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葦原公国前史

同年代史(八坂御魂著)より、葦原公国前史

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 ……2018年、突如として出現した敵性機械兵器群、通称メビウスは、瞬く間に大陸を席巻したとされる。

 すなわち、2010年代における人類側のあらゆる近現代火器ではメビウス戦車師団およびその他機甲部隊の車両装甲を貫くことができず、メビウスの突如の出現から6か月と経たずにユーラシア大陸地域は陥落。アメリカ大陸もまた、その後数週間と経たずにメビウスの魔手に落ちた。

 今では知られたことだが、メビウスは特定の国家を狙って攻撃を仕掛けたわけではなく、ただ大地を蹂躙する。そこに目的は無く、今となってもその正体でさえ掴めてはいない。
 文字通りの「機械仕掛けの無機質な兵器」なのか、あるいは何らかの知性を持っているのか。コミュニケーションは可能なのか?
 そういった事でさえ、まだ何もわかっていないのだ。

 敵について何もわからないことは、得てして人に途轍も無い恐怖を与える。では、メビウスが出現したばかり、さらに核攻撃などの禁忌の手札を用いてもなお、何事もなかったかのように進撃を続けるその姿は、一体どれほどの恐怖を与えたのだろうか?
 ある歴史作家の手記には、こう綴られている。

 「まさに、恐怖の化身がそこにあるかのようであった。核攻撃を受けても集中砲火を受けても、はたまた地雷攻撃を受けても、メビウスの戦車師団は止まることを知らない。その無機質な進撃こそが、我々により大きな恐怖を与えたのである」

 このアメリカ人作家は戦争の経験が無く、そうであるが故に、より強くその恐怖を感じ取ったのであろう。

 このような手記が書かれた背景には、フランス、ドイツといった欧州の大国がメビウスの防戦に共同で当たる前に国境線を破られ瞬く間に崩壊した事が挙げられる。いわゆる旧大国の一角が為すすべなく崩壊していく様は連日報道され、それだけで恐怖の対象となった。
 8月19日にはドーバー海峡を空挺部隊が渡り、四方八方の自国地域を同時に空挺されたイギリスは、一週間と保たずに全土が陥落。それとほぼ同時期に、欧州を東進するメビウス機甲部隊および空襲部隊はドニエプル川まで到達し、そこで一時停止した。また、それと前後してアフリカ全土もメビウスの手中に落ちた。

 これらが、アフリカのナイル川下流で初めて「敵性機械兵器群」が確認されてから、僅か一ヶ月の間に起こった出来事だ。

 これに対してロシア政府は、直ちに国家総動員を開始すると同時に核起爆攻撃の開始を宣言。欧州諸国の激烈な反対をねじ伏せ、ドニエプル川沿いに核攻撃を実施した。

 効果は知られている通りである。

 核攻撃では一切の打撃を与えることができなかった上、メビウスによる攻撃が再開。ドニエプル川沿いに軍団を展開しきれていなかったロシアは、瞬く間に防衛線を融解させられ、その広大な縦深を全く活かしきれないまま、9月2日にモスクワを喪失。それと同時に各所で同時空挺作戦を受けたロシアは、各地の主要都市を一挙に失い、そのまま崩壊の一途を辿った。
 さらに、カフカスを渡ったメビウス戦車師団は中央アジアから西アジアに掛けての広大な地域を僅か一週間で占拠。アフリカから転進してきていたメビウスのアフリカ方面集団と合流し、そのまま一挙に東進した。

 アメリカ軍およびその他諸国は最後の望みをかけて、バングラデシュのジャムナ川に軍団を展開。さらに、インド政府の反対を押し切ってガンジス川での入念な核攻撃を実施した。
 結果的には、この判断は吉と出る。インド国民の避難すら間に合わず、数十万の死体を積み重ねたのと引き換えに、メビウス軍集団の一部が停止したのだ。さらに、ジャムナ川を渡河しようとするメビウス軍団に対して常軌を逸した集中砲火を実行することで、ついにメビウスの進撃を完全停止させることに成功する。

 これにより、入念な核攻撃を実施すれば、メビウス側にも多少の損害が出ることが確認された。これを受けてアメリカ、中国は、手持ちの核兵器のほぼ全てを注ぎ込み、乾坤一擲の大反撃作戦「踏切クロスオーバー」作戦の実施を決定する。
 これは、もはや統治者のいない無政府地帯と化した旧ロシア地域と、進撃を停止したメビウス軍集団の存在する南アジア地域に対して無制限の核攻撃を行い、その後に集結可能なありったけの機甲軍団を用いてメビウスを攻撃するというものであった。

 文字通りの物量作戦、しかしそれが成功することはなかった。

 「踏切作戦」直前、メビウス軍集団は進撃を再開。ジャムナ川防衛戦で戦力の過半を喪失し、戦力不十分に陥っていたアメリカ、中国他多国籍軍は各個撃破されるに至る。
 この状況下では核攻撃を実施しても効果が薄いと判断され、「踏切作戦」は延期となった。

 さらにこの頃、人類にとっては最悪の悲報となりうる事象が報告された。

 当初、ジャムナ川で完全撃破されたと思われていた戦車師団が、いつの間にか復活していたのである。増援でも補充でもない、文字通りの復活だった。

 今の私達にとっては、ある意味当たり前のことである。メビウスの各車両の本体とも言いかえられる、車両中心部に存在する「魔導核」、やや赤く輝く正八面体型のそれ。
 これを破壊しない限り、時間経過でメビウスは破壊された部分を自己修復する。そして、魔導核を破壊する手段は、当時の人々には存在しなかった。

 集中核攻撃も火力集中も、メビウスの侵攻を止めることはできない─その絶望感、逼塞感は、人類の交戦意欲を根底から破壊した。
 メビウスはジャムナ川防衛ライン突破の後も進撃を続け、10月には中国南部を完全に占領。難民が北へと押し寄せ交通状況は悪化し、もはやメビウスに対する抗戦など考えられなかった。

 中国政府は、難民問題の最終的解決および時間稼ぎのために、自国内で難民ごと核攻撃を実施。これまでにない規模の核攻撃を受けたメビウス軍集団は、一ヶ月以上足止されることとなる。

 そしてこの頃、ようやく「彼ら」が現れるのである。

 魔導核を破壊可能な特殊火器を持ち、戦況を少数で逆転させ得る戦力─精霊術士。日本からの義勇兵という形で、身元不詳のまま参加した彼らは、長江防衛戦にて凄まじい活躍を示してみせた。
 なんら特殊な装置なしに空を飛び、本来放てるはずもない超高速で銃身から弾丸を打ち出し、そして何よりも魔導核を破壊可能な彼ら。

 たちまち彼ら精霊術士の存在は、各国に知られるようになる。各国首脳部は精霊術士の出自が日本であることを掴むや否や、日本に対してこれまでのメビウスに対する戦争への不参加を激烈に批判し、さらに追加の精霊術士を要求。
 しかし、精霊術士の存在を日本国政府自身も知らなかったが故に、これらの要望に応えることはできなかった。

 国際関係が緊張する中、メビウスはアメリカに上陸。アメリカ政府は精霊術士部隊に対して支援を要請するが、精霊術士部隊は自らが東アジアに対する義勇兵であるとしてこれを拒否。
 アメリカ国民は当然これを声高に批判したが、その声はメビウスの進撃により瞬く間に悲鳴へと変わった。

 そして、その悲鳴の声は、アメリカ政府による海上・空路封鎖によりさらに膨れ上がる。日本や東アジアへと避難しようとするアメリカ国民に対して、アメリカ政府は海路と空路を陸海空軍で封鎖。その中で首脳部は日本へと逃走した。
 これは、日本政府とアメリカ政府間の暗黙の了解のもとで行われたものであり、到底難民を受け入れる余裕のない日本や中国と、自らの安全を確保したい首脳部の利害一致により厳密に実行された。

 アメリカ大陸に締め出された数億人の人々を代償に安全を確保したアメリカ政府首脳部およびメビウスにより滅亡した各国の亡命政府首脳部は、日本の東京に「メビウス戦争統合司令部」を設置。
 ここに中国政府や両朝鮮政府、日本政府が加わり、メビウス戦争初期の体制が確立する。

 その頃、メビウスの北部集団は満州地方や蒙古を完全に制圧。メビウスは合流を目指して一大攻勢を発起した。
 統合司令部は、日本で維持可能な人口を試算し、それよりも少しだけ多くなるように難民を受入れ、他は日本への移動を禁止する。

 いかな精霊術士といえど、この時点では高々数十名の規模に過ぎず、当然このままでは日本列島全体を維持することは不可能。
 だからこそ、統合司令部は精霊術士の研究が完了するまでの時間稼ぎとして、東アジア全土を捨て石にすることを決定したのだった。

 東アジアにありったけの核を打ち込み時間稼ぎを行いつつ研究を続けた統合司令部だったが、翌年4月には北海道と沖縄にメビウスが上陸。
 今の戦力では維持不可能とみた統合司令部は、北海道と沖縄を縦深としてまたもや時間稼ぎを実施。その間にようやく、応用可能な技術を開発する。

 5月14日、北海道を制圧したメビウス戦車師団は、青函トンネルを経由して青森県への侵攻を開始。それに対して、精霊術士および自衛隊は「海底の光」作戦を実施する。
 戦闘が始まり、メビウスによる攻撃の中、自衛隊は〈祠〉と呼ばれる体系(システム)を起動。これは、精霊術士が所属する義勇隊から提供された「精霊核」に基づき急遽製作されたものであり、これが起動されれば通常火器による攻撃でも敵の装甲をたやすく貫通できるようになる上、自己修復機能が消滅する。

 精霊核を納める祠、そして精霊核に対して、精霊術士が特殊な操作を行うことで起動する〈祠〉は、人類に、史上始めてメビウスに対する完勝を収めさせた。

 メビウスに対してようやく始めての「勝利」を収めた人類。だが、そこからの議論は紛糾した。

 〈祠〉自体は、義勇隊から精霊核の供与を受けることで何個でも作ることができる。統合司令部と義勇隊との間の協定で精霊核の供与については保証されていたし、義勇隊によれば、精霊核自体の数はまだまだあるとのことであったから、そこに不安はない。
 だが、あくまでも〈祠〉は、敵の自己修復機能と異常に強固な敵の装甲を大幅に弱体化させるだけであり、魔導核を破壊するにはやはり精霊術士による攻撃が必要だった。

 ここで、統合司令部は積極派と消極派に分断されることとなる。積極派は大陸奪還を目指して、積極的にメビウスに対して攻撃を仕掛けるべきだと主張。それに対して消極派は、日本の守りこそが先決だと主張した。

 刻々と時間が経過する中、メビウスは戦力を増強し、今度は空挺作戦を敢行。同時多発的な攻撃を受け、精霊術士の救援が間に合わず、結果的に自衛隊は半壊する。
 何とかメビウスの撃滅には成功したものの、どちらにしてもあまり良い状況ではない。本来ならば日本の守りを固めるべきだろう。だが、そのためには北海道のメビウスを追い出す必要がある。
 統合司令部は、結局二兎を追うことにした。

 かくして、メビウス戦争初期の基本的な軍事指針が定められたのである。

 "「日本本土の守り」のために各地に〈祠〉を配置しつつ、「外征」も共に行う。"

 戦略的には二兎を追う愚策。だが、当時の日本にはそれしか手がなかった。
 結果として、じわじわと戦線を押し下げられつつも、戦争開始から十年の間に、なんとか本土の守りを固めることには成功した。

 そして、統合司令部は乾坤一擲の大勝負に出る。

 2029年1月3日、自衛隊や、大陸から撤退することに成功した機甲部隊といった、日本に駐留するあらゆる装甲部隊が、一斉に前進を開始。
 精霊術士全隊もこれに参加し、東北地方および北海道南部の奪還作戦「暁光作戦」─人類にとっての、初めての反攻作戦が始まったのだ。

 結果は、知っての通りである。

 苦戦の末に、装甲部隊は北海道南部を完全に奪還。反攻作戦に人類は成功したのだった。

 だが、この頃になると資源不足が深刻になりだしていた。石油資源については、この作戦で事実上消失。鉄鋼資源についても、既存の建物を破壊して手に入れている状態だった。
 さらに、石油資源の不足により電気等の基礎インフラにも支障が出ており、止めに日本列島を不作が襲ったのが致命的だった。

 2033年、日本は内戦状態に突入する。
 当然メビウスの侵攻を受けながらの内戦状態であり、権利や利害関係の複雑に絡み合ったこの内戦は、小康状態を挟みつつも2068年まで続く。

 最終的に勝利を収めたのは、精霊術士を抱える義勇隊であった。
 精霊術士の子供は精霊術士となる素養があったこと、義勇隊は利害関係の外にあったこと、そして国民的支持が厚かったことが勝因となったとされている。

 義勇隊は日本政府および統合司令部をクーデターで打ち倒すと、「葦原公国」を建国。義勇隊の司令官であった成神星輝は公国大公となり、日本は簒奪され、貴族制と民主政の共存する新しい国家が生まれるに至った。

 葦原公国は、内戦により滞っていた精霊術士の研究を再開。公国の中でも最高位の貴族とされた成神シャリーラ大公家、その傍流にあたる八橋殻斗公爵の尽力により、精霊術士となる素養がある者ならば誰でも行使可能な「精霊術」を編み出す。また、成神大公家やその傍流により公国は指導されることとなった。
 これにより、魔導核を破壊可能な者の数は十倍近くにまで膨れ上がったとともに、飛行可能かつ高火力を発揮可能な「精霊術士」は五倍の数にまで増加、さらに合理的かつ迅速な戦力投入が可能となった。

 この数の暴力を盾に、葦原公国の初代大公シヴァ・アドリシュタ─成神星輝は列島の完全奪還作戦を開始。内戦時に奪われていた四国、九州、東北、北海道の諸地域を奪還することに成功した。
 それと同時に、義勇隊の本拠地であった奥多摩地方に「不動アカラ城」と呼ばれるようになる都城要塞を造立。その副作用として精霊核の安定的な確保が可能となり、戦略的にも大いに重要となった。

 それから百年余り、公国は安定期に突入する。だが、それは腐敗と停滞の時代の始まりでもあった。

 当時の葦原公国の貴族には、精霊術士としての実力を認められた者と、統合司令部や日本政府の要人やその子孫の二種類が存在していた。
 その結果、当然両者は反目。権力闘争が常態化し、軍事力も停滞した。さらに基礎インフラは完全に崩壊し、一般市民の生活レベルは中世付近まで坂戻りを始めていた。それにつられるかのように、精神的にも「中世的停滞」の影が見られるようになる。

 当時の公国は矛盾の塊であり、その矛盾を上手く整合する作業を怠ったが故に、公国は崩壊の道を辿り始めていた。そして、その崩壊の道を止められる者は、複雑な権力システムの都合上、なんと不在であった。
 公国の代表である大公と、主権者である国民達の代表である議会と、貴族と……。これらが複雑怪奇に絡み合った当時の公国は、まさに斜陽だった。

 そして、その公国を再建したのが、残酷女王と渾名されるカーマ・アドリシュタであった。彼女は大公家の傍流でありながら、大公家の嫡流である成神シャリーラ家の人々を陰謀にはめて同士討ちさせると、僅か十歳にして公国の大公となる。
 大公となった残酷カーマ・女王アドリシュタは、大公家の嫡流、傍流の居城であった不動城を粛清の血で染め上げ、綱紀を粛正。

 さらに基礎インフラを再建するため、初めて資源調達のため海外遠征を実施。結果、大陸の近くでなければメビウスは存在しないことが判明し、資源の安定的な供給が可能になる。
 また、発電システムを原子炉に切り替えることで、百年前の核兵器の余りを有効活用し、何度か基礎インフラを立て直した。

 それに加えて、貴族制度も再建。精霊術士の素養を持つにも関わらず貴族制度の外に弾かれていた者達を新貴族─剣の貴族として採用し、旧来の貴族─法服(ローブ)の貴族に対しての備えとした。

 公国を抜本的に、そして急速に改革した彼女であったが、当然反発もあった。反感を持つ貴族達は、彼女を罠に嵌めて、諏訪にて捕囚とする。
 古い公国の再建を掲げた彼ら貴族達は、しかし猛反発に遭遇。公国は旧貴族と新貴族の間で内戦に陥った。

 しかし、最終的には、彼女の義理の妹にあたる八橋梨良公爵令嬢とその兄、成神成輝が動乱を制し、新貴族の打ち立てた「葦原共和国」が葦原公国に名を変え、その大公に梨良が着くことで決着した。
 改革により生まれ変わった葦原公国は、またもや内乱でメビウスに奪われていた東北地方と近畿地方を奪還。血生臭い記憶に残る不動城を捨てて諏訪に遷都した。

 梨良はその後「止血大公」と呼ばれ、公国の発展に尽くす。だが、無茶が災いして、即位から十年と経たずに崩御。成輝が大公位を継承すると、公国はメビウス戦争継続のために徹底的に効率化されることとなる。

 教育に愛国精神の徹底を加えるとともに、国民を三つ─臣民、領民、平民に分け、役割を細分化。大公の直属民とされた臣民は中央の軍事、貴族の民とされた領民は辺境の軍事、そして平民は生産という役割を明文化し、規律でこれを縛った。
 また、国家宗教を興し、「聖なる精霊術士と魔たるメビウス」という分かりやすい二元論と国家神道、さらに成神シャリーラ家固有の神話を組み合わせて、メビウス戦争の聖戦化と大公権力の権威付けを行い、これの信仰を積極的に推し進めることで、公国権威の維持を図った。

 それに加え、公国領土を中枢領と貴族領に分け、中枢領は通常の国家領土としたのに対し、貴族領は貴族の領土として治外法権を認め、代わりに貴族に貴族領の防衛義務を担わせた。そして、貴族領の外縁部、つまりメビウスと公国で支配権を争っている地域を「競合戦域」とし、メビウスの侵入を競合戦域内で受け止めることが貴族の義務であるとした。
 さらに、精霊術の整理─電磁系統の精霊術である電磁式、重力系統の精霊術である重力式、そして精霊核や魔導核などに干渉する光学式の三つのカテゴリーを設け、そのカテゴリーの下位に、具体的な精霊術を位置づけた─や教育施設の整備、民衆と貴族の相互監視システムの構築など、様々なことが行われた。

 これらは、公国から自由や権利を剥奪する代わりに、戦争の超長期的な持続、そして精神と制度の両面から戦争遂行を支えることで国家全体による戦争奉仕を可能にした。

 成輝、すなわち中興大公の死後、公国の解体は確かに進んだ。だが、その解体速度は非常に遅く、さらに貴族と民衆の相互監視システムにより貴族の腐敗が防がれたことで、そして何よりもメビウスという脅威が存在したことで、国家の滅亡に至るまで解体が進行するのには、極めて長い時間が必要だった。
 以後300年の間、公国は戦争奉仕国家として停滞を続けた。じわじわと限界が迫る中、上からではなく、全体に綻びが生じ、にも関わらず壊れることのできない公国。そして、メビウスとの戦争。

 意義が失われ、ただ惰性のままに続く戦争。
 国家が戦争を第一義としたが故に、だれもが疑いを持たない戦争。
 そして、誰も終わらせ方を知らない戦争。

 そんな、停滞と退廃の時代を、彼女達は照らし出したのである。その光が、一体何を照らし出すのか当人たちも知らないまま。

 少女達の物語をどう書き出すべきか、私はかなり悩んだ。だが、さしあたり、こんな言葉で書き出してみることにする。

 「永遠にも思える夜闇の中に、閃光のように少女達は出会った」、と。
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