襲ってきた暗殺者が可愛かったのでメイドとして雇うことにしました

日之影ソラ

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6.ご主人様は無敵

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 私は暗殺者。
 血の染まったような赤い髪と瞳から、赤猫と恐れらていた。
 これまで殺してきた人数は、すでに三桁に到達している。
 私に殺せない相手なんていない。
 
「絶対に殺してやるから」
「はっはっはっ! 君には出来ないよ」

 ターゲットにここまで煽られたのは初めてだ。
 殺意よりも怒りのほうが強く感じられるのも、何だか新鮮で不思議な気持ちになる。
 時計で現在の時刻を確認する。
 ちょうど午前八時を短針がさしている。

「では始めようか」
「ああ」

 互いにニヤリと笑いながら賭けが始まる。
 のだが、いきなり殺し合いが開始されるわけでもない。
 朝食を食べ終わったブラムは、仕事をするため執務室へ向かう。
 私は食べ終わった食器を片付ける。
 メイドとしての仕事もしつつ並行して暗殺をするという提案だ。
 私はガチャガチャと皿を洗いながら考える。

 まずはあいつのことをもっと知らないとな。
 今のところある情報だけだと、治癒力が尋常ではなくて、首を撥ねられても死なない。
 どんな能力なのかも不明のままだ。
 
「よし」

 皿洗いを終えた私は、執務室がある通りの廊下で身をひそめる。
 今まで通りなら、一時間ほど仕事をした後、お手洗いのために廊下へ出てくるタイミングがあるはずだ。

 ガチャリ――

 そこを狙う!
 狙い通り廊下へ出てきたブラム。
 私は背後から迫り、ナイフで首元を斬り裂く。
 スパッと切断まではいかないが、切り口は大きく血しぶきが舞う。

「おいおい。まさかこの程度で俺を殺せると思っているのか? 首を撥ねて失敗したことも忘れているのではないだろうな」
「忘れてるわけないだろ」

 ブラムは傷口を押さえている。
 出血が徐々に収まり、次第に修復しているのが確認できた。
 私だって今ので殺せないことくらいわかっている。
 そうは言っても普通なら致命傷になる傷だ。
 太い血管を切り裂いている証拠に、噴水のように血が噴き出ていた。
 それを容易く……二秒ほどで回復させてみせた。
 
「もう終わりかい? なら俺はいくよ」

 ブラムが立ち去ろうとする。
 数歩歩いて立ち止まり、くるりと私のほうを向く。

「あーそうそう! 血で汚れたところはちゃんと掃除しておいてね?」
「ちっ……ああ」

 汚すと自分の仕事が増えるのか。
 でもこれでハッキリした。
 どういう原理かまではわからないけど、あいつは人間離れした治癒能力を持っている。
 切断は有効な手段ではなさそうだ。
 だったら……

「他の方法を試すまでだ」

 プラン①『毒殺』。
 昼食に毒薬を混ぜて食べさせる作戦だ。
 おそらく彼に物理攻撃は意味がない。
 だが毒ならば有効かもしれない。
 作戦予定は昼食。
 本来使用する量の五倍毒を入れた料理を食べさせる。
 臭いでわかるレベルだが、彼は普段通りにしていると言ったし、毒だとわかっても食べるだろう。
 仮に食べなかったなら、毒が彼に有効だという証明にもなる。

「お待たせ」
「うむ」

 そうしてやってきた昼食の時間。
 彼はいつも通りに席へつき、私も料理をテーブルに出した。

「いただこう」

 何の疑いもなく、彼は料理に手を出す。
 パクリと一口食べた瞬間を、私もごくりと息を飲み見守る。

「……」

 しばらく無言になる。
 これはもしかして効いているのか?
 と期待したが、彼は眉をひそめてこちらを向く。

「苦いぞ。さすがに毒を入れ過ぎだな」

 なっ……あれだけの毒を口に入れて感想がそれだけ?

「味は悪くないのだが、毒の所為で妙な風味が足されてしまっている。毒なら飲むから、別々に用意してくれないか? せっかくの料理は美味しく頂きたい」
「っ……わかった」

 毒入り料理の評論をされてしまった。
 結論、こいつには毒も聞かない。
 ならば次のプランへ移行する。

 プラン②『窒息』
 切断、毒と通じなかったブラム。
 今回は物理的な手段だが、趣向を変えてみることにした。
 窒息させれば、当たり前だけど空気が入らない。
 傷は回復させられても、活動するために必要な空気の欠如は補いない可能性はゼロじゃないと考えた。
 方法は簡単だ。
 執務室で仕事しているあいつの首を――

「ふっ!」

 思いっきり絞めればいい。
 ブラムは一瞬苦しそうな様子を見せたが、すぐに普段通りに戻り……

「どうせなら、もっと抱き着いてくれるとやる気がでるぞ」

 普通に失敗した。
 窒息も効果がないようだ。
 その後、プラン③『圧殺』、プラン④『凍結』、プラン⑤『燃焼』と続けて失敗。
 夕方まで何の成果もなく、夕食の時間になる。

 プラン⑥『爆殺』
 今のところ全部が不発に終わっている。
 試せる手段の中では、おそらくこれが最も派手だ。
 体内に小型の爆弾を取り込み、内側から炸裂させる。
 全身を一瞬で粉々にすれば、さすがのあいつでも再生できないのではないだろうか。

「おい、先にこれ飲み込め」
「ん? 何だいこれは?」
「爆弾」
「えぇ……もう隠す体すらなくなっているね」
「いいから飲め!」
「ちょっ!」

 私だってわかってるさ。
 もはやこれは暗殺なんて呼べない。
 私は無理やり小型の爆弾を十粒飲み込ませ、そのまま廊下に叩き出す。

「弾け飛べ!」

 直後の大爆発。
 内側から炸裂した爆弾によって、手足はバラバラ、胴体は粉々に飛び散る。
 見るの無残な姿になるブラムに息を飲む。
 
「……やったか?」

 いや、薄々感づいてはいた。
 これでも彼は殺せないと。
 粉々になった肉体が集まり始め、まるで時間でも戻るかのように再生していく。
 十秒ほどかけて、完全復活したブラムは小さくため息をこぼす。

「あーあ、服まで粉々だ」

 この期に及んで服が破けたことを嘆くのか。

「俺は着替えてくるから、ちゃんと掃除しておいてくれ」
「……何なんだよこいつ。無敵かよ」 
 
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