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2.フィーナの想い人
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サフレイト王国は、大陸のほぼ中央に位置する豊かな国だ。
背後は自然の要塞である山脈が連なり、山脈から流れる水が、平野の実りを豊かにしていた。
そして、魔法技術の水準は高く、広く他国から留学生を受け入れていた。
王国を囲む三国とは どの国とも良好な関係を結んでいる。何世代も大きな争いは起きていなかった。
そんな王国の公爵家にフィーナは仕えていた。
公爵家と言えば貴族社会のカーストではトップ。
この国は三公が国王を支えており、フィーナの仕えているのはそんなすごい家だった。
その公爵家には16歳になる美しい令嬢がいた。
ステファニアである。
白磁のように透ける白い肌にふっくらと熟れた唇、淡く桃色に染まった頬。
なんといっても、波打つ金色の豊かな髪と淡いブルーグレーの瞳が人を惹きつける。
まるでビスクドールのようだ。
年頃のご令嬢、高貴な身分とくれば婚約者はアレしかいない。
そう、王子様だ。
この国の王太子は18歳。他の公爵家に妙齢の令嬢がいなかったことから、幼い頃より決められた婚約だった。
そこまで脳内の情報を整理して、PCに向き合う。
書き出しは こうだ。
王太子殿下が屋敷を訪れる日は、朝から慌ただしい。
屋敷を整えるのは何日も前からやっているが、当日にしかできないこともある。
フィーナは庭師から受け取った花を抱えて、主の部屋を目指す。
大輪の薔薇と蔦が細工された豪華な扉をノックし、入室の許可を得る。
ステファニアは今日も綺麗だった。
「ステファニアさま、花をお持ちしました」
これは髪に飾る生花だ。
茶会のテーブルと揃いにしたい、とお嬢様から言われていたのだ。
が、表情が険しい。
あぁ、またか…
フィーナはそっとため息をつくと抱えていた花を化粧台に置き、ステファニアのもとへ近づき、膝を折った。
「お嬢さま、如何なさいましたか?」
コルセット姿で苛立ちを隠そうともせず綺麗に整えられた爪を咬む。
今日は何がお気に召さなかったのだろうか。
この姿ということはドレスか。
フィーナはステファニアの手を取ると化粧台の前へ誘導した。
鏡に映る美少女の豊かな髪を緩く纏めてると鮮やかな赤い薔薇を飾る。
幾つかの色鮮やかな花を散らす頃には、ステファニアの表情は柔らかいものになっていた。
「先日お作りになった真紅のドレスはいかがですか?」
髪に差した薔薇の位置を整えながら耳元で囁く。
それはいいわね、
ステファニアは踊るような足取りで衣装部屋へ消えていった。
その姿を見送り、ふぅ、と息を吐く。
こんなことは日常茶飯事だった。
そのときの気分で物事を決めるから、周りは振り回されっぱなしだった。
それを諌めるはずの公爵は娘を甘やかすばかり。公爵家の中には諌めるものがいなかった。
ようやくドレスが決まり、化粧を施して仕度が整うのと同時に、殿下の到着が告げられた。
間に合ってよかった…
フィーナは胸をなで下ろした。
これが間に合わなかったら侍女たちが罰せられるのだ。
室内を走り回るほかの侍女と目を合わせて頷き合うのだった。
ステファニアは優雅な足取りでエントランスへと向かい、父親である公爵の隣に並び立つ。
殿下がエントランスに姿を見せると、美しいカーテシーで出迎えた。
フィーナは壁際に控えながら、その様子を全く見ていなかった。
フィーナの関心ごとはただひとつ。
王太子殿下と共にくる第二騎士団長をみること。
殿下の後ろに控えているイケメンの名前はウィリアス。
三公ではないが、伯爵家の嫡男で、貴族とは名ばかりのフィーナとは釣り合う筈もない。
それでもその姿を見れるだけで、公爵家に仕えて良かったと、心から思える。
殿下がいらっしゃる日はステファニアの機嫌取りが大変だが、ウィリアスと同じ空間に居られると思えばなんてことは無かった。
うわっ、恥ずかしいな、これ。
そこまで書いて手が止まった。
フィーナの記憶がある凪沙としては、自分の恋バナを告白をしているようなものだった。
ただ見ているだけ
それだけでも幸せだった。
━━ いや、もっと幸せになるんだ。
小説の中では私が主役!
