襲ってきた暗殺者が可愛かったのでメイドとして雇うことにしました

日之影ソラ

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13.ご主人様のことを知りたい

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 許さない。
 絶対に許さない。
 お前もこちら側へ来るべきだ。
 幸せなどあってはならない。
 不幸になれ、泣きわめき、孤独に呑まれてしまえば良い。

 真っ暗な夢の中で、私に浴びせられる声。
 それらは全て、これまで私が殺めてきた人々のものだろう。
 彼らは私を恨んでいるに違いない。
 時々、こういう夢こともあった。
 何もない場所に、私は一人ぼっちで座っている。
 
 他の誰が許さずとも、俺は君を許そう。

 そこへ差し込む一筋の光に手を伸ばす。
 掴んだ手を離さないように握りしめ、光が差すほうへと飛び出す。
 暖かくて、優しくて、安心する光の先には――

「ぅ……ん、朝……?」

 夢から目覚めた私は、閉じたカーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさを感じる。
 徐にベッドから起きて、窓の近くまで歩き、カーテンを開ける。

「良い天気」

 空は雲一つなく晴れ渡っている。
 窓も開ければ心地良いの風が入ってきた。
 私はゆっくりと深呼吸をして、昨晩のことを想い返す。
 あれだけの事件が起こった翌日で、ここまで落ち着いていられるのも不思議だ。
 
 しばらく外を眺めてから、私はメイド服に着替えた。
 この服に着替えると、なぜだが少し安心する。
 自分はこの屋敷のメイドなのだと、ここにいても良いと証明されているように感じるからだろう。

「よし」

 いつも通り、私は朝食の準備を始めた。

「う~ん……もう結構減ってるな」

 食材もそろそろなくなりつつある。
 近いうちに買い出しへ行きたいと思った。
 先日までは首輪の効果で屋敷の外には出られなかったけど、昨日の一件の後で、行動制限の効果はなくしてくれた。
 今なら屋敷の外も中も自由に移動できる。
 もっとも首輪はまだつけているし、他の効果も残っているけど。

「……」

 私は首輪に手を当てる。
 これは私を縛るためではなく、私の身を守るための道具だったことを思い出す。
 彼の、普段の言動からはわからない真摯な優しさが、ここに現れていたのだと思うと今は嬉しい。

 朝食の準備が終わる。

「ふぅ。相変わらず今日も寝坊か」

 やれやれ。
 一日も時間通りに起きれていないじゃないか。
 仕事はしっかりしている癖に、朝だけはとことん弱いな。
 もしかしてこれも、あいつが純粋な人間じゃなくて、神祖とかいう存在だからなのかな?

 そう、あいつは人間じゃなかった。
 まぁでも、大して驚きもしていない。
 首を撥ねられても死なない再生能力に、毒も効かない。
 異常な体験はたくさんしたから、薄々感じてはいたんだ。
 それでも神祖なんて希少な存在だとは夢にも思わなかったから、驚きがなかったと言われたら嘘になる。

「おーい、もう朝だぞー」

 彼の寝室前に来た私は、扉を数回ノックした呼びかけた。
 いつものことながら返事はない。
 まだ寝ているのだろう。
 私は勝手に扉を開け、ベッドで眠っている彼に近づく。

「おい起きろ」
「ぅ……」

 昨日の出来事が嘘みたいな平常運転。
 よくここまで安眠できるなと感心する。

「いいかげん起きろ!」
「ん、うおっ!」

 まったく起きる気配がなかったので、布団を無理やり剥がした。
 さすがに今の衝撃で目を覚まし、右へ左へキョロキョロ顔を向けている。

「やっと起きたか」
「……ルビー」
「ぅっ、お、おう」

 名前を呼ばれるとドキッとする。
 ルビーというは、彼が付けてくれた私の名前だ。

「朝食の準備は出来てるぞ」
「そうか。いつもすまないね」
「べ、別に! それがメイドの役目だからな」
「……」
「な、何だよ」
「ふっ、いいや何でもない」

 意味深に私を見つめ、なぜか嬉しそうに笑うブラム。
 絶対に何か考えていただろ。

「すまないが着替えをとってくれるか?」
「おう」

 着替えは窓際のクローゼットにある。
 ふと、今さらながらに気付いたことだが、この部屋のカーテンはいつも閉まっていた。
 部屋だけじゃなくて、廊下とか全ての窓から光が差し込まないようになっている。

 そういえば、日の光には弱いとか言ってたような……

 浴びせたどうなるのだろう。
 ちょっとした好奇心が働いて、チラッとカーテンを開けてみる。
 細い日の光は、彼の目に入って――

「目がああああああああああああああ」
「え、えぇ!?」

 予想以上の反応を見せて、私は咄嗟にカーテンを閉じた。
 彼は両目を手で抑えながら、ベッドの上で左右に転がっている。
 
「ご、ごめん! まさかそんなに効くとは思わなくて」
「た、太陽の光は天敵だ。うぅ……目が痛い」
「ぅ……ごめんなさい」

 彼の目はしばらく見えなかったようだ。
 太陽の光に当たると、彼の細胞はジリジリと焼け焦げていく。
 彼の肌の白さは、日を浴びれない体質からなっている。

「ふぅ、ようやく見えるようになってきた」
「……」
「そんな顔をするな。反省しているのなら、次から気を付けてくれればいい」
「う、うん……そんなに痛いのか?」
「ああ。神祖にとって太陽は唯一の天敵だ。とはいえ、浴び続けた所で死に至らないがな」
「そうなのか?」
「ああ。以前に試したこともある」
「えっ」

 試したって……

「さて、時間が過ぎてしまったな。せっかくの朝食がこれ以上冷めるのは困る」

 そう言って彼は部屋を出て行く。
 私は彼の後ろに続いて、その後ろ姿を見つめながら思う。

 私はまだ、この人のことを知らない。
 知りたい。
 この人のことを知りたい。

 暗殺以外でそう思ったのは、彼が初めてだろう。
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