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第参章 陰キャの心、熱を出す

7節目 またね

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戦っていて、気づけば数時間が経っていた。
さすがにアリサの魔法効果が切れたので、アリサに魔法を付与してもらおうとしたその瞬間だった。
カリスはその隙を見て攻撃した。
私は体を逸らして避けた。そして…。
サクラに当たった。
『え?なにが……。』
ガシャンと、何かが壊れる音がした。
ドカッと鈍い音がした。
「サクラ!?サクラ!!大丈夫!?しっかりして!!」
咄嗟に叫んだ私。しかし、遅かった。
サクラは全身火傷の意識不明の重症。しかも、火傷は筋肉が見えるほど酷く、全身からは血が溢れている。
慌ててきたソラたちが回復するも、
全身火傷のあとがのこり、傷ついた内臓や骨は治らなかった。。
この状態で戦闘を続けるのは不利だ。
それでも戦闘を続けないと死んでしまう。
ひとまず私とレオンはさらなる犠牲を出さないために、戦いに集中した。
焦っているせいか、
レオンが涙を流していることに気づいた。
きっとサクラが好きだったのかな。
それとも姉として……はないか。

『守れなくて……ごめんね……まだ生きて…。お願い……同じようには…。』
と小さく小さく呟きながら、レオンは戦っていた。
私も集中しないと!サクラのためにも!
『グワアアアアアアアア!!!』
レオンの氷攻撃はカリスに結構なダメージを与えていたようで、数分でカリスが倒れた。
『………グッ……イッ!!』
倒れた瞬間にカリスは、竜からの姿になった。
浅黒い肌に真炎と深緑の色をしたオッドアイ、赤メッシュの入った黒髪を生やし青いマフラーを身につけたそれカリスは、横に倒れ傷だらけだった。
「サクラっ!!」
私は慌ててサクラのところへ駆けつけた。
サクラはかろうじて意識を取り戻したが、
頭から血が出ており、内臓出血が酷いせいか意識が朦朧としている様子。
『……ユキ…?』
彼女のそばには、先ほどまで使っていたパソコンがボロボロに破壊された状態で落ちており、
飛ばされた衝撃で破れたリュックが物を散乱させながら転がっていた。
『ユキ………あたしは……………あたしはほんとに幸せだった………最期に………ユキにあえて………ほんとに…………ほんとによかったっ………』
サクラはまるで遠い記憶を探るように、
少しずつ言葉を紡いだ。
そして、ひとこと。

そう言って、眠るように力無く倒れる。
私はしばらく、サクラを抱えることしか出来なかった。
アリサは『私がもっと……いい魔法を覚えてればこんなことに……どうしてぇ……。』と泣きながら呟いている。
シンは、みんなから見えないところで小刻みに揺れている。どうやら起きたことを理解したくないらしい。
『サクラ……うぅ…言えなかったけど……好きだったよ………ぐっ………守れなくて……言えなくてっ……ごめんねっ!!…………ぅう……一目惚れだったんだっ…君みたいな女性に出会えてっっ……本当に良かったっっ……………うぁあ……』
レオンは子供みたいに顔をクシャクシャにして、嗚咽を漏らしながら泣いていた。
ソラは何も言わずに、ただただ必死に回復魔法を泣きながらかけていた。
私はサクラを軽く揺さぶる。
「サクラ……死なないでよサクラ!!
…ぅう………お願いっ………あなたがいないと私ぃ………うぅ……お願いだよサクラぁ!!死なないでよぅ!!ねぇ、ぅう…お願い……死なないでよぉ……私より先にっ…………まだ………恩返しもぅ………感謝もできてないのにっ…………ううううっ……嫌だ………うわぁぁああああぁぁあああああああ!!!!!」
私はサクラを抱えながら
…ただ
しばらく泣くことしか出来なかった。

初めての親友。

初めて打ち解けた、大切な人。

父も母も居ない私にとって、唯一の信頼できる人。
私にとって…大事な存在。





私は、何が出来るのだろう?

…ワガママかもしれない。

サクラはここで尽きる運命なのかもしれない。

認めたくない。



サクラが死ぬなんて…嫌だ。

……

私はサクラを運んで、街まで走った。

走れっ…止まるなっ………私っ…

走りなれてないから、息も絶え絶えで

何回も転びそうになりながら、

それでも走った。

涙を流しながら、「サクラ、お願いっ」と声をかけながら。

一番近くの街のトウキョウタウンの町外れの病院に行った。

どうやって下山したのか、分からない。

残り四人はひとまずカリスに情報を聞くように託した。

もう……走れない。

頭が働かない。

脚はもう動かない。

サクラを病院へ連れて行ってからは、

もう、なにも覚えていない。



☆☆☆☆☆☆☆

数時間が経ち、日が沈んできた頃。

暑い夏の風は涼しくなり始める。

蝉たちの声は静まり返り、

鈴虫の合唱が響く。

川を楽しそうに飛び回る蛍たちは、

辺りを照らしている。

病室に眠る1人の少女サクラと、

それを不安そうに見守る獣人わたし

私は震える声で言う。

「サクラ……大丈夫…私がいるから…。」

……怖い。

サクラは病院へ来てから一言も喋っていなかった。

この世界は医療に関しては地球より優れていたので、手術は早かった。

サクラはまだ目を覚まさない。

このまま死んでしまいそうで、怖い。

戦闘後意識が数分戻ったが、また意識を失い、今に至る。

彼女はこのまま死ぬのだろうか。

不安で不安で、涙を堪えられない。

病院の先生は、成功率が50%と言っていた。

沢山の点滴や生命維持装置に繋がれた少女を見て、

は、

涙を浮かべて、1人の少女を見る。

そして。




『…………ユキ……?』




奇跡が起きた。

少女が、目を覚ましたのだ。

☆☆☆☆☆☆☆

ここは、どこだ。
六人の冒険者にやられた。
どうやらワタシは意識を失っているようだ。
というか、疲労で寝ているだけのよう。
身体中が痛い。
六人のうちの一人を倒したが、
その後に倒されてしまったみたいだ。
まだ小娘に、いや彼女にお礼ができてない。
まだ死ねないというのに、ワタシは倒された。
嗚呼、このまま私は天に召されるのだろう。
今度転生したら、彼女のそばに仕えたい。
ワタシは許されざることをしただろう。
何人のも冒険者の命を奪った。
転生は許されない。
それでも、



………それか。



…そうワタシは思った。
すると、体の方が目覚めた。
どうやらワタシは死んでいないようだ。
すると、先程の冒険者四人が
ワタシの顔を覗き込んだ。
あの紫髪の剣士はいないようだ。
そしてそのうちの一人が
『どうして……くれるんだ…!』
と激怒している。 
金髪の猫である。
男の癖に、
みっともないぐらい涙を流していた。
嗚呼、少年よ。
すまなかった、と思う。
今はもう許されないが。
ワタシはこいつらに、
とどめを刺されるのだろうか?
大切な何かを成し遂げられずに、
このまま、天に召されるのか…?



そう思った途端、
涙が一粒、ワタシの瞳からこぼれ落ちる。
まだ彼女にお礼ができてないことも、
命を絶たれる恐怖も、
大切なものを忘れた悔しさも、
全ての絶望が、悔しさがその涙に詰まっていた。
しかしワタシは、運命を受け入れようとした。
運命には逆らえない。




ワタシの罪は、許されないのだ。
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