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28.凄惨な仕打ち

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 一年と半年。
 僕たちの旅は終着点へたどり着いた。
 長く険しい道のりは、ようやく終わりを迎えたんだ。

 魔王城の庭。
 こちらも激しい戦いが繰り広げられていた。
 押し寄せる魔王の配下たちを、リューラとグレイスが抑え込んでいた。
 が、唐突に敵の士気が下がる。
 二人は直感した。
 魔王が倒されたのだと。

 そして――

「「おかえり!」」
「「ただいま!」」

 僕たちは約束を果たした。
 
 その後、王を失った魔王軍は自然崩壊を始める。
 元々問題のあった組織だ。
 殺戮と略奪を繰り返し、奪った土地も放置してやりたい放題。
 そんなことで統治できるはずもなく、奪い返した土地は人類の手に戻った。
 酷く荒らされてしまったけど、頑張って復興していくしかない。
 何年、何十年先になるだろうか。
 世界が元の形になるまで、きっと長い時間がかかるんだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 王城へ帰還した僕たちを待っていたのは、国を挙げての賞賛だった。
 魔王討伐の知らせは、僕らが帰る前に伝わっていたらしい。
 残された国民全員で協力し、最大限のもてなしをしてくれた。
 しばらくお祭りみたいな日が続いて、楽しかったのを覚えている。

「ねぇねぇ! みんなはこれからどうするの?」
「わたしは里に戻るわ。ずっと留守にしているし、仲間が心配していると思うから」
「だったら俺はリューについて行くぞ」
「グレイスも?」
「おう! 里にはリューの両親もいるんだろ? だったらちゃんとあいさつしとかないとな」

 グレイスの発言は、つまりそういう意味だった。
 アイラがニヤっと笑みを浮かべる。
 赤くなったリューラが、思い切りグレイスの腹をパンチして言う。

「お、おい馬鹿!」
「うっ、何すんだよ!」
「そんなこと言ったらバレるだろ!」
「心配は無用さ。二人の関係なら、とっくの昔に知っている」
「なっ……」
「ほらな?」

 リューラは悶えそうなくらい恥ずかしくてたまらない様子。
 グレイスは自慢げに笑っている。
 最初に出会ったばかりの二人は、お世辞にも仲がいいとは言えなかった。

 引きこもりで世間に無頓着。
 デリカシー皆無のグレイスと、しっかり者で男性嫌いなリューラ。
 混ぜるな危険の組み合わせは、いつの間にか混ざり合っていて、綺麗な色を生み出していた。
 その様子を、僕とアイラはこっそり見守っていたんだよ。

「ちょっと早いけど、おめでとう!」
「ぅ……ありがとう」

 アイラは屈託のない笑顔を見せる。
 恥ずかしがっていたリューラも、素直に感謝の言葉を口にした。

「そ、それでアイラはどうするの?」
「私? う~ん……私も村に戻ろうかな~」
「そう。落ち着いたら遊びに行っても良い?」
「もちろん! 先に私から行くかも!」

 二人が楽しそうに話している横で、グレイスが僕に尋ねてくる。

「お前はついていかなくて良いのか?」
「はははっ、それも魅力的だね。でも、僕はしばらくここに残るよ。復興の手伝いをしながらのんびり過ごして、飽きたらまた放浪の旅に出ようかな」
「あーそうか。お前って元々旅人だったんだよな」
「うん。イルとの約束も継続中だし、戦いが終わってもこんな状況だからね。世界中で行き場を失った魂が漂っているかもしれない」

 僕には僕の役割がある。
 人の一生のように限りある命ではないから気楽なものだ。

「お前を遊びに来いよな」
「うん、期待してるよ」
「はっ! こっちのセリフだ」

 その翌日。
 リューラとグレイスは旅立っていった。
 また会おうと約束を交わして、手を振って見送った。

 さらに翌々日。
 アイラが村へ出発することに。

「じゃあまたね」
「うん。旅の途中で近くを通りかかったら、必ず顔を出すよ」
「絶対だよ?」
「もちろんだとも」

 アイラが僕の顔をじっと見つめる。
 何かを言いたげな顔だ。

「アイラ?」
「ううん、何でもない。次に会った時に伝えるよ!」
「おや? よくわからないけど、楽しみにしているよ」

 僕とアイラは握手を交わし、彼女からハグされる。
 元気いっぱいに手を振って、王都の街を離れていった。

 一人になった僕は、言っていた通りに復興の手伝いをしながらのんびり過ごしていた。
 世界を救った英雄だ。
 王城での待遇はとても良い。
 居心地は最高によかったけど、時折感じる嫌な視線もあった。
 その視線の正体に気付きながらも、僕は深く考えないようにしていたんだ。

 そうして――

「ぐっ……これは?」
「すまないな、ユーレアス殿。これ以上、君たちに良い顔をされては困るんだよ」

 食事の席で毒を盛られ、身体がしびれて意識を失う。
 その折、僕は思い出していた。

 前たちは人間の愚かさを知らない。
 断言しよう。
 お前たちはいずれ、救った人間に裏切られる!

 魔王が最後に残した言葉。
 あの言葉の意味を、僕は身をもって体感していた。
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