せめて妄想の世界ではウィリアスと幸せになるんだ。
どんなストーリにしよう。
それは明日の楽しみにしよう。
日付も変わったし、明日に備えて寝なければ。社会人としての義務、果たさないと。
保存してPCを閉じる。
なんだか秘密を抱えたようで、久し振りにドキドキした。
背後は自然の要塞である山脈が連なり、山脈から流れる水が、平野の実りを豊かにしていた。
そして、魔法技術の水準は高く、広く他国から留学生を受け入れていた。
王国を囲む三国とは どの国とも良好な関係を結んでいる。何世代も大きな争いは起きていなかった。
そんな王国の公爵家にフィーナは仕えていた。
公爵家と言えば貴族社会のカーストではトップ。
この国は三公が国王を支えており、フィーナの仕えているのはそんなすごい家だった。
その公爵家には16歳になる美しい令嬢がいた。
ステファニアである。
白磁のように透ける白い肌にふっくらと熟れた唇、淡く桃色に染まった頬。
なんといっても、波打つ金色の豊かな髪と淡いブルーグレーの瞳が人を惹きつける。
まるでビスクドールのようだ。
年頃のご令嬢、高貴な身分とくれば婚約者はアレしかいない。
そう、王子様だ。
この国の王太子は18歳。他の公爵家に妙齢の令嬢がいなかったことから、幼い頃より決められた婚約だった。
そこまで脳内の情報を整理して、PCに向き合う。
書き出しは こうだ。
王太子殿下が屋敷を訪れる日は、朝から慌ただしい。
屋敷を整えるのは何日も前からやっているが、当日にしかできないこともある。
フィーナは庭師から受け取った花を抱えて、主の部屋を目指す。
大輪の薔薇と蔦が細工された豪華な扉をノックし、入室の許可を得る。
ステファニアは今日も綺麗だった。
「ステファニアさま、花をお持ちしました」
これは髪に飾る生花だ。
茶会のテーブルと揃いにしたい、とお嬢様から言われていたのだ。
が、表情が険しい。
あぁ、またか…
フィーナはそっとため息をつくと抱えていた花を化粧台に置き、ステファニアのもとへ近づき、膝を折った。
「お嬢さま、如何なさいましたか?」
コルセット姿で苛立ちを隠そうともせず綺麗に整えられた爪を咬む。
今日は何がお気に召さなかったのだろうか。
この姿ということはドレスか。
フィーナはステファニアの手を取ると化粧台の前へ誘導した。
鏡に映る美少女の豊かな髪を緩く纏めてると鮮やかな赤い薔薇を飾る。
幾つかの色鮮やかな花を散らす頃には、ステファニアの表情は柔らかいものになっていた。
「先日お作りになった真紅のドレスはいかがですか?」
髪に差した薔薇の位置を整えながら耳元で囁く。
それはいいわね、
ステファニアは踊るような足取りで衣装部屋へ消えていった。
その姿を見送り、ふぅ、と息を吐く。
こんなことは日常茶飯事だった。
そのときの気分で物事を決めるから、周りは振り回されっぱなしだった。
それを諌めるはずの公爵は娘を甘やかすばかり。公爵家の中には諌めるものがいなかった。
ようやくドレスが決まり、化粧を施して仕度が整うのと同時に、殿下の到着が告げられた。
間に合ってよかった…
フィーナは胸をなで下ろした。
これが間に合わなかったら侍女たちが罰せられるのだ。
室内を走り回るほかの侍女と目を合わせて頷き合うのだった。
ステファニアは優雅な足取りでエントランスへと向かい、父親である公爵の隣に並び立つ。
殿下がエントランスに姿を見せると、美しいカーテシーで出迎えた。
フィーナは壁際に控えながら、その様子を全く見ていなかった。
フィーナの関心ごとはただひとつ。
王太子殿下と共にくる第二騎士団長をみること。
殿下の後ろに控えているイケメンの名前はウィリアス。
三公ではないが、伯爵家の嫡男で、貴族とは名ばかりのフィーナとは釣り合う筈もない。
それでもその姿を見れるだけで、公爵家に仕えて良かったと、心から思える。
殿下がいらっしゃる日はステファニアの機嫌取りが大変だが、ウィリアスと同じ空間に居られると思えばなんてことは無かった。
うわっ、恥ずかしいな、これ。
そこまで書いて手が止まった。
フィーナの記憶がある凪沙としては、自分の恋バナを告白をしているようなものだった。
ただ見ているだけ
それだけでも幸せだった。
━━ いや、もっと幸せになるんだ。
小説の中では私が主役!
せめて妄想の世界ではウィリアスと幸せになるんだ。
どんなストーリにしよう。
それは明日の楽しみにしよう。
日付も変わったし、明日に備えて寝なければ。社会人としての義務、果たさないと。
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