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課金令嬢はしかし傍観者でいたい

学園へ

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「いいですか、マナリエル様。これから向かうは由緒正しきカルヴィナータ魔法学園でございます。伝統と秩序を重んじるため、必ずしも実力主義というわけではございません。生徒の間では、やはり家柄を重視される傾向にあります」

「ねぇ、そろそろ復唱できそうなほど聞いたんだけど」

「大事なことですから」

 馬に揺られている間、ナディアはそれはそれは耳にタコができるほどに念押しをしてきた。乗り物じゃなくてナディアの声で酔いそう。なんか色々説明してくるけど、要は私は注目されやすい立場だから、それなりの節度ある行動をしろってこと。

「何度も言われなくても分かってますー」

「語尾は伸ばしません」

「……ナディアほんとに学園に着いてくるの?」

「私以外に誰がマナリエル様のお世話ができるのでしょうか?只でさえ同行する人数を減らしてしまったというのに……」

「デスヨネー」

 ナディアは口うるさい母親のような世話の焼きっぷりが玉に瑕たまにきずだと思う。ナディアを連れて学園の門をくぐるのは、なんだか保護者同伴で登校するような気恥ずかしさがある。メイドに世話をしてもらうのがこの世界の貴族にとっては当たり前なんだろうけど、未だに慣れないし、これからも慣れる気がしない。自分のことは自分でやるものだって教わってきたわけだし。
 まぁそれでも、多少の暑苦しさを除けば私の世話は彼女しかできないと断言できるほどに、ナディアは私を熟知している。メイドとしての評価は満点を越えていると言っても過言ではないだろう。熟知しているからこその小言なのは薄々分かっている。

 貴族は学園に同行させるメイドの人数によって、ある程度の家柄が分かるらしい。ティスニー国で随一の公爵家である私は、本来なら最低でも30人ほどのメイドは連れていくみたいだけど、そこは丁重にお断りさせていただいた。いや、だって30人に毎日世話されてたら、反対に疲れるよね?休まる気がしない。人数についてはかなり議論を重ねた結果、10人まで減らすことに成功した。でもゾロゾロと連れて入学するのはイヤだったから、今日はナディアだけを連れている。
 あ、でも2人ほど忍者っぽいのがいるけど。さっきから走る馬車の周りを駆け回っている気配を感じる。でも私でさえどこにいるか察知できないほどには熟練されている者のようで、気配を追うことはもちろん、姿は一切見えない。ミカエラよりは格段に手慣れている。
 この馬の速さにずっと着いてくるつもりなんだろうか。姿は見えずとも、懸命に追う姿を想像したら笑えてしまった。

「ははっ、一緒に乗ればいいのに」

「何か仰いましたか?」

 首を傾げるナディアに、何でもないと手を挙げる。今は知らないフリをしていた方がいいだろう。
 忍者もどきの2人は後で調べるとして、まずは学園よね。屋敷から出ることのなかった私にとって、これから多くの人がいるであろう場所へ向かうのは、やはり多少の緊張があった。前世の私も残念ながら人付き合いが得意ではなく、友達と呼べる人も限られていた。そんな人間が美人に生まれ変わったからと言って、すぐにコミュニケーション能力が上がるわけでもなし。

 おまけに、どうやら私は悪役令嬢みたいだし?ロイの婚約者だから、ヒロインがロイに近付いたら嫌がらせでもした方がいいのかな?でもヒロインとロイが結ばれた暁には、私がバッドエンドだよね?爵位剥奪とか?国外追放とか?え、もしかして死刑!?
 ダメだ!何としてもヒロインと仲良くなっておかねば!
 だけどせっかく乙女ゲームの要素があるんだから、誰か攻略してみたい気もする。私の周りの攻略対象はだいたい赤やらピンクやらで、どうにも白から少しずつ染まっていくバラを楽しむことができないのよ。つまらん。
 でもなー、乙女ゲームの友情エンドも結構いいんだよね。女友達なんていないし。青春時代の友情は一生ものじゃん?うん、欲しいな、友達。

「よし、まずは女の子に嫌われないところから始めよう!」

「マナリエル様を嫌うような女性などいません。万が一いたとしても、そのような者はマナリエル様の視界に入れることはございませんので、ご安心くださいませ」

 決意に満ちた顔でそう告げるナディア。やっぱり連れてくるメイド間違えたかな?
 私のためなら人を滅しそうなメイド、得体の知らない忍者みたいな2人、婚約者の第一王子、どこで登場するか分からないヒロイン、後からゾロゾロと到着するであろうメイドとフゥちゃん。あ、ミカエラも入学するんだよね。

 想像しただけでどっと疲労を感じるメンバーとの学園生活。いやいや、第二の青春を無駄にしてはいけない!絶対に満喫してやるんだから!
 私がそう気持ちを持ち直す頃、ちょうど馬車の揺れが止まった。しばらくした後、カチャリとドアの開く音が聞こえる。

「お疲れさまでした、マナリエル様。学園に到着いたしました」

 シルベニアに入った瞬間、魔法がかかったかのように気付けば学園に着いていた。多分そういう魔法が施されていたのだろう。私はゆっくり息を吸い、そして吐く。

「行きます」

 待ってろよ学園生活!絶対に青春してやるんだから!
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