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エルク達が本当に姿を消し、春人は1人で薄暗い森の中に取り残された。

正直、春人はかなり不安を感じている。
ただでさえ理解不能なことが多すぎるのに、勢いと状況に飲まれてここまできてしまったのだから仕方ない。

その上、初めて来た森の中で、一人でハンティングを成功させろという高難易度クエストを課された春人は頭がパンクしそうだった。

「はぁ、まあ、やるしかないんだよな・・・」

嘆息しつつ、銃を肩から下ろして薬室に弾を1発放り込み、ボルトハンドルを押さえながら静かに薬室を閉じる。追加でマガジンチューブに2発、12番のスラッグ弾を装填して準備完了だ。

普段であれば自動銃の薬室に弾を込めて歩き回るなんてしないが、何がいつ飛び出てくるかわからないここでは、弾を込めずに歩く方が危険だと判断した。

ここからはいつでもすぐ銃を構えられるように両手で保持して歩く。

いつも通り、耳と目を凝らし、なるべく音を立てないよう慎重に足を運ぶ。数歩進んでは立ち止まって自身の気配を殺し、周囲の気配を探る。忍び猟はそれをひたすら繰り返しながら獲物を探すのが基本だ。

この森の地面は比較的シケていて音が出にくく、歩きやすい。が、逆に言えば獲物の出す音も微かになり、耳で探す難易度が高いということでもある。
普段春人が忍び猟で行っている山はカリカリに乾いた落ち葉と、割れた礫岩が多く歩くのに気を使うが、獲物の出すガサガサ音も捕らえやすい場所だ。
しかもここは初めての場所、地理感もなければ普段使っているスマホのGPSアシストもない。難易度MAXの状態である。

こうなると頼りになるのは目と鼻しかない。
ここにいる獲物がどんな姿かわからないが、とりあえず動物の痕跡を探す。

しばらく周囲と地面をゆっくり観察しながら進むとーーー

「あった。鹿っぽいな・・・」

小声で呟き、しゃがんで足跡を確かめる。どうやら新しいもののようだ。昨日の夜から今朝にかけてと言ったところか。まだ足跡の縁が崩れず、エッジが立っている。副蹄がないので鹿だと判断したが、正直自信はなかった。

「で、でかいなこれ・・・」

残っていた蹄の足跡は、春人がよく目にするニホンジカのものより遥かに大きな足跡だった。少なくとも春人は目にしたことのないサイズだ。
エゾシカより巨大なんじゃないかと思う。

「とりあえずコレを狙うかー」

改めて気を引き締め、立ち上がって足跡の続く方へゆっくりと歩を進める。

この大きな足跡の主がどんな相手であれ、今はこいつを追いかけて狩るのが春人が生き延びる近道だ。
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