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 沈黙が流れる。
 もうダメだ。
 今一度確認して、順を追って説明してもらったけど、やっぱり意味がわからない。
 私は困惑しながらエレイン様と視線を合わせる。
 エレイン様はとても怒っていた。

「あの、おっしゃっている意味がわからないのですが……」
「愚かだな君は! 僕の聖剣を作り、管理しているのは誰だ?」
「私です」
「そうだ! 聖剣は勇者の力そのもの! 僕自身に問題がなかったのであれば、おのずと敗北の原因は聖剣にある!」
 
 この人は……本当に何を言っているのだろう。
 情報を追加されても理解できない。
 というより、ただの言いがかりだとしか思えない。

「お言葉ですがエレイン様、聖剣の調整に問題はございません。出発前にエレイン様も確認なさり、問題ないとおっしゃっていたはずです」
「その時はそう感じた! 出発後に不具合が発生した! そうに違いない!」
「耐久性や威力の確認もしてあります」
「それが不十分だったと言っているんだ!」

 エレイン様は私に怒声を浴びせる。
 ひどすぎる言いがかりだ。
 確かに聖剣を打ち直したのは私だし、管理しているのも私だ。
 他にできる人がいないから、私一人でやっている。
 だからこそ、一切の失敗やほころびがないよう入念なチェックを怠っていない。
 エレイン様の剣術は未熟で、センス任せで乱暴な使い方をするから、聖剣が壊れないように耐久性を向上させる強化を施したり。
 長時間の連続使用に耐えられるか確認して、戦いに支障がでないようにしている。
 威力に関してはそもそも、どれだけの力を発揮できるかは使い手の素質に左右される。
 聖剣の力を十全に発揮できるかは、勇者であるエレイン様自身の問題だ。
 と、散々説明してきたはずなんだけど……。

「僕の戦いは完璧だった。それなのに負けた。理由はこの貧弱な聖剣にあるに違いない!」

 エレイン様はバンバンと腰の聖剣を叩く。
 私がいくら説明しても、エレイン様は理解してくれない。
 いや、信じてくれないらしい。
 自信家で自己中心的な彼は、自分自身に問題があったのだと思いたくないんだ。
 子供みたいでわかりやすい。
 失敗の原因を外に押し付けて、自分は悪くないと駄々をこねる。
 これが王国を代表し、国民の未来を背負って立つ勇者の姿?
 真実を知れば、国民はみんな呆れてしまうだろう。
 誰より強く、たくましく、優しくて他人想い。
 巨悪を許さず、人々のためなら自らの命を惜しまない……。
 そんな存在が勇者だ。
 どれも当てはまらない。
 こんなにも勇者らしくない勇者は……歴史上初めてなんじゃないのかな?

「とにかく君が原因だ! まずは謝罪をしてもらおうか!」
「……」

 私は小さくため息をこぼす。
 どう説明しても、この人には通じないだろう。
 私が悪いと思い込んでいる。
 こういう時は必ず、私が悪かったと認めて謝るしかない。
 いつものことだ。

「申し訳ございませんでした」

 頭を下げて謝罪する。
 心なんて籠っていない。
 取り繕った偽りの謝罪も、何度目かわからない。
 謝ることに慣れつつある自分が、ちょっぴり嫌だった。
 自分が悪いわけじゃないのに、謝りたくはない。
 だけど仕方がない。
 ここで時間を無駄にすると、今日の分の仕事が終わらないんだ。
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