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課金令嬢はしかし傍観者でいたい
婚約破棄1
しおりを挟む結局お父様とお母様は、そのまま二人の世界へ飛び立って行った。きっと今頃、愛を囁き合いながら庭園を散歩しているのだろう。こんなに子供が大きくなってもまだ恋人気分の抜けない二人は、もはや呆れを通り越して羨ましくある。
その後はミカエラやフゥ、魔力を持つロイやナディア、そしてアイマック(先ほど魔力を持っていると知って驚いた)と話を進めていった。気付けば1時間近く話していたのではなかろうか。
「なるほどね……。話し合いの結果、分からないということが分かったわ」
うん、全く分からん。なぜ──どうして──何度話しても、そういった問題に答えは見つけられなかった。
とりあえずハッキリしたことは、
精霊と契約するためのハウツーはない。
精霊からすれば、主は生まれた時から決まっているらしい。
そして精霊は、それを絶対に間違えることはない。
「ただし、契約を必要とするのは高位の大精霊のみ──ってね」
「そういうことだな」
そもそも契約が必要なのは、高位の大精霊だけである。一般的な精霊たちは、魔力を持つ者なら自然と力を借りることができる。まぁ、だからみんな魔法が使えるわけだけど。
フゥは言わずもがな大精霊なんだろう。だって、マザーだよ?大精霊中の大精霊じゃない?なんかみんなは、フゥがあのマザーだってことをイマイチ理解していない感じだけど……あれ?マザーってそんなすごい存在じゃないのかな?思わずフゥを見るけど、本人は訳も分からず笑みを返してくれた。うん、なんかあんまり強そうじゃないよね。なんというか、レア感がない。
「魔法については、学園に入学すれば正しく学ぶことができます。もちろん教師はみな魔法のエキスパートですので、ここで話すよりも多くの情報を得られると思いますよ」
ナディアのアドバイスには、ロイも頷いた。
「そっか!みんな魔力があるってことは、魔法学園に通っていたってことよね!」
魔力があれば精霊から力を借りられる。でもやっぱり魔法発動には様々な条件があるみたいで、「火を出したい!」と念じればポンと火が出るわけではなさそうだ。そのため、魔法が使える人間は、すべからく学園出身ということになる。
「じゃぁ、ナディアもアイちゃんも先輩ってことね!」
「俺は学園には行ってない」
アイマックが片手をあげて答えた。
「え?でも魔法使えるんだよね?」
「独学」
すげーな。魔法って独学もありなの?できるもんなの?
不思議に思ってナディアを見るけど、「魔法にも色々ありますので」と言った表情の暗さから、それ以上は聞いてはいけない気がした。
子供なら「なんで?なんで?」と攻撃してしまいそうなものだけど、私中身大人だからね。精神年齢はアラサーよ、アラサー。察する力はあるのよ。
まぁ、アイちゃんのことはまたゆっくり聞いていこう。
「ちなみに、俺も先輩だよ、マナリエル」
ロイがニヤリと広角を上げた。ロイ……昔はそんな風に笑う子じゃなかったのに。昔はもっとこう、キュートでピュアなエンジェルスマイルを見せてくれたじゃないか!
「マナリエル、心の声が漏れてるよ。婚約者にキュートと言われるのは、あまり嬉しくないね。マナリエルは今も昔も変わらない愛らしさだね」
「鼻の穴に指突っ込んでる女のどこが愛らしいのか」
途中でミカエラの野次が入る。そうかそうか、お望みか。お前も突っ込んで欲しくて羨ましかったんだな。
「望み通り、やってやらぁ」
くるっと方向転換をしてミカエラを見れば、びくっと一瞬体を震わせ、怯えた目をした彼がいた。
が、直後、後ろからふわりと抱きしめられ、結局ミカエラの元へ進むことはできなかった。ロイか。
「ダメだよ、行かせない」
「なんで?あいつ今私のこと愛らしさの欠片もない豚野郎って言ったんだよ?どこかしら折ってやらないと気が済まない」
「そこまでは言ってねぇよ!!」
すかさず突っ込むミカエラ。いいえ、その心の声は確かに私の心に届きましたよ。
「いいんだよ、マナリエルの良さは俺だけが分かっていれば」
そう言って、ロイは抱く腕に少しだけ力を入れた。そしてそっと頭にキスを落とす。
うわぁー!これスチルゲットのシーンじゃない?
恋愛ゲームの世界だけあって、こういう甘ったるいシーンはやたら多いんだよね。特に薔薇の色が最上級に達しているロイは、もう盲目なまでに私を溺愛している、と思う。きっと私が何をしても愛らしいプリンセスに見えてしまうほどに。
恋とは恐ろしいものよ。
私もそれくらい愛せる人が現れないかなぁ。恋はしたことあるけど、なんていうか、ないのよ、愛したことって。
好きな人ができても、断然弟と剣道している方が好きだったし。会いたいとか、顔が見たいとか、胸がギューとかなかったし。
あれ?私ちゃんと人を好きになったことあるのかな?
ていうか、今世こそ自由に素敵な恋愛を楽しもうと思ってるけど、すでに婚約者がいるじゃん!
私ロイと結婚するって決まってるの?決まってるよね、婚約者だし。あれ?自由な恋愛とかなし?
「ねぇロイ」
「ん?」
いつまでも嬉しそうに私を抱き締めるロイを見上げれば、これまた眩しい笑顔があった。
「私とロイって、いつまで婚約者なの?学校行くから、そろそろ破棄する?」
「「「「……」」」」」
あれ?私何か変なこと言った?だって婚約者といっても、最初は虫除けとして結ばれた協定だよね?
なんか会場中が静まり返っちゃったんだけど。
「ただいまぁー♪お散歩楽しかったわ……て、あら?どうかしたの?」
めっちゃKYなタイミングで帰って来たお父様とお母様。ある意味ナイスタイミング!
「おかえりなさい。今度は私達も庭へ行ってみましょう」
「え、あっちょ!」
腕を引かれ、半ば強引な退室。振り向いても、誰も止める者はいなかった。ソウシはひらひらと手を振ってるし。
何よ、私そんなに変なこと言ったかしら?
考えている間にも、ずるずると引きずられるように庭へ近付いていった。
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