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46.魔王の魂
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七百年という月日は、僕にとって幸福なものではなかった。
人は誰しも永遠を求める。
限りある命を持つ者にとって、それは届くことのない理想だから。
だけど、僕は知っている。
永遠なんてものは、ただ虚しいだけだと。
誰もいなくなる。
命は限りがあるからこそ、より輝き満ちる。
僕の秩序を守る死神だ。
美しい魂を導き、守るために永遠を生きている。
そして、僕を生かしているのは、彼女と交わした約束。
僕たちが救ったこの世界を、ずっと見守っていってほしいと、最愛の人が望んだから。
だから僕は、この世界で生きている。
この先もずっと、終わらない一生を続けていく。
それを――
「虚しいと思ってしまうのは、僕の弱さなのかな?」
「主が弱いのなら、この世の人間はどれも弱者になると思うぞ」
「ウル、ごめんねこんな所まで」
「今さら何を言うか。我の魂は主と共にある。それより良かったのか?」
「ノアのことかい?」
ガフッと鳴いて頷く。
「うん。きっと心配しているだろうね」
「怒っているやもしれんな」
「ははっ、確かにそれはあるな。勝手に一人で決めて、いなくなったんだし……怒られても仕方がない」
それでも僕は、彼女を守りたい。
彼女の魂を汚されたくない。
どれだけ怒られても、恨まれたとしても、そこだけは譲れない。
「なら、怒られるのは帰ってからだな」
「そうだね。まぁ、ちゃんと戻れたら、今度こそ真摯に答えよう」
「やはり気付いていたのか」
「当然だよ。僕はこれでも長生きだからね。人間の感情の機微には敏感だ」
「ならばなぜ、これまではぐらかしてきたのだ?」
「……怖かったからさ」
僕と彼女の生きる時間は違う。
永遠と有限では、決して同じ最後を迎えない。
僕はまた、見送る側になるだろう。
それが溜まらなく嫌で、怖かったんだと思う。
気持ちを通じ合わせてしまえば、最後に押し寄せるのは寒しさだと知っているから。
もう、あんな想いはしたくないと逃げていたんだ。
「だけど今は、凄く後悔しそうだ」
「しそう、か」
「うん」
僕は今日、もしかすると死ぬかもしれない。
今まで考えもしなかった。
自分が死ぬことなんてありえないと思っていたから。
僕の身体は死の恐怖を思い出しつつある。
そんな今だからこそ、伝えたい想いがハッキリしたのだと思う。
だから――
「今日も勝たせてもらうよ。シリス」
「やっと来たかよ……ユーレアス」
黒き森の奥地に、彼は優雅に座って待っていた。
この世で最も罪深い魂。
僕と同じ眼を持ち、同じ力を簒奪して、それを己が欲を満たすために使う者。
「何だ? あのおじょーさんは一緒じゃないのかよ」
「彼女なら留守番さ。これは僕と君の戦いだろう?」
「まぁそうだけどよ~ ギャラリーがいないのもつまらないもんだぜ」
むっくりとシリスは腰をあげる。
彼の周囲は木々や草が枯れ、朽ちかけている。
「やっとって言ったね?」
「あぁん?」
「あのセリフは、僕を待っていたと捉えてもいいのかな?」
「ああ、それで間違いないぜ? ようやく準備が出来たからなぁ」
シリスは大剣を召喚し、右手に持って切っ先を向ける。
僕も大鎌を取り出し、いつでも戦える態勢をとる。
「知ってるかぁ? 俺は魂を食らうことで、そいつの持っていた力を得ることが出来るんだぜぇ」
「そうらしいね。だけど、所詮君は君だ」
「違いねぇ! 前と一緒の俺じゃ、お前には勝てないかもなぁ~ そうでなくても、お前を超える奴なんて早々いねぇよ。だから苦労したんだぜ?」
そう言いながら、シリスは紅蓮の魂を取り出す。
黒とわずかにまじりあった魂。
「こいつを見つけるのはよぉ」
「それは……」
僕はその魂に懐かしさを感じた。
いいや、それ以上に恐ろしさを思い出す。
「七百年前、魔王には血を分けた眷属がいた。そいつらのほとんどは倒されたが、一人だけ生き残りがいたんだよ」
嫌な予感がしている。
彼の語りに耳を傾けながら、最悪の未来が浮かぶ。
「魔王が倒された後も、そいつは生き残った、そんでそいつの魂には、魔王の魂の一部も混ざっていたんだ」
「まさか……」
「これがそうだ! そして、俺は魂を食らうことで……」
ごくり。
シリスが紅蓮の魂を呑み込む。
次の瞬間、爆発音にも似た音が響き、周囲の木々が一斉に枯れる。
「魔王の力を得ることが出来るんだぜぇ!」
「っ……あー、最悪だよ」
嫌でも思い出してしまう。
身に纏うオーラと、重くのしかかるような魔力。
かつて共に戦い、辛くも勝利を納めた宿敵が、目の前に再び現れたようだ。
「こいつこそ! お前を殺せる最強の魂だ!」
シリスはデッドリードラゴンを呼ぶ。
ドラゴンの背に乗り、手を触れることで魔力を流し込む。
強化されたドラゴンの力は膨れ上がり、別物へと進化してしまう。
「さぁ楽しもうぜぇ死神ぃ! 本物の命をかけた殺し合いだ!」
「まったく、僕は楽しくないと言っただろう」
死闘――開幕。
人は誰しも永遠を求める。
限りある命を持つ者にとって、それは届くことのない理想だから。
だけど、僕は知っている。
永遠なんてものは、ただ虚しいだけだと。
誰もいなくなる。
命は限りがあるからこそ、より輝き満ちる。
僕の秩序を守る死神だ。
美しい魂を導き、守るために永遠を生きている。
そして、僕を生かしているのは、彼女と交わした約束。
僕たちが救ったこの世界を、ずっと見守っていってほしいと、最愛の人が望んだから。
だから僕は、この世界で生きている。
この先もずっと、終わらない一生を続けていく。
それを――
「虚しいと思ってしまうのは、僕の弱さなのかな?」
「主が弱いのなら、この世の人間はどれも弱者になると思うぞ」
「ウル、ごめんねこんな所まで」
「今さら何を言うか。我の魂は主と共にある。それより良かったのか?」
「ノアのことかい?」
ガフッと鳴いて頷く。
「うん。きっと心配しているだろうね」
「怒っているやもしれんな」
「ははっ、確かにそれはあるな。勝手に一人で決めて、いなくなったんだし……怒られても仕方がない」
それでも僕は、彼女を守りたい。
彼女の魂を汚されたくない。
どれだけ怒られても、恨まれたとしても、そこだけは譲れない。
「なら、怒られるのは帰ってからだな」
「そうだね。まぁ、ちゃんと戻れたら、今度こそ真摯に答えよう」
「やはり気付いていたのか」
「当然だよ。僕はこれでも長生きだからね。人間の感情の機微には敏感だ」
「ならばなぜ、これまではぐらかしてきたのだ?」
「……怖かったからさ」
僕と彼女の生きる時間は違う。
永遠と有限では、決して同じ最後を迎えない。
僕はまた、見送る側になるだろう。
それが溜まらなく嫌で、怖かったんだと思う。
気持ちを通じ合わせてしまえば、最後に押し寄せるのは寒しさだと知っているから。
もう、あんな想いはしたくないと逃げていたんだ。
「だけど今は、凄く後悔しそうだ」
「しそう、か」
「うん」
僕は今日、もしかすると死ぬかもしれない。
今まで考えもしなかった。
自分が死ぬことなんてありえないと思っていたから。
僕の身体は死の恐怖を思い出しつつある。
そんな今だからこそ、伝えたい想いがハッキリしたのだと思う。
だから――
「今日も勝たせてもらうよ。シリス」
「やっと来たかよ……ユーレアス」
黒き森の奥地に、彼は優雅に座って待っていた。
この世で最も罪深い魂。
僕と同じ眼を持ち、同じ力を簒奪して、それを己が欲を満たすために使う者。
「何だ? あのおじょーさんは一緒じゃないのかよ」
「彼女なら留守番さ。これは僕と君の戦いだろう?」
「まぁそうだけどよ~ ギャラリーがいないのもつまらないもんだぜ」
むっくりとシリスは腰をあげる。
彼の周囲は木々や草が枯れ、朽ちかけている。
「やっとって言ったね?」
「あぁん?」
「あのセリフは、僕を待っていたと捉えてもいいのかな?」
「ああ、それで間違いないぜ? ようやく準備が出来たからなぁ」
シリスは大剣を召喚し、右手に持って切っ先を向ける。
僕も大鎌を取り出し、いつでも戦える態勢をとる。
「知ってるかぁ? 俺は魂を食らうことで、そいつの持っていた力を得ることが出来るんだぜぇ」
「そうらしいね。だけど、所詮君は君だ」
「違いねぇ! 前と一緒の俺じゃ、お前には勝てないかもなぁ~ そうでなくても、お前を超える奴なんて早々いねぇよ。だから苦労したんだぜ?」
そう言いながら、シリスは紅蓮の魂を取り出す。
黒とわずかにまじりあった魂。
「こいつを見つけるのはよぉ」
「それは……」
僕はその魂に懐かしさを感じた。
いいや、それ以上に恐ろしさを思い出す。
「七百年前、魔王には血を分けた眷属がいた。そいつらのほとんどは倒されたが、一人だけ生き残りがいたんだよ」
嫌な予感がしている。
彼の語りに耳を傾けながら、最悪の未来が浮かぶ。
「魔王が倒された後も、そいつは生き残った、そんでそいつの魂には、魔王の魂の一部も混ざっていたんだ」
「まさか……」
「これがそうだ! そして、俺は魂を食らうことで……」
ごくり。
シリスが紅蓮の魂を呑み込む。
次の瞬間、爆発音にも似た音が響き、周囲の木々が一斉に枯れる。
「魔王の力を得ることが出来るんだぜぇ!」
「っ……あー、最悪だよ」
嫌でも思い出してしまう。
身に纏うオーラと、重くのしかかるような魔力。
かつて共に戦い、辛くも勝利を納めた宿敵が、目の前に再び現れたようだ。
「こいつこそ! お前を殺せる最強の魂だ!」
シリスはデッドリードラゴンを呼ぶ。
ドラゴンの背に乗り、手を触れることで魔力を流し込む。
強化されたドラゴンの力は膨れ上がり、別物へと進化してしまう。
「さぁ楽しもうぜぇ死神ぃ! 本物の命をかけた殺し合いだ!」
「まったく、僕は楽しくないと言っただろう」
死闘――開幕。
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