういうことを口にする。
お陰で私の心は揺れっぱなしだ。
「さて! じゃあさっそく――」
ブラムが話だし、私は身構える。
こんな状況だ。
肩たたきなんてぬるい命令はしてこないだろう。
覚悟を……
「背中だけ流してもらおうかな?」
「えっ……背中だけ?」
「ああ。頼めるかい?」
「お、おう……」
拍子抜けするお願いに戸惑いつつ、言われた通りに背中を流す。
椅子に座った彼の背中は広くて、人の肌とは思えない程白く綺麗だった。
そんな彼の肌に見入っていた私は、彼が私の顔をじっと見ていたことに気付く。
「な、何だよ」
「いや。何度も見ても、君の赤い髪は綺麗だなと思ってね」
「なっ……またそんなこと言って」
「事実だからね。何か特別な手入れでもしてるのかい?」
「手入れ?」
「ほら。シャンプーとかは良い物を選んで使ってたり」
「そんなのないよ。今までは風呂だって一週間に一度は入れればマシだったからさ。シャンプーもしたことなかったし」
そもそも暗殺者に必要ないことだ。
ここに来てからも適当に済ませている。
そのことを伝えたら……
「それは良くないな! せっかく綺麗なんだから手入れはしないと!」
「え、そんなこと言われても……」
「ちょっと場所変わって。俺が髪を洗ってあげよう」
「い、いやそんな」
「いいから変わりなさい」
「……はい」
なぞの圧に押し切られて、私は言われた通りに座る。
さっきまでと逆の位置関係になり、ブラドがシャンプーを始まる。
他人に自分の髪を洗われるなんて初めてで、妙に緊張する。
「これからはちゃんと毎日シャンプーするんだぞ?」
「う、うん」
そう言いながら彼の手は動く。
頭をマッサージされているみたいで気持ちいい。
誰かにシャンプーしてもらうって、こんなにも気持ちいいものなんだな。
「どうだい? 気持ちいいかい?」
「……うん」
「それは良かった。小さい頃にやってもらった時の見様見真似だけど、案外覚えているものだね」
「小さい頃って?」
「五歳くらいのときかな」
思った以上に前の話だった。
「な、なぁ、ここって私以外の使用人はいないの?」
「いないよ。見ての通り」
「いつから?」
「俺が神祖になってから」
「なってから?」
「俺だって最初から神祖だったわけじゃないんだよ。ほら、もう流すよ」
流れる湯に目を瞑る。
最初から神祖ではないという言葉がひっかかる。
「はい終わり」
「あ、ありがとう」
「どう? 気に入ってくれたかな?」
「ま、まぁ……悪くなかった」
「そうか。だったらついでに身体も洗ってあげようか?」
「なっ、なな……いらない!」
「遠慮しなくてもいいんだよ~」
「うるさい変態!」
平手打ちの音は風呂場だと余計に響く。
その後は一緒に浴槽へ入った。
私はむすっとしたまま、ブラドは頬を押さえている。
何となく気まずい空気か続き、少しだけ居心地が悪い。
そんな静寂を破るように、ブラドが口を開く。
「ルビー」
「な、何だよ」
「君の疑問を解消してあげるよ」
「は? 疑問?」
「俺がどうして神祖になったのか。今日まで何があったのか」
ブラドは切なげな表情を見せて続ける。
「知りたいのだろう?」
「……」
私はこくりと頷いた。
「ちょうど良い。これから一緒にいるなら、知っておいてもらったほうが良いだろう」
0
お気に入りに追加
327
あなたにおすすめの小説
ちょいぽちゃ令嬢は溺愛王子から逃げたい
なかな悠桃
恋愛
ふくよかな体型を気にするイルナは王子から与えられるスイーツに頭を悩ませていた。彼に黙ってダイエットを開始しようとするも・・・。
※誤字脱字等ご了承ください
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる