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三人目
掃除
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私は女酒を作るため、部屋へと材料を取りに行く。酒の味を妄想しながらドアの鍵を開けた。
「隆一!? 隆一なの!?」
中の材料が、不安そうな鳴き声を上げる。
私は笑いそうになったが、必死でこらえる。最後まで残ったこの材料は、隆一くんが死んでいる可能性など全く考えていないのだろう。部屋で掃除をしていると信じているはずだ。実際には部屋を掃除するどころか、部屋を血で汚してしまっているのだが。
大丈夫だ。すぐに会わせてあげられるから。
私はドアをゆっくりと開いた。と、携帯電話を握りしめた女子生徒が近寄ってくる。
不安そうな表情の女子生徒へ優しく声をかける。
「すみません。隆一くんは別の部屋にいます。深雪さんでしたよね。貴方も片付けをお願いします。こちらへ来てください」
私はそう言うと部屋を出た。女子生徒、深雪ちゃんも少し遅れて後を着いてくる。その表情は先程と比べると柔らかく変化していた。
すぐに真実を知り、恐怖と絶望の表情に支配されることだろう。無惨に殺された残骸を網膜へと焼き付け、自分が殺される現実を実感するはずだ。
私は深雪ちゃんと隆一くんを再会させるためドアの前で止まり、開けるよう促した。
深雪ちゃんは困惑しながらもドアに手をかけ、開ける。
「.........え?」
深雪ちゃんは時が止まったかのように微動だにしない。まあ無理もない。目前には同級生二人の惨殺体が転がっているのだから。
私は深雪ちゃんの表情をじっくりと観察する。
決して受け入れることができない現実。変わり果てた友達への困惑。目の前の死体への純粋な恐怖。そしてその恐怖は自分が同じ目に会う可能性へと気づいた瞬間、不純な恐怖へと変化する。
それを吐き出すかのように深雪ちゃんは絶叫した。
「いやああああああああああ!」
自分で発した絶叫は空気を伝わり、自分の耳へと入る。絶叫は脳を震わせ、さらに恐怖は倍倍増し絶叫する。
私は壊れそうな深雪ちゃんへ仕事をお願いする。
「さて。それでは深雪さんにはまずごみ掃除をしてもらいましょう。お願いしますね」
「......な......はっ......」
深雪ちゃんは言葉を上手く発音できなくなっていた。目からは涙を流し、口から涎を垂れ流しながら呼吸していた。
私はため息をつき、冷静になれるように処置を施すことにした。その場から動けない深雪ちゃんを抱き寄せる。なされるがまま、私の腕へと飛び込んできた。
「まず一本」
深雪ちゃんの左手人差し指を握りしめ、力一杯ねじる。
「ぎゃああああああ!」
苦痛に顔を歪めながら絶叫する。先程の絶叫とは全く質の違う、純粋な痛みから出ている声だった。
「落ち着いたら、もう大丈夫と声をかけてくださいね。次は右手人差し指いきましょう」
私が力を込めると深雪ちゃんの指は限界までしなる。絶叫を聴きながらさらに力を込めると、ごりごりとした感触とともに人差し指は手の甲に完全に接触する。
八本目の指を折ろうとする。と、深雪ちゃんが唇を噛みきり、血を流しながら話しかけてきた。
「......ギギ...もうだいじょうぶ...です.....」
「そうですか。なら散らばっている肉片と死体をごみ袋へ入れてください」
私はにっこりと深雪ちゃんへと笑いかけ、ゴミ袋を手渡した。が、すぐに落としてしまう。
「本当に大丈夫ですか? もう一本くらい折りますか?」
私がそう言うと深雪ちゃんはガタガタと震えながら首を振る。ここで単純なミスを犯していた事に気がついた。
「すみません。その手では上手く掃除できませんよね」
私はばらばらに指をさしているその手を見つめる。そして優しく手をとると人差し指を元へ戻した。
「ぎゃあああああ!」
深雪ちゃんが絶叫し暴れる。が、暴れるほどに握りしめられている人差し指が痛むことに気がついたのだろう。震えながらも大人しくなった。
