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本編
最終話 家族
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「旦那様、頼まれていた計算が終わりました」
「えっ、もう終わったのかい?」
とある長閑な町にある店の奥で、二人の男が話していた。青年が店主に計算結果が書かれた紙を渡せば、店主はぱっと破顔する。
「いやぁ、君が来てくれてから本当に助かっているよ!」
「いえいえ、次は何をすればいいですか」
「そうだなぁ、じゃあこれを――――」
店主に新しい紙を渡されたところで、店先から可愛らしい声が聞こえてきた。
「お兄様ーっ、お兄様にお客様ですよ!」
その声に、青年と店主は顔を合わせる。店主は青年が受け取った紙をその手から回収した。
「君の可愛い妹が呼んでいるよ。これは後でいいから行っておいで」
「あ、はい。すみません……」
店の主人に頭を下げてから青年が店先に出れば、そこには少年と少女が立っていた。二人ともこの店で働いている従業員だ。そして二人の前には一人の女性が立っている。
「おや、ルメール夫人ではないですか。お久しぶりです」
「久しぶりねぇ。この前はありがとう」
見覚えのある顔に青年が挨拶をすれば、彼女はころっと笑った。この前、というのは恐らく彼女の幼い息子が迷子になっていた時のことだろう。店の近くでうろうろしていたから、青年が夫人の家まで連れて行ったのだ。
彼女は持っていた袋を青年に渡す。
「この前のお礼に、これ、うちで取れた林檎よ」
「いいのですか?」
袋の中を覗けば、確かに林檎が三つ入っていた。
「どれも絶品よ。良かったら三人で食べてね」
「お兄様、私にも見せてください!」
夫人の言葉に少女が反応して、袋の中を覗き込む。少年も一つ林檎を取り出して、嬉しそうに頬を緩めた。
「美味しそうですね、わざわざ俺達にもありがとうございます」
「二人も前、うちの息子と遊んでくれたでしょう? そのお礼よ」
夫人がぱちんとウインクした。
彼女はせっかく店まで来たからと、幾つか店の商品を買っていってくれた。青年が会計をしていると、夫人は「そういえば」と声をかけてくる。
「ねぇ、聞いた? あのねぇ、なんとか伯爵とかいうお偉いさんが死体で発見されたそうなのよー」
「……伯爵?」
「そうなのよ! 全く、王都は怖いわねぇ! なんだかその人、かなり悪いことをしていた人みたいでねぇ。あと、『殺戮侯爵』とかいう人もいるらしいのよ。どうもその人が伯爵を殺したとか! 伯爵の娘を誘拐して、今も逃亡中らしいわ。怖いわねぇ」
怖いといいつつ、彼女は楽しそうだ。この平和な町では物騒なことは滅多に起こらないので、時折都会から流れて来る噂話は町の民の娯楽の一つだ。
「へぇ、殺戮侯爵、ですか……」
「とっても怖い人らしいから、三人とも気を付けるのよ! まぁ、こんな何もない田舎になんて来るはずがないけれどねぇ」
それを聞いて青年と少年、少女の三人は顔を見合わせふふっと笑いあう。
「えぇ、そうですね、気を付けます」
青年はそう言って、夫人につりを渡した。
「えっ、もう終わったのかい?」
とある長閑な町にある店の奥で、二人の男が話していた。青年が店主に計算結果が書かれた紙を渡せば、店主はぱっと破顔する。
「いやぁ、君が来てくれてから本当に助かっているよ!」
「いえいえ、次は何をすればいいですか」
「そうだなぁ、じゃあこれを――――」
店主に新しい紙を渡されたところで、店先から可愛らしい声が聞こえてきた。
「お兄様ーっ、お兄様にお客様ですよ!」
その声に、青年と店主は顔を合わせる。店主は青年が受け取った紙をその手から回収した。
「君の可愛い妹が呼んでいるよ。これは後でいいから行っておいで」
「あ、はい。すみません……」
店の主人に頭を下げてから青年が店先に出れば、そこには少年と少女が立っていた。二人ともこの店で働いている従業員だ。そして二人の前には一人の女性が立っている。
「おや、ルメール夫人ではないですか。お久しぶりです」
「久しぶりねぇ。この前はありがとう」
見覚えのある顔に青年が挨拶をすれば、彼女はころっと笑った。この前、というのは恐らく彼女の幼い息子が迷子になっていた時のことだろう。店の近くでうろうろしていたから、青年が夫人の家まで連れて行ったのだ。
彼女は持っていた袋を青年に渡す。
「この前のお礼に、これ、うちで取れた林檎よ」
「いいのですか?」
袋の中を覗けば、確かに林檎が三つ入っていた。
「どれも絶品よ。良かったら三人で食べてね」
「お兄様、私にも見せてください!」
夫人の言葉に少女が反応して、袋の中を覗き込む。少年も一つ林檎を取り出して、嬉しそうに頬を緩めた。
「美味しそうですね、わざわざ俺達にもありがとうございます」
「二人も前、うちの息子と遊んでくれたでしょう? そのお礼よ」
夫人がぱちんとウインクした。
彼女はせっかく店まで来たからと、幾つか店の商品を買っていってくれた。青年が会計をしていると、夫人は「そういえば」と声をかけてくる。
「ねぇ、聞いた? あのねぇ、なんとか伯爵とかいうお偉いさんが死体で発見されたそうなのよー」
「……伯爵?」
「そうなのよ! 全く、王都は怖いわねぇ! なんだかその人、かなり悪いことをしていた人みたいでねぇ。あと、『殺戮侯爵』とかいう人もいるらしいのよ。どうもその人が伯爵を殺したとか! 伯爵の娘を誘拐して、今も逃亡中らしいわ。怖いわねぇ」
怖いといいつつ、彼女は楽しそうだ。この平和な町では物騒なことは滅多に起こらないので、時折都会から流れて来る噂話は町の民の娯楽の一つだ。
「へぇ、殺戮侯爵、ですか……」
「とっても怖い人らしいから、三人とも気を付けるのよ! まぁ、こんな何もない田舎になんて来るはずがないけれどねぇ」
それを聞いて青年と少年、少女の三人は顔を見合わせふふっと笑いあう。
「えぇ、そうですね、気を付けます」
青年はそう言って、夫人につりを渡した。
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