転生するなら人間がいいな〜 〈零〉

壱章 沈黙ノ“トウキョウ”街

さん 文殊。

『召喚しなければ…！！』
少女はそう言いながら、息絶え絶えに走った。

薄く紫かかった、キラキラとした短い黒髪の均等に切られた毛先を乱す。

あったかそうなガウンから、今にも湯気が出てきそうなほど走る。

走りながら、人目のつかない場所まで行く。

『……“召喚サモン”っ！』

そう唱えると同時に、大型の魔法陣が宙へ浮かぶ。

様々なシルエットが浮かび、いくつか光る。

桜、音符、そしてスマホのシルエット。

それぞれのシルエットは、召喚される、またはされた異世界人を表している。

されているものは赤く、されていないものは白く光る。

そして一つだけ、雪のシルエットだけは黒く塗りつぶされていた。

召喚するには、体力が大幅に消耗され、魔力もごっそり消える。

『………これで、どうに………かっ……！』

そう言いながら、少女ソラはフカフカの草原に倒れた。

目眩と頭痛で、意識を失った。

そして呼び出されたのは、3人。

『………ここは？』

1人目、眼鏡をかけた茶髪の女性。

その容姿はあの化け物殺人鬼と同い年と言える。

均等に切られた前髪とポニーテール、橙色のパーカーが印象的だ。

その手には現代人らしく、スマホが握られている。

『な、なんだ？』

2人目、グレーのパーカーの少年。

見た目は中学生くらいで、黒縁の眼鏡をかけている。

パーカーには不思議な模様が描かれており、着心地の良さそうな長ズボンを履いている。

ちょこんとはねた、紫がかったサラサラの黒髪のアホ毛が目立つ。

頬と左手にかかる黒い色は、宇宙族スペースマンに変異してしまった印である。

『なんすかここ……。』

3人目、栗色の髪の少年。

同じく中学生くらいの背丈に、灰色の狼のような耳が目立つ。

獣人族ビーストマンに変異してしまったのだろう。

薄いアクアマリン色のパーカーと桜の模様、大きなしっぽが揺れる。

片目は隠れており、薄らクマが浮かぶ。

3人は動揺している。

『……ヤバくない！？』
『だよな！？え、マジでここどこ！？』
『わかんないっす！わかんないっすよ！』
『……てかあたし達ってなんで呼ばれたのかな……？』
『え？……なんかあそこ倒れてねぇか？』
『この場合どうすればいいんすか！？』
『いやあたしに聞かないで…あたしわかんない。』
『俺もパス』
『俺もわかんないっす！！』

倒れたソラを見ながら、どうするかを議論していると、当の本人であるソラが目を覚ました。

『ん………あ…』
『ねぇ起きたっす！』
『……ねぇ、あなた大丈夫そう？立てる？』
『怪我してねぇか……なら良かったぜ。』
『………あっ！召喚できた…！』
『………は？どゆことっすか！？』
『あ……なんでもないです……えと、はじめまして。ソラって言います。』
『あ、えっ急だな？………あぁえっと……シンです。』
『サクラだよ～』
『……クウマっす。』

それぞれ軽く自己紹介を済ますと、ソラは一枚の写真を取り出す。

『……あのっ！お願いがあるんです…！この人を止めて欲しいんですッ！』

ソラは、ユキの映る写真を見せる。

その写真はあまりにも惨たらしい…アリサ殺害直後の写真だった。

『……………う…………そ…………』

サクラは動揺した。

親友で、心優しくて、虫すら殺せないような可憐な少女が、

血塗れになって、死体の前に佇んでいた。

『ぅげ………なんちゅう写真なんだよ。』

シンは吐き気を覚える。

死体も写っている写真を見せれば、誰でもそうなる。

思わず目を伏せてしまうほど、惨たらしく感じた。

『！？』

クウマは驚愕した。

小さい頃に恋した女性。

そんな人が、目の前にいた。

その出来事で、彼は盲目になり、死体や血液に気付かずに魅入っていた。

ただただ、彼女の猟奇的なまでに美しい笑顔に惹かれていた。

『お願いします………もう他に頼れないんです………！』

そう言って、泣きながらソラは頼み込んだ。

『………分かった……やって、みる………。』
『りょーかい、やれるだけやって見るぜ…うげ。』
『……また会えるっす……！やったっす…！！』

それぞれ別々に決意し、行動に移した。

誰も止められないと知りながら、ソラは残酷な決断を下したのだった。