私は全ての指を戻すため、まとめて掴み、力一杯捻った。
「隆一!? 隆一なの!?」
中の材料が、不安そうな鳴き声を上げる。
私は笑いそうになったが、必死でこらえる。最後まで残ったこの材料は、隆一くんが死んでいる可能性など全く考えていないのだろう。部屋で掃除をしていると信じているはずだ。実際には部屋を掃除するどころか、部屋を血で汚してしまっているのだが。
大丈夫だ。すぐに会わせてあげられるから。
私はドアをゆっくりと開いた。と、携帯電話を握りしめた女子生徒が近寄ってくる。
不安そうな表情の女子生徒へ優しく声をかける。
「すみません。隆一くんは別の部屋にいます。深雪さんでしたよね。貴方も片付けをお願いします。こちらへ来てください」
私はそう言うと部屋を出た。女子生徒、深雪ちゃんも少し遅れて後を着いてくる。その表情は先程と比べると柔らかく変化していた。
すぐに真実を知り、恐怖と絶望の表情に支配されることだろう。無惨に殺された残骸を網膜へと焼き付け、自分が殺される現実を実感するはずだ。
私は深雪ちゃんと隆一くんを再会させるためドアの前で止まり、開けるよう促した。
深雪ちゃんは困惑しながらもドアに手をかけ、開ける。
「.........え?」
深雪ちゃんは時が止まったかのように微動だにしない。まあ無理もない。目前には同級生二人の惨殺体が転がっているのだから。
私は深雪ちゃんの表情をじっくりと観察する。
決して受け入れることができない現実。変わり果てた友達への困惑。目の前の死体への純粋な恐怖。そしてその恐怖は自分が同じ目に会う可能性へと気づいた瞬間、不純な恐怖へと変化する。
それを吐き出すかのように深雪ちゃんは絶叫した。
「いやああああああああああ!」
自分で発した絶叫は空気を伝わり、自分の耳へと入る。絶叫は脳を震わせ、さらに恐怖は倍倍増し絶叫する。
私は壊れそうな深雪ちゃんへ仕事をお願いする。
「さて。それでは深雪さんにはまずごみ掃除をしてもらいましょう。お願いしますね」
「......な......はっ......」
深雪ちゃんは言葉を上手く発音できなくなっていた。目からは涙を流し、口から涎を垂れ流しながら呼吸していた。
私はため息をつき、冷静になれるように処置を施すことにした。その場から動けない深雪ちゃんを抱き寄せる。なされるがまま、私の腕へと飛び込んできた。
「まず一本」
深雪ちゃんの左手人差し指を握りしめ、力一杯ねじる。
「ぎゃああああああ!」
苦痛に顔を歪めながら絶叫する。先程の絶叫とは全く質の違う、純粋な痛みから出ている声だった。
「落ち着いたら、もう大丈夫と声をかけてくださいね。次は右手人差し指いきましょう」
私が力を込めると深雪ちゃんの指は限界までしなる。絶叫を聴きながらさらに力を込めると、ごりごりとした感触とともに人差し指は手の甲に完全に接触する。
八本目の指を折ろうとする。と、深雪ちゃんが唇を噛みきり、血を流しながら話しかけてきた。
「......ギギ...もうだいじょうぶ...です.....」
「そうですか。なら散らばっている肉片と死体をごみ袋へ入れてください」
私はにっこりと深雪ちゃんへと笑いかけ、ゴミ袋を手渡した。が、すぐに落としてしまう。
「本当に大丈夫ですか? もう一本くらい折りますか?」
私がそう言うと深雪ちゃんはガタガタと震えながら首を振る。ここで単純なミスを犯していた事に気がついた。
「すみません。その手では上手く掃除できませんよね」
私はばらばらに指をさしているその手を見つめる。そして優しく手をとると人差し指を元へ戻した。
「ぎゃあああああ!」
深雪ちゃんが絶叫し暴れる。が、暴れるほどに握りしめられている人差し指が痛むことに気がついたのだろう。震えながらも大人しくなった。
私は全ての指を戻すため、まとめて掴み、力一杯捻った。
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