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本編
第二話 告白
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僕の名前はオスカー・シェーファー。
十五の時に爵位を継いでからは別の名前で呼ばれることの方が多かった。
オスカー・シェーファー。別名、『殺戮侯爵』。
かつて屋敷中の使用人を全員殺し、両親すら殺害して爵位を奪い取った冷酷非道なる殺人鬼と呼ばれている。
だから彼女がこんな風に僕に言ってくれるだなんて思ってもいなかった。彼女はなんて優しい子なのだろう。
僕はルークが入れてくれた紅茶で喉を潤しながらにっこりとステラに笑いかける。
「ステラ、君は知っているよね? だってこれは貴族であれば誰でも知っている話だもの。オスカー・シェーファーは大量殺人鬼だって」
「……えぇ、知っております」
「それなのに君はどうして僕との婚約破棄を望まないのかい?」
悪い噂ばかりの僕との婚約なんて彼女にとって何の利点も無いというのに。
「……貴方はそんな人ではありません。貴方はとても優しい人です。それはこの二年間でよく分かりました。周りが何と言おうと関係ありません」
「僕が両親含め大量の人間を殺した殺人鬼だったとしても?」
「――――理由があったのだと思っています」
理由ねぇ。
社交界で噂されているのは、僕が屋敷中の使用人と両親を殺して爵位をついだということ程度だ。それ以上のことを知る人間はどこにもいない。だからステラは色々と良い風に解釈してくれたのだろう。それは僕にとっては都合がいいので、そのまま勝手に勘違いしてくれていればいい。僕がどのような人間なのかなんて、彼女が知る必要などないのだから。
「オスカー様、貴方は優しい人です。私に沢山贈り物をしてくださいましたし、一緒にお話ししているのはとても楽しかったです」
「婚約者に贈り物をするのは当たり前だよ」
「確かに私は燃え上がるような恋をしているわけではありません……それでも私は貴方をお慕いしています。例え貴方が殺戮侯爵と呼ばれようとも」
「人を大勢殺したかもしれない人間によくそのようなことが言えるね」
「私は自分で見た貴方だけを信じます」
僕が大量殺人鬼であることは事実なのだけれど。彼女が僕のことをどういう風に見ているのかは知らないが、僕は彼女の言うような優しい人間ではない。だからといって、彼女の言葉をこれ以上訂正することはやめておく。
「さて、話が逸れてしまったね」
「私は私の本心を明かしました、オスカー様。私は貴方との婚約破棄をしたくないというのにどうして貴方は私との婚約を破棄したいのですか? ……もしかして、私、貴方に何かしてしまったのでしょうか」
ステラがそう言って急に不安そうな表情になるものだから、僕は思わず手を伸ばして彼女の頭を撫でてしまう。
「……オスカー様?」
そういえばステラと婚約してから彼女に触れるのは初めてだ。だが今日くらいはいいだろう。
撫でられてぽかんとしている彼女に、僕は用意していた言葉を告げた。
「ステラ……君は僕の妹なんだ」
「……………えっ?」
「君は血のつながった僕の妹なんだよ」
僕は重々しくそう言ってから深くソファーに腰かける。僕の言葉を理解できていないのか彼女は唖然としていた。僕がこくりと紅茶を飲むとティーカップは空になる。
すぐにルークが紅茶を継ぎ足す横で僕は深々と息を吐いた。
「本当だよ。君と僕は正真正銘、血のつながった兄妹だ。……兄妹は結婚できない。だからどうか僕との婚約を破棄してほしいんだ」
「え、あの……オスカー様と、私が?」
愛らしい少女はやっと僕の言った言葉を理解したのか、おろおろと狼狽し始める。僕は彼女が落ち着くのを待たずに続けることにした。
「ステラ、君は孤児院にいただろう? そしてすぐにオルレアン伯爵に引き取られたはずだ」
「え、えぇ、そうです」
「孤児院に行く前のことは覚えているかい?」
僕がそう尋ねれば彼女は顔色を悪くしながらも恐る恐る頷いてくれる。僕はそれに困ったように微笑んだ。
「なら、君には兄がいたことも覚えているかな」
「……はい」
ステラの目に涙が溜まり始める。丸く大きな瞳が涙で潤む様子に、僕は彼女の隣に席を移動する。そして彼女の手を取った。
「孤児院で別れてからずっと君を探していたよ。ステラ……会いたかった、僕の可愛い妹」
「本当に、本当にお兄様なのですか?」
震える声でそう呟く彼女に僕は大きく頷く。
「君と僕しか知らないことを教えてあげる」
十五の時に爵位を継いでからは別の名前で呼ばれることの方が多かった。
オスカー・シェーファー。別名、『殺戮侯爵』。
かつて屋敷中の使用人を全員殺し、両親すら殺害して爵位を奪い取った冷酷非道なる殺人鬼と呼ばれている。
だから彼女がこんな風に僕に言ってくれるだなんて思ってもいなかった。彼女はなんて優しい子なのだろう。
僕はルークが入れてくれた紅茶で喉を潤しながらにっこりとステラに笑いかける。
「ステラ、君は知っているよね? だってこれは貴族であれば誰でも知っている話だもの。オスカー・シェーファーは大量殺人鬼だって」
「……えぇ、知っております」
「それなのに君はどうして僕との婚約破棄を望まないのかい?」
悪い噂ばかりの僕との婚約なんて彼女にとって何の利点も無いというのに。
「……貴方はそんな人ではありません。貴方はとても優しい人です。それはこの二年間でよく分かりました。周りが何と言おうと関係ありません」
「僕が両親含め大量の人間を殺した殺人鬼だったとしても?」
「――――理由があったのだと思っています」
理由ねぇ。
社交界で噂されているのは、僕が屋敷中の使用人と両親を殺して爵位をついだということ程度だ。それ以上のことを知る人間はどこにもいない。だからステラは色々と良い風に解釈してくれたのだろう。それは僕にとっては都合がいいので、そのまま勝手に勘違いしてくれていればいい。僕がどのような人間なのかなんて、彼女が知る必要などないのだから。
「オスカー様、貴方は優しい人です。私に沢山贈り物をしてくださいましたし、一緒にお話ししているのはとても楽しかったです」
「婚約者に贈り物をするのは当たり前だよ」
「確かに私は燃え上がるような恋をしているわけではありません……それでも私は貴方をお慕いしています。例え貴方が殺戮侯爵と呼ばれようとも」
「人を大勢殺したかもしれない人間によくそのようなことが言えるね」
「私は自分で見た貴方だけを信じます」
僕が大量殺人鬼であることは事実なのだけれど。彼女が僕のことをどういう風に見ているのかは知らないが、僕は彼女の言うような優しい人間ではない。だからといって、彼女の言葉をこれ以上訂正することはやめておく。
「さて、話が逸れてしまったね」
「私は私の本心を明かしました、オスカー様。私は貴方との婚約破棄をしたくないというのにどうして貴方は私との婚約を破棄したいのですか? ……もしかして、私、貴方に何かしてしまったのでしょうか」
ステラがそう言って急に不安そうな表情になるものだから、僕は思わず手を伸ばして彼女の頭を撫でてしまう。
「……オスカー様?」
そういえばステラと婚約してから彼女に触れるのは初めてだ。だが今日くらいはいいだろう。
撫でられてぽかんとしている彼女に、僕は用意していた言葉を告げた。
「ステラ……君は僕の妹なんだ」
「……………えっ?」
「君は血のつながった僕の妹なんだよ」
僕は重々しくそう言ってから深くソファーに腰かける。僕の言葉を理解できていないのか彼女は唖然としていた。僕がこくりと紅茶を飲むとティーカップは空になる。
すぐにルークが紅茶を継ぎ足す横で僕は深々と息を吐いた。
「本当だよ。君と僕は正真正銘、血のつながった兄妹だ。……兄妹は結婚できない。だからどうか僕との婚約を破棄してほしいんだ」
「え、あの……オスカー様と、私が?」
愛らしい少女はやっと僕の言った言葉を理解したのか、おろおろと狼狽し始める。僕は彼女が落ち着くのを待たずに続けることにした。
「ステラ、君は孤児院にいただろう? そしてすぐにオルレアン伯爵に引き取られたはずだ」
「え、えぇ、そうです」
「孤児院に行く前のことは覚えているかい?」
僕がそう尋ねれば彼女は顔色を悪くしながらも恐る恐る頷いてくれる。僕はそれに困ったように微笑んだ。
「なら、君には兄がいたことも覚えているかな」
「……はい」
ステラの目に涙が溜まり始める。丸く大きな瞳が涙で潤む様子に、僕は彼女の隣に席を移動する。そして彼女の手を取った。
「孤児院で別れてからずっと君を探していたよ。ステラ……会いたかった、僕の可愛い妹」
「本当に、本当にお兄様なのですか?」
震える声でそう呟く彼女に僕は大きく頷く。
「君と僕しか知らないことを教えてあげる」
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