上 下
14 / 32
娘たちの宴

ばらばら!

しおりを挟む
「よし! 達磨を作りましょうか!」

「だるま? なにそれ?」

「達磨を知らないの? 赤くて手足が無いおじさんよ。玄関に飾ってあるでしょう?」

「......う~ん...わかんないや!」

「難しく考えなくていいわよ。手足を切り落とせばいいだけだから。はい、これ使ってね」

「うん! だるまつくる!」

 來唯は鋸を受けとると、右腕に刃をあてがった。隆一くんの瞳は絶望の色に染まっていた。無理もないだろう。バイトをしにここに来たはずが、気がついたら友達を壊される。さらに縛られ、斬られ、今から自分も殺されようとしている。
 貴重な経験が出来たと私たちに感謝していることだろう。まあ、その経験を今後に活かせはしないのだが。
 來唯の握りしめている鋸がゆっくりと動いていく。その度に血が飛び散り、娘たちの体は達磨のように真っ赤に染まった。と、鋸の動きが止まった。

「......もうつかれた! ぜんぜんきれない!」

 來唯はそう言うと座り込んでしまった。ふて腐れた表情で隆一くんに突き立ったままの鋸を睨み付けていた。

「來唯は使いかたが下手なのよ。この鋸は引き切り。がむしゃらに動かすのではなくて、引くときだけに力を入れればいいの」

 五望はそう言うと、鋸をリズミカルに動かし始めた。力加減も絶妙、すぐに隆一くんから腕が分離した。すかさず鋸を置き、焼けた鉄棒を断面に押し付ける。隆一くんは暴れるが、縛られているためほとんど動けない。その姿はまるでサナギのよう。いくら逃げようとしてもほとんど動けず、なされるがままだった。部屋に肉の焼ける香ばしい匂いが立ちこめ、食欲をそそる。

來唯が切断された腕を見つめながらぼそっと呟いた。

「......おなかすいたなぁ」

「これは食べちゃだめよ!」

「......わかってるよ.....あ! あれなに!?」

「え?」

 來唯がいきなり隆一くんを指差した。五望は思わず振り向いた。その瞬間、切断された右腕は奪われる。

「ちょっと! 返しなさい!」

「いやだ! おねえちゃんはひだりうできればいいじゃん! けち!」

「いい加減言うこと聞かないと殺すわよ!」

「ころされてもかえしませんよ~」

 來唯はそう言うと、腕に噛みついた。そのまま肉を引きちぎり飲み込む。

「おいしい!」

 ガツガツと腕を食べていく來唯に、五望が切れた。

「.......返せって言ってんだろうが! もう代わりにお前殺す!」

 五望は鋸を思いっきり投げた。正確に來唯の眉間向かって飛んでいく。

「わっ!」

 しゃがんだ來唯の頭上ぎりぎりを刃が掠めた。
 娘たちはいつもは仲が良いのだが、たまに喧嘩をしてしまう。まったくしょうがない娘たちだ。私はため息をついた。

 來唯は頭を押さえながら立ち上がった。

「おねえちゃんのばか! あたったらあぶないじゃん!」

「うるさい! 殺すぞ!」

 五望は部屋に置いてあったチェーンソーのエンジンをかける。騒音をたてながら刃が回転し始めた。

「それはずるい!」

 來唯は五望を指差しながら叫んだ。

「死ねよ」

 五望はそう呟くと來唯に走りより、チェーンソーを振り下ろした。回転する刃が肉を裂き、骨を撒き散らし、 脳を破壊した。

「いい加減にしろ!」

 私は五望と來唯の頭に拳骨を振り下ろす。

「痛い!」

「いたい!」

 二人は頭を押さえうずくまった。素早くチャーンソーを停止させる。

「五望! もう少しで來唯が死ぬところだったぞ! お前は怒りに任せて人間を切り殺していいと思っているのか!」

「......ごめんなさい」

 五望はうずくまったままそう言った。

「......ぱぱ、ありがと。あとごめんなさい」

 來唯はよろよろと立ち上がったあと、涙目でそう言った。

「......來唯も好き勝手するのはやめなさい」

「......わかった」

「なら、五望に謝りなさい」

 來唯はうつむいたまま五望の前に歩いていった。

「......おねえちゃん、ごめんなさい」

「......私も少しやり過ぎたわ」

「......ぶんかいのつづきