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5.俺を殺してごらん
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朝食の席に座る主人と、それを横で見守るメイド。
一見すると違和感のない構図だ。
主人の頬に手のひらの跡が残っていることを除けば……
「酷いなぁー全く。メイドが主人に手をあげるなんてありえないことだよ?」
「うるさい。お前がセクハラするからだろ」
「だからってあんなに思いっきり叩かなくても良かったなじゃないか。傷は癒えるけど、普通に痛いんだぞ?」
「知るかっ! 首切られて平気な癖に文句言うなよ。大体私はメイドじゃなくて暗殺者だ」
「それはつい最近までの話だろう? 今は俺のメイドだ」
マイペースなブラムは朝食を口に運ぶ。
暗殺者が背後に立っている状況で、こうも落ち着いてられるなんて……
この首輪があるからって、攻撃をすることくらい出来るんだぞ?
今だって――
「ごちそう様。今日も美味しかったよ」
ブラムがニコリと微笑み私に顔を向ける。
彼の首へ伸ばそうとしていた私の右手は、彼の顔を見た途端に止まっていた。
「……あっそ」
馬鹿か私は。
なんでちょっと嬉しいとか思ってるんだ。
「しかし驚いたな~ 料理の腕もプロ級だし、他の家事仕事も完璧ときた! 正直言うと、ここまでは期待していたなかったよ。どこかで特訓でもしていたのかい?」
「ふんっ、別に特訓なんてしてない。ターゲットに近づくために、使用人として屋敷に潜入したりする機会もあったからな。成り行きで覚えただけだ」
「ふむふむ、そうだったのか。なるほど、だがこれだけ優秀なら、暗殺者でなくてもやっていけたのではないか?」
不意に出たブロアからの問いに、私はピクリと反応する。
「……馬鹿言うなよ。私にあったのは暗殺者としての才能だけだ。他なんて……考えれるわけないだろ」
「う~ん、そうか? 俺はそう思ないぞ」
「は?」
「伝わらなかったか? 君に暗殺者の才能などないと言っているんだ」
これに私はピクリと反応する。
先ほどとは異なる感情、今回は苛立ちだ。
「ふざけてんのか?」
「まさか。事実を言っているに過ぎない」
「……私に暗殺者の才能がない? そんなわけないだろ! 私がこれまでっ……何人殺してきたと思ってるんだ」
怒鳴るように叫んでいた私は、途中で良い淀んでしまう。
誇るべきことじゃないと、話ながら感じていた。
何をムキになっているのかと思い、心を落ち着かせようと呼吸を整える。
そんな私を煽るように、ブロアはハッキリと言う。
「人数など関係ない。現に俺一人すら殺せていないではないか」
「っ……」
「暗殺の才能? ふっ、笑わせないでくれよ。そんなものがあるなら、この俺を殺せないなどありえるのか?」
こいつ……明らかに私を煽っている。
馬鹿にしたようにニヤついて、大げさにため息をついたり。
だけど私は優秀な暗殺者だ。
煽られた程度で冷静さを失うほど馬鹿じゃない。
「どうした? 何も反論しないのか?」
「別に」
無駄だって。
いくら言われても、そのくらいじゃ何も感じない。
「そうか。やはり君は、蟻すら殺せない弱々しい女だったか」
「っ……」
眉毛がぴくつく。
おかしいな。
「これでは暗殺者など務まるはずもない。だか安心してくれ! 君は一生、俺のメイドとして働くのだからな」
どうしてだろう?
煽られても平気でいられるはずなのに。
そういう訓練も積んできたはずなのに。
なぜだかこの男に言われると、どうしようもなくムカついてい来る。
「良かったな~ 俺のような優しい主人に拾われて」
「……そうだな! お前も良かったな? 私が本気にならなくてさ」
「本気?」
「ああ。私が本気になれば、お前なんて簡単に殺せるからな。お情けで生かしてやってるんだから感謝してほしいくらいだよ」
「ほう。ならば賭けようか?」
「は? 賭け?」
「そう、賭けだ。今日一日で俺を殺してみせろ」
ブロアは得意げに、自らの喉元に手を当てる。
そこからさらに続けて言う。
「もちろん俺は逃げも隠れもしない。いつも通りに一日を過ごそう。もし殺せれば、君は晴れて自由の身だ。依頼も達成できて一石二鳥だろう」
「馬鹿じゃないのか。そんな賭け乗るわけ――」
「まさか出来ないわけではあるまい? 本気とやらがあるのなら、俺を殺せるだろう? それともやはり口だけか」
この男は言葉は、私の心を酷く揺さぶる。
久しく感じていなかった感情に戸惑いつつ、私は答える。
「……わかった。そんなに殺してほしいなら殺してやるよ!」
元々こいつを殺すことが私の仕事だ。
向こうから殺して良いっていうなら願ってもないチャンス。
あらゆる手を尽くして必ず……
「成立だね。一応言っておくけど、君もメイドの仕事はちゃんとするんだよ? あと俺の仕事の邪魔は極力しないでくれると助かるな。それと俺が勝った場合の報酬も決めさせてもらうよ」
「報酬?」
「必要だろう? 賭けなのだからね」
「ふんっ、好きにすれば」
また肩をもんでほしいとか。
どうせしょうもないことだろ。
「そうだな~ よし! せっかくだし、一緒にお風呂でも入ってもらおうかな!」
「ああ、それで構わな――え? お風呂?」
「お風呂だ! 殺し合いの後は、裸の付き合いといこうじゃないか!」
「……」
冗談じゃない。
一見すると違和感のない構図だ。
主人の頬に手のひらの跡が残っていることを除けば……
「酷いなぁー全く。メイドが主人に手をあげるなんてありえないことだよ?」
「うるさい。お前がセクハラするからだろ」
「だからってあんなに思いっきり叩かなくても良かったなじゃないか。傷は癒えるけど、普通に痛いんだぞ?」
「知るかっ! 首切られて平気な癖に文句言うなよ。大体私はメイドじゃなくて暗殺者だ」
「それはつい最近までの話だろう? 今は俺のメイドだ」
マイペースなブラムは朝食を口に運ぶ。
暗殺者が背後に立っている状況で、こうも落ち着いてられるなんて……
この首輪があるからって、攻撃をすることくらい出来るんだぞ?
