28 / 50
28.凄惨な仕打ち
しおりを挟む
一年と半年。
僕たちの旅は終着点へたどり着いた。
長く険しい道のりは、ようやく終わりを迎えたんだ。
魔王城の庭。
こちらも激しい戦いが繰り広げられていた。
押し寄せる魔王の配下たちを、リューラとグレイスが抑え込んでいた。
が、唐突に敵の士気が下がる。
二人は直感した。
魔王が倒されたのだと。
そして――
「「おかえり!」」
「「ただいま!」」
僕たちは約束を果たした。
その後、王を失った魔王軍は自然崩壊を始める。
元々問題のあった組織だ。
殺戮と略奪を繰り返し、奪った土地も放置してやりたい放題。
そんなことで統治できるはずもなく、奪い返した土地は人類の手に戻った。
酷く荒らされてしまったけど、頑張って復興していくしかない。
何年、何十年先になるだろうか。
世界が元の形になるまで、きっと長い時間がかかるんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王城へ帰還した僕たちを待っていたのは、国を挙げての賞賛だった。
魔王討伐の知らせは、僕らが帰る前に伝わっていたらしい。
残された国民全員で協力し、最大限のもてなしをしてくれた。
しばらくお祭りみたいな日が続いて、楽しかったのを覚えている。
「ねぇねぇ! みんなはこれからどうするの?」
「わたしは里に戻るわ。ずっと留守にしているし、仲間が心配していると思うから」
「だったら俺はリューについて行くぞ」
「グレイスも?」
「おう! 里にはリューの両親もいるんだろ? だったらちゃんとあいさつしとかないとな」
グレイスの発言は、つまりそういう意味だった。
アイラがニヤっと笑みを浮かべる。
赤くなったリューラが、思い切りグレイスの腹をパンチして言う。
「お、おい馬鹿!」
「うっ、何すんだよ!」
「そんなこと言ったらバレるだろ!」
「心配は無用さ。二人の関係なら、とっくの昔に知っている」
「なっ……」
「ほらな?」
リューラは悶えそうなくらい恥ずかしくてたまらない様子。
グレイスは自慢げに笑っている。
最初に出会ったばかりの二人は、お世辞にも仲がいいとは言えなかった。
引きこもりで世間に無頓着。
デリカシー皆無のグレイスと、しっかり者で男性嫌いなリューラ。
混ぜるな危険の組み合わせは、いつの間にか混ざり合っていて、綺麗な色を生み出していた。
その様子を、僕とアイラはこっそり見守っていたんだよ。
「ちょっと早いけど、おめでとう!」
「ぅ……ありがとう」
アイラは屈託のない笑顔を見せる。
恥ずかしがっていたリューラも、素直に感謝の言葉を口にした。
「そ、それでアイラはどうするの?」
「私? う~ん……私も村に戻ろうかな~」
「そう。落ち着いたら遊びに行っても良い?」
「もちろん! 先に私から行くかも!」
二人が楽しそうに話している横で、グレイスが僕に尋ねてくる。
「お前はついていかなくて良いのか?」
「はははっ、それも魅力的だね。でも、僕はしばらくここに残るよ。復興の手伝いをしながらのんびり過ごして、飽きたらまた放浪の旅に出ようかな」
「あーそうか。お前って元々旅人だったんだよな」
「うん。イルとの約束も継続中だし、戦いが終わってもこんな状況だからね。世界中で行き場を失った魂が漂っているかもしれない」
僕には僕の役割がある。
人の一生のように限りある命ではないから気楽なものだ。
「お前を遊びに来いよな」
「うん、期待してるよ」
「はっ! こっちのセリフだ」
その翌日。
リューラとグレイスは旅立っていった。
また会おうと約束を交わして、手を振って見送った。
さらに翌々日。
アイラが村へ出発することに。
「じゃあまたね」
「うん。旅の途中で近くを通りかかったら、必ず顔を出すよ」
「絶対だよ?」
「もちろんだとも」
アイラが僕の顔をじっと見つめる。
何かを言いたげな顔だ。
「アイラ?」
「ううん、何でもない。次に会った時に伝えるよ!」
「おや? よくわからないけど、楽しみにしているよ」
僕とアイラは握手を交わし、彼女からハグされる。
元気いっぱいに手を振って、王都の街を離れていった。
一人になった僕は、言っていた通りに復興の手伝いをしながらのんびり過ごしていた。
世界を救った英雄だ。
王城での待遇はとても良い。
居心地は最高によかったけど、時折感じる嫌な視線もあった。
その視線の正体に気付きながらも、僕は深く考えないようにしていたんだ。
そうして――
「ぐっ……これは?」
「すまないな、ユーレアス殿。これ以上、君たちに良い顔をされては困るんだよ」
食事の席で毒を盛られ、身体がしびれて意識を失う。
その折、僕は思い出していた。
前たちは人間の愚かさを知らない。
断言しよう。
お前たちはいずれ、救った人間に裏切られる!
魔王が最後に残した言葉。
あの言葉の意味を、僕は身をもって体感していた。
僕たちの旅は終着点へたどり着いた。
長く険しい道のりは、ようやく終わりを迎えたんだ。
魔王城の庭。
こちらも激しい戦いが繰り広げられていた。
押し寄せる魔王の配下たちを、リューラとグレイスが抑え込んでいた。
が、唐突に敵の士気が下がる。
二人は直感した。
魔王が倒されたのだと。
そして――
「「おかえり!」」
「「ただいま!」」
僕たちは約束を果たした。
その後、王を失った魔王軍は自然崩壊を始める。
元々問題のあった組織だ。
殺戮と略奪を繰り返し、奪った土地も放置してやりたい放題。
そんなことで統治できるはずもなく、奪い返した土地は人類の手に戻った。
酷く荒らされてしまったけど、頑張って復興していくしかない。
何年、何十年先になるだろうか。
世界が元の形になるまで、きっと長い時間がかかるんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王城へ帰還した僕たちを待っていたのは、国を挙げての賞賛だった。
魔王討伐の知らせは、僕らが帰る前に伝わっていたらしい。
残された国民全員で協力し、最大限のもてなしをしてくれた。
しばらくお祭りみたいな日が続いて、楽しかったのを覚えている。
「ねぇねぇ! みんなはこれからどうするの?」
「わたしは里に戻るわ。ずっと留守にしているし、仲間が心配していると思うから」
「だったら俺はリューについて行くぞ」
「グレイスも?」
「おう! 里にはリューの両親もいるんだろ? だったらちゃんとあいさつしとかないとな」
グレイスの発言は、つまりそういう意味だった。
アイラがニヤっと笑みを浮かべる。
赤くなったリューラが、思い切りグレイスの腹をパンチして言う。
「お、おい馬鹿!」
「うっ、何すんだよ!」
「そんなこと言ったらバレるだろ!」
「心配は無用さ。二人の関係なら、とっくの昔に知っている」
「なっ……」
「ほらな?」
リューラは悶えそうなくらい恥ずかしくてたまらない様子。
グレイスは自慢げに笑っている。
最初に出会ったばかりの二人は、お世辞にも仲がいいとは言えなかった。
引きこもりで世間に無頓着。
デリカシー皆無のグレイスと、しっかり者で男性嫌いなリューラ。
混ぜるな危険の組み合わせは、いつの間にか混ざり合っていて、綺麗な色を生み出していた。
その様子を、僕とアイラはこっそり見守っていたんだよ。
「ちょっと早いけど、おめでとう!」
「ぅ……ありがとう」
アイラは屈託のない笑顔を見せる。
恥ずかしがっていたリューラも、素直に感謝の言葉を口にした。
「そ、それでアイラはどうするの?」
「私? う~ん……私も村に戻ろうかな~」
「そう。落ち着いたら遊びに行っても良い?」
「もちろん! 先に私から行くかも!」
二人が楽しそうに話している横で、グレイスが僕に尋ねてくる。
「お前はついていかなくて良いのか?」
「はははっ、それも魅力的だね。でも、僕はしばらくここに残るよ。復興の手伝いをしながらのんびり過ごして、飽きたらまた放浪の旅に出ようかな」
「あーそうか。お前って元々旅人だったんだよな」
「うん。イルとの約束も継続中だし、戦いが終わってもこんな状況だからね。世界中で行き場を失った魂が漂っているかもしれない」
僕には僕の役割がある。
人の一生のように限りある命ではないから気楽なものだ。
「お前を遊びに来いよな」
「うん、期待してるよ」
「はっ! こっちのセリフだ」
その翌日。
リューラとグレイスは旅立っていった。
また会おうと約束を交わして、手を振って見送った。
さらに翌々日。
アイラが村へ出発することに。
「じゃあまたね」
「うん。旅の途中で近くを通りかかったら、必ず顔を出すよ」
「絶対だよ?」
「もちろんだとも」
アイラが僕の顔をじっと見つめる。
何かを言いたげな顔だ。
「アイラ?」
「ううん、何でもない。次に会った時に伝えるよ!」
「おや? よくわからないけど、楽しみにしているよ」
僕とアイラは握手を交わし、彼女からハグされる。
元気いっぱいに手を振って、王都の街を離れていった。
一人になった僕は、言っていた通りに復興の手伝いをしながらのんびり過ごしていた。
世界を救った英雄だ。
王城での待遇はとても良い。
居心地は最高によかったけど、時折感じる嫌な視線もあった。
その視線の正体に気付きながらも、僕は深く考えないようにしていたんだ。
そうして――
「ぐっ……これは?」
「すまないな、ユーレアス殿。これ以上、君たちに良い顔をされては困るんだよ」
食事の席で毒を盛られ、身体がしびれて意識を失う。
その折、僕は思い出していた。
前たちは人間の愚かさを知らない。
断言しよう。
お前たちはいずれ、救った人間に裏切られる!
魔王が最後に残した言葉。
あの言葉の意味を、僕は身をもって体感していた。
0
お気に入りに追加
287
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する
もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。
だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
召喚から外れたら、もふもふになりました?
みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。
今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。
すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。
気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!?
他視点による話もあります。
❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。
メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる