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「マジ?ちょーっと危なすぎない?大丈夫とは思えないんだけど」

「でも行かないと放火されちゃうんでしょ・・・?」

「まあ、この建物は鉄筋コンクリの耐火建築だから耐えられそうな気もするけどなぁ・・・本当に魔法とか使われたらどうなるかわかんないけど」

春人は店に戻り、店内の2人にダークエルフと邂逅したこと、どうやら猪狩のおかげで猟果さえあげればなんとか生存を許されるらしい事を伝えた。

勝手に外に出た事に対して2人からこっ酷く叱られ、明日の夜明けに彼らと共にハンティングに行く事を伝えて唖然とされる。

しかし、行かないと店を燃やされると言うことで、2人とも心配しつつ助かる方向性がそれしかないのか考えているようだった。

「俺、行きますよ。いいと思える選択肢それしかないですし。こんな訳の分からない世界、この拠点を捨てて出て行った方が生存確率下がりますし」

「うーん・・・。俺も行こうか?さすがに春君だけ行かせるのも雇主的にも年長者としてどうかと思うし」

どちらかというとビビリな社長が珍しく勇気ある提案をしてきたが、正直、年に数回北海道でガイド付きの楽チンな流し猟しかしない、運動不足な社長には酷な気がする。

「いやあ、とりあえず一人で行ってみますよ。社長になんかあった方が困るし。ヤバかったら乱射して逃げてきますよ」

冗談を交えつつ傷つけないように伝えると、

「あ、そう。了解ー」

ちょっと安堵感を隠せてないトーンで返事が返ってきたのであった。

********************

元々薄暗かった森に夜の帳が降り、外は完全な暗闇となった。

3人はとりあえず冷蔵庫にあった早く食べないとダメになりそうなものを集めて簡単な夕飯を済ませ、各々部屋に戻る事になった。

この建物は地下一階付き、地上三階建ての4層構造だ。
地下は防災グッズとか、ゴミなのかコレクションなのか判別のつかない社長の私物が詰め込まれた倉庫、1階は銃砲店。2~3階は居住エリアになっている。

社長の部屋は3階にあり、春人の部屋は2階の隅っこにある。2階には風呂トイレもあるが、これから水回りはどうしたもんかと言ったところだ。屋上に非常上の水タンクがあるのでトイレと手洗いだけならしばらく保ちそうだが。

美奈は3階の空き部屋を使う事になり、とりあえずそれぞれのパーソナルスペースは確保された。

自室に戻った春人は早速、一度作った巻狩りセットをまた床にぶち撒けて明日の猟用のセットに組み替える作業に取り掛かる。

「うーん・・・銃はM1100でいいな。弾は一応スラッグと9粒のOOBそれぞれ5発ずつでいいか?・・・いや、何があるかわかんないしスラッグは10にしておこうかな。そもそも獲物はなんなんだ?」

ぶつぶつ独り言を言いながら、これまで経験してきたハンティングの脳内アーカイブを再生して、適切かなと思う装備を作っていく。

結局出来上がった装備は、M1100にスラッグ弾10発と9粒弾5発、鳥や小動物が獲物だった時に備えて狩猟用7.5号弾25発。
バレルは26インチのスラッグ銃身ではなく、28インチのリブ銃身に換えて7.5号弾でも回転するようにした。

長いし重いが、それよりもちゃんと撃てる事に重きを置くことにしたのだ。

社長曰く、「あんましリブ銃身でスラッグなんか撃たない方がいいよー」との事だが10発程度なら問題ないだろう。

「こういう時ポンプアクションはいいよなぁ・・・」

春人のM1100は撃発時のガス圧を利用して廃莢と次弾装填をする。
26インチの短いバレルで、いわゆるクレー射撃に使うようなバラ弾を撃つと、ガス圧が足りずに回転しないのだ。

その点、春人が持っていないポンプアクション式ショットガンは手動なため、どんなバレルでどんな弾を撃っても問題なく回転する。

社長と相談して、M1100のポンプアクション版みたいなM870を持ち出そうかとも思ったが、今まで扱ったことのないポンプアクションより、使い慣れた自分の銃を使うべきだろうという結論が出た。

とりあえず、猟場に行くまでの真っ赤な登山リュックから忍び猟の時に猟場で背負うミステリーランチの狩猟用リュックに解体用の刃物類、ゲームバッグ、応急セット、行動食、弾を詰めてとりあえず荷造りは終わりだ。

"明日の夜明け"が何時頃なのかわからないので、春人はとりあえずスマホと腕時間で7時間後くらいにアラームを設定して布団に潜り込んだ。

明日はいったいどんなハンティングになるのか。

シチュエーションは?獲物は?
もし何も獲れなかったらあの弓矢で射殺されるのか?
不安が募り鼓動が高鳴り続ける。

しかしその心の底には、未知の世界で狩猟に挑む事への高揚感が渦巻いているのを春人は自覚していた。
すでにアドレナリンが出てしまっている気がする。

「あー、今夜は絶対眠れないなこれは・・・」

そう言いながら、春人は1時間後には夢の中に落ちていた。
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