今だって――
「ごちそう様。今日も美味しかったよ」
ブラムがニコリと微笑み私に顔を向ける。
彼の首へ伸ばそうとしていた私の右手は、彼の顔を見た途端に止まっていた。
「……あっそ」
馬鹿か私は。
なんでちょっと嬉しいとか思ってるんだ。
「しかし驚いたな~ 料理の腕もプロ級だし、他の家事仕事も完璧ときた! 正直言うと、ここまでは期待していたなかったよ。どこかで特訓でもしていたのかい?」
「ふんっ、別に特訓なんてしてない。ターゲットに近づくために、使用人として屋敷に潜入したりする機会もあったからな。成り行きで覚えただけだ」
「ふむふむ、そうだったのか。なるほど、だがこれだけ優秀なら、暗殺者でなくてもやっていけたのではないか?」
不意に出たブロアからの問いに、私はピクリと反応する。
「……馬鹿言うなよ。私にあったのは暗殺者としての才能だけだ。他なんて……考えれるわけないだろ」
「う~ん、そうか? 俺はそう思ないぞ」
「は?」
「伝わらなかったか? 君に暗殺者の才能などないと言っているんだ」
これに私はピクリと反応する。
先ほどとは異なる感情、今回は苛立ちだ。
「ふざけてんのか?」
「まさか。事実を言っているに過ぎない」
「……私に暗殺者の才能がない? そんなわけないだろ! 私がこれまでっ……何人殺してきたと思ってるんだ」
怒鳴るように叫んでいた私は、途中で良い淀んでしまう。
誇るべきことじゃないと、話ながら感じていた。
何をムキになっているのかと思い、心を落ち着かせようと呼吸を整える。
そんな私を煽るように、ブロアはハッキリと言う。
「人数など関係ない。現に俺一人すら殺せていないではないか」
「っ……」
「暗殺の才能? ふっ、笑わせないでくれよ。そんなものがあるなら、この俺を殺せないなどありえるのか?」
こいつ……明らかに私を煽っている。
馬鹿にしたようにニヤついて、大げさにため息をついたり。
だけど私は優秀な暗殺者だ。
煽られた程度で冷静さを失うほど馬鹿じゃない。
「どうした? 何も反論しないのか?」
「別に」
無駄だって。
いくら言われても、そのくらいじゃ何も感じない。
「そうか。やはり君は、蟻すら殺せない弱々しい女だったか」
「っ……」
眉毛がぴくつく。
おかしいな。
「これでは暗殺者など務まるはずもない。だか安心してくれ! 君は一生、俺のメイドとして働くのだからな」
どうしてだろう?
煽られても平気でいられるはずなのに。
そういう訓練も積んできたはずなのに。
なぜだかこの男に言われると、どうしようもなくムカついてい来る。
「良かったな~ 俺のような優しい主人に拾われて」
「……そうだな! お前も良かったな? 私が本気にならなくてさ」
「本気?」
「ああ。私が本気になれば、お前なんて簡単に殺せるからな。お情けで生かしてやってるんだから感謝してほしいくらいだよ」
「ほう。ならば賭けようか?」
「は? 賭け?」
「そう、賭けだ。今日一日で俺を殺してみせろ」
ブロアは得意げに、自らの喉元に手を当てる。
そこからさらに続けて言う。
「もちろん俺は逃げも隠れもしない。いつも通りに一日を過ごそう。もし殺せれば、君は晴れて自由の身だ。依頼も達成できて一石二鳥だろう」
「馬鹿じゃないのか。そんな賭け乗るわけ――」
「まさか出来ないわけではあるまい? 本気とやらがあるのなら、俺を殺せるだろう? それともやはり口だけか」
この男は言葉は、私の心を酷く揺さぶる。
久しく感じていなかった感情に戸惑いつつ、私は答える。
「……わかった。そんなに殺してほしいなら殺してやるよ!」
元々こいつを殺すことが私の仕事だ。
向こうから殺して良いっていうなら願ってもないチャンス。
あらゆる手を尽くして必ず……
「成立だね。一応言っておくけど、君もメイドの仕事はちゃんとするんだよ? あと俺の仕事の邪魔は極力しないでくれると助かるな。それと俺が勝った場合の報酬も決めさせてもらうよ」
「報酬?」
「必要だろう? 賭けなのだからね」
「ふんっ、好きにすれば」
また肩をもんでほしいとか。
どうせしょうもないことだろ。
「そうだな~ よし! せっかくだし、一緒にお風呂でも入ってもらおうかな!」
「ああ、それで構わな――え? お風呂?」
「お風呂だ! 殺し合いの後は、裸の付き合いといこうじゃないか!」
「……」
冗談じゃない。
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