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夏目恋雪
きえてしまおう
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9月4日
あの日のことが頭に離れない
もう、僕は
生きる理由がなくなった
赤色のアネモネ
白色のユリ
僕は
花束を抱えていた
高嶺さんに花束を
持っていくために
踏切の音が鳴る
遮断機が下がる
心臓の音が響く
フラッシュバックする
光が当たる
蝉の声が記憶を呼び起こす
涙が溢れる
髪が靡く
帽子が飛んでいく
風が
夏の終わりを知らせる
今から
逢いに行く
ねぇ、麗ちゃん
麗ちゃんは、怖くなかったのかな
ブレーキ音が響く
宙を舞う
痛みはなかった
地面が近づいて
僕は
そのまま
………
…………
……………………
僕は
目が覚めた。
白い天井
耳障りな機械音
腕に繋がれた管
鈍い痛み
母のすすり泣く声
ここは
………病院。
僕は…
生き残ってしまった。
ラズベリーのパイが置いてある
僕の
好物
今はいらない
そんなもの
麗ちゃんに比べたら
僕の
心は
…壊れた
そう思いこんでいた
『恋雪ちゃん』
不意に
声が聞こえた
震えた
涙が
溢れ出した
「……麗…ちゃん…?」
白い髪
橙色の瞳
雪のように透き通った肌
紛れもない
彼女だ
高嶺さんだ。
僕は
手を、伸ばした
彼女を求めて
幻でもいい
少しだけでも
繋ぎ止めていたかった
『ごめんね』
僕は…
手を、
下ろした
『私、あんな酷いこと言っちゃって…ごめんね……』
優しい言葉
僕はあんなに酷いことを言ったのに
涙が止まらない
『恋雪ちゃん……私のために……高橋さんを叩いたんでしょう…?』
小さく、頷いた
『私ね………どうすればいいのか分からなかったの…』
嗚咽が止まらない
息が出来ない
『恋雪ちゃんが…私のために……私のせいで………暴力に走ったんじゃないかって…』
首を横に振る
ぜんぶ、僕の判断
僕が悪いの
だから
僕は
『恋雪ちゃん………私から1つ…お願いがあるの』
僕は
じっと
聞き入れた
『生きて』
息が
詰まった
『私のことを忘れてとは言わない…でもね…恋雪ちゃんには生きて欲しいから…』
手を
伸ばした
空を切った
『ごめんね……恋雪ちゃん…』
涙を拭った
止まらなかった
『またね…恋雪ちゃん…』
霧が晴れるように
白い肌の少女は
消えた。
陽炎だったのか
幻影だったのか
未だに分からない
でも
しかたないから
僕は
生きることにした。
世界はまだ
灰色だったけど
僕は
生きた。
いつの間にか
僕は
麗ちゃんのことはもう忘れて
中学を卒業して
普通の女の子のように恋をして
交際して
高校を卒業して
仕事して
僕は
気づけば
20歳になっていた。
_________
1月6日
成人式。
この日は、かつてのクラスメイト達が集まっていた。
遠くの方に、彼らがいた。
『よ、夏目…あんた美人さんになったじゃん』
佐々木龍壱は、足に障害を残しながらも金髪の妖艶な女性と結婚を誓ったらしい。
「足……ごめんね」
『…んじゃ、今度俺の居酒屋で食いにこい!それで許してやる』
「うん、わかった」
そうして、僕は佐々木と話した。
『あら、夏目さん…お久しぶりです。』
三田菜波は、そこそこ有名な大学に行っていて、植物の研究をしているらしい。
「首……ごめんね」
『…ふん、まだあのことは許してないんだからね。……でも、私も悪かった。高根さんのことは…本当に申し訳ない。』
「…」
『私、高橋くんと一緒にさ、高根さんの親御さんにお金…払ってるんだ。本当に反省してる。』
「…わかった」
こうして、僕は三田と話した。
『あ…………夏目……』
戸高綺羅々は、漫画家をめざして親のスネを齧っているらしい。
「顔……ごめんね」
『あんたほんっと…最低……うちまだ許してないからっ』
「…」
『あんたさ、高根さんのこと守りたいとか何とか知らないけどね、もう少し方法ってものが…ある……………はぁ、うちも悪かったよ。…高根さんによろしく…』
「…うん」
こうして、僕は戸高と話した。
僕は、幸せそうな彼らを見て
少しだけ
羨ましいと思った。
まだ、彼らを許しはできないけど
反省は…少しだけ、したみたいだから
今は、見逃しておこう。
そう、ぼーっとしていると、誰かが喋りかけてきた。
『…な、夏目…か?久しぶり……だな。』
声の主は、高橋翔介だった。
「…久しぶり。」
『なぁ、聞いたよ…高根のこと……本当に……無念…だったな。』
「……」
『俺…アレから高根のために贖罪として…高根の家族に金を送ってるんだ…………元々は俺のせいなんだ。』
「知ってる………君が、主犯だってこと………ごめん、高橋くん。…今でも僕、やっぱり君のことが許せない。」
『………わかってる…………なぁ夏目…………俺、どんなに謝っても……許されないことは知ってる………でもこれだけは言わせてくれ………本当に、すまんかった。』
「………」
『あの……………この成人式が終わったらさ、一緒に高根に線香…あげに行ってもいいか……?』
「……うん……いいよ」
そうして、僕は
高橋と一緒に行くことになった。
成人式が終わった。
僕は、晴れ着姿のまま
スーツ姿の高橋翔介と共に
墓地へ行った。
寂れた墓地には、お墓がズラリと並んでいて
そのひとつに、高根家之墓と掘られていた。
僕は、水をかけて
菊の花束を置いて
お線香を灯した。
『夏目、ありがとな。』
「…うん、気をつけて帰って」
『……高根、すまなかった。』
高橋はそのまま礼をして、帰っていった。
僕は、高根を想った。
カラスが鳴いていた。
いないはずの、蝉の声が聞こえた。
肌寒い風が、肌を撫でる。
僕は、高根さんに伝えたかった。
君に
伝えたいことがあるんだ。
高根さん……いや
麗ちゃん。
君がいってしまってから、
君に悲しいほどに
とり憑かれてしまいたいと
そう思っていました。
でも、
君が
あの日
僕の枕元に出てきてくれて
生きて、って
言ってくれたから
ここまで来れました。
今も麗ちゃんに逢いたいし
麗ちゃんのことが好きです。
でも、麗ちゃんが帰ってこないことはもう、わかります。
麗ちゃんと逢うのは、ずっと先になるでしょう。
今すぐにでも逢いたいけれど、
麗ちゃんに怒られてしまうから
何とか生きてみます。
頑張って生きていきます。
優しい麗ちゃんのことを、ずっと想ってます。
愛しています。
そして
安らかに眠ってください。
最後に
ありがとう。
ごめんなさい。
僕の愛した君へ、
高根さんに花束を。
あの日のことが頭に離れない
もう、僕は
生きる理由がなくなった
赤色のアネモネ
白色のユリ
僕は
花束を抱えていた
高嶺さんに花束を
持っていくために
踏切の音が鳴る
遮断機が下がる
心臓の音が響く
フラッシュバックする
光が当たる
蝉の声が記憶を呼び起こす
涙が溢れる
髪が靡く
帽子が飛んでいく
風が
夏の終わりを知らせる
今から
逢いに行く
ねぇ、麗ちゃん
麗ちゃんは、怖くなかったのかな
ブレーキ音が響く
宙を舞う
痛みはなかった
地面が近づいて
僕は
そのまま
………
…………
……………………
僕は
目が覚めた。
白い天井
耳障りな機械音
腕に繋がれた管
鈍い痛み
母のすすり泣く声
ここは
………病院。
僕は…
生き残ってしまった。
ラズベリーのパイが置いてある
僕の
好物
今はいらない
そんなもの
麗ちゃんに比べたら
僕の
心は
…壊れた
そう思いこんでいた
『恋雪ちゃん』
不意に
声が聞こえた
震えた
涙が
溢れ出した
「……麗…ちゃん…?」
白い髪
橙色の瞳
雪のように透き通った肌
紛れもない
彼女だ
高嶺さんだ。
僕は
手を、伸ばした
彼女を求めて
幻でもいい
少しだけでも
繋ぎ止めていたかった
『ごめんね』
僕は…
手を、
下ろした
『私、あんな酷いこと言っちゃって…ごめんね……』
優しい言葉
僕はあんなに酷いことを言ったのに
涙が止まらない
『恋雪ちゃん……私のために……高橋さんを叩いたんでしょう…?』
小さく、頷いた
『私ね………どうすればいいのか分からなかったの…』
嗚咽が止まらない
息が出来ない
『恋雪ちゃんが…私のために……私のせいで………暴力に走ったんじゃないかって…』
首を横に振る
ぜんぶ、僕の判断
僕が悪いの
だから
僕は
『恋雪ちゃん………私から1つ…お願いがあるの』
僕は
じっと
聞き入れた
『生きて』
息が
詰まった
『私のことを忘れてとは言わない…でもね…恋雪ちゃんには生きて欲しいから…』
手を
伸ばした
空を切った
『ごめんね……恋雪ちゃん…』
涙を拭った
止まらなかった
『またね…恋雪ちゃん…』
霧が晴れるように
白い肌の少女は
消えた。
陽炎だったのか
幻影だったのか
未だに分からない
でも
しかたないから
僕は
生きることにした。
世界はまだ
灰色だったけど
僕は
生きた。
いつの間にか
僕は
麗ちゃんのことはもう忘れて
中学を卒業して
普通の女の子のように恋をして
交際して
高校を卒業して
仕事して
僕は
気づけば
20歳になっていた。
_________
1月6日
成人式。
この日は、かつてのクラスメイト達が集まっていた。
遠くの方に、彼らがいた。
『よ、夏目…あんた美人さんになったじゃん』
佐々木龍壱は、足に障害を残しながらも金髪の妖艶な女性と結婚を誓ったらしい。
「足……ごめんね」
『…んじゃ、今度俺の居酒屋で食いにこい!それで許してやる』
「うん、わかった」
そうして、僕は佐々木と話した。
『あら、夏目さん…お久しぶりです。』
三田菜波は、そこそこ有名な大学に行っていて、植物の研究をしているらしい。
「首……ごめんね」
『…ふん、まだあのことは許してないんだからね。……でも、私も悪かった。高根さんのことは…本当に申し訳ない。』
「…」
『私、高橋くんと一緒にさ、高根さんの親御さんにお金…払ってるんだ。本当に反省してる。』
「…わかった」
こうして、僕は三田と話した。
『あ…………夏目……』
戸高綺羅々は、漫画家をめざして親のスネを齧っているらしい。
「顔……ごめんね」
『あんたほんっと…最低……うちまだ許してないからっ』
「…」
『あんたさ、高根さんのこと守りたいとか何とか知らないけどね、もう少し方法ってものが…ある……………はぁ、うちも悪かったよ。…高根さんによろしく…』
「…うん」
こうして、僕は戸高と話した。
僕は、幸せそうな彼らを見て
少しだけ
羨ましいと思った。
まだ、彼らを許しはできないけど
反省は…少しだけ、したみたいだから
今は、見逃しておこう。
そう、ぼーっとしていると、誰かが喋りかけてきた。
『…な、夏目…か?久しぶり……だな。』
声の主は、高橋翔介だった。
「…久しぶり。」
『なぁ、聞いたよ…高根のこと……本当に……無念…だったな。』
「……」
『俺…アレから高根のために贖罪として…高根の家族に金を送ってるんだ…………元々は俺のせいなんだ。』
「知ってる………君が、主犯だってこと………ごめん、高橋くん。…今でも僕、やっぱり君のことが許せない。」
『………わかってる…………なぁ夏目…………俺、どんなに謝っても……許されないことは知ってる………でもこれだけは言わせてくれ………本当に、すまんかった。』
「………」
『あの……………この成人式が終わったらさ、一緒に高根に線香…あげに行ってもいいか……?』
「……うん……いいよ」
そうして、僕は
高橋と一緒に行くことになった。
成人式が終わった。
僕は、晴れ着姿のまま
スーツ姿の高橋翔介と共に
墓地へ行った。
寂れた墓地には、お墓がズラリと並んでいて
そのひとつに、高根家之墓と掘られていた。
僕は、水をかけて
菊の花束を置いて
お線香を灯した。
『夏目、ありがとな。』
「…うん、気をつけて帰って」
『……高根、すまなかった。』
高橋はそのまま礼をして、帰っていった。
僕は、高根を想った。
カラスが鳴いていた。
いないはずの、蝉の声が聞こえた。
肌寒い風が、肌を撫でる。
僕は、高根さんに伝えたかった。
君に
伝えたいことがあるんだ。
高根さん……いや
麗ちゃん。
君がいってしまってから、
君に悲しいほどに
とり憑かれてしまいたいと
そう思っていました。
でも、
君が
あの日
僕の枕元に出てきてくれて
生きて、って
言ってくれたから
ここまで来れました。
今も麗ちゃんに逢いたいし
麗ちゃんのことが好きです。
でも、麗ちゃんが帰ってこないことはもう、わかります。
麗ちゃんと逢うのは、ずっと先になるでしょう。
今すぐにでも逢いたいけれど、
麗ちゃんに怒られてしまうから
何とか生きてみます。
頑張って生きていきます。
優しい麗ちゃんのことを、ずっと想ってます。
愛しています。
そして
安らかに眠ってください。
最後に
ありがとう。
ごめんなさい。
僕の愛した君へ、
高根さんに花束を。
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