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課金令嬢はしかし傍観者でいたい

再会1

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 尾行をやめさせて、今は二人で並んで歩く。いや、正確には半歩ほどミカが後ろだけど。あれからお互い目を合わせることなく、だけど沈黙も気まずいから、とりあえず口だけは動かしておいた。

「いや、今日はホントいい天気だわー」
 大量の木で空見えないけど。
「それにしても今日はまた一段と暑いよねー」
 なんならヒンヤリ冷え込んでるけど。
 口を閉じるとあのシーンが脳内再生しそうだから、めっちゃ必死よ、私。

「おい、さっきのことだけど」
「お黙り!言わせねーよ?」
「あ、はい」

 謝罪か弁解かは知らないけど、あの件に関しては何も聞くつもりはない。なんでって、なかったことだから。ね、あれは夢だからさ。実際は何もなかったの。
 私の威圧で押し黙ったミカエラは、それ以上何も追及することはなかった。

 ところで、かれこれ数時間歩いているわけだけど。いつまで歩くの?もう夜になってるんじゃない?
 この森は空が見えない。見上げれば東西南北、おまけに上も木に囲まれている。となると必然的に暗闇になるはずなんだけど、多分これは魔法か何かで、ほんのり明るくなっているんだろう。おかげで時間の感覚か狂っている。もう何時間歩いているんだ?

「ねぇミカ」

「なんだ」

「これってさ、歩いてるだけで着くものなの?」

 そうだよ、マザーって言われるくらいなんだから、ここはいわば魔法の中心部。ただ黙々と歩くだけで済む試練なんだろうか?

「何かを試されてるってことか?俺達以外に気配は感じないし、何か仕掛けられてる様子もないが。まぁ、大きな魔力に包まれている感覚はある」

「仕掛けとか魔力とか、あんたそういうの分かるの?」

「まぁ、多少は」

「やるじゃん」

 立ち止まった私達に合わせて、進むべき道はそよそよと誘うように揺れている。

「そういえば、ミカはどこの国の人?」

「シルベニア」

「地元じゃん」

「地元じゃない。シルベニアといっても、俺の出身はサウリオに近い小さな村だからな。こんなところまで来たのは初めてだ」

「地元じゃないじゃん」

「……俺の話は理解したってことだよな?」

 ミカエラが訝しげな顔をする。私もいい加減歩くの飽きたし、何だか掌で転がされているような感覚に苛立ってきた。

「ねぇ、ちょっと」

 さっきからそよそよと道案内している先に向かって、仁王立ちする。すると揺れていた道は、こちらを窺うようにぴたりと止まった。まるで生き物だな。可愛げはないけど。

「あんたさ、マザーのところまで案内する気ある?」

 答えはない。代わりに道はゆらりと揺れた。まるで答えをはぐらかすように。

「もしかして案内してるんじゃなくて、ぐるぐる森の中歩かせてるだけじゃないでしょうね」

 葉は擦るようにカサリと鳴る。

「聞いてんの?」

 今度は道が伸びたり縮んだりした。

 ブチ。

「今何か音がしたぞ」

「それは私の堪忍袋の緒が切れた音ですよー!いい加減にしろよテメー!」

「!!」

 ざわりと森が揺れる。そよそよと揺れてんじゃないよ!こっちはそんな爽やかな気分じゃないわ!

「行くべき場所があるなら早く案内しなさーい!」

 ブワッ!

 私の怒鳴る声に合わせて森が大きく揺れ動く。
 ダメだわ、今日はホルモンバランスが乱れてるわ。あるよね、そんな日。

「ふざけるのも大概に─」
「ストップ」

 急に腕を引かれ、抱き寄せられた。気が付けばミカの腕の中にすっぽり収まった状態になる。

「なに、ミカ」

「これは誰かや何かのせいじゃない。お前だ」

「は?私?」

 ミカエラは会話をしながらも、優しく私の背中をトントンと叩く。まるで赤ちゃんをあやすように。

「興奮したせいで、お前の中の魔力が暴れてるんだよ。だから少し落ち着け」

「私まだ魔力持ってないけど」

「16歳の誕生日が来て母なる庭マザーガーデンに来たなら、解放されたんだろ。お前、どんだけ魔力持ってんだよ。化け物か」

 ゆっくりと一定速度で叩かれる背中が心地良く、少しずつ私の鼻息も落ち着いてきたように感じる。

「え、これって私がやってんの?」

「そうだ」

「私魔力持ってんの?」

「そうだ」

「試練に受かったってこと?」

「そうなんじゃないか」

「おい、なんでそこだけ曖昧なんだよ」

「俺も知らねーよ」

「そっか、地元じゃないもんね」

「今さりげなくバカにしただろ」

「ありがと、落ち着いた」

 そう言うと、ミカエラはすんなり離れた。なんだよ、もっと名残惜しそうにしなさいよ。

「えーと、つまり私は魔力が解放されたみたいだし?これはもう合格ってことでいいのかな?」

「その通りですわー!!」

「「うわ!!」」

 なんか出てきた!
 森の中から出てきたというより、木が女性になったという感じだろう。全く気配を感じなかった。
 そしてその女性の周辺から大量の木の葉が舞い上がり、少しずつ森が消えていく。気が付けば、光に照らされた眩しいほどの美しい景色が広がっていた。


「ようこそ、マザーガーデンへ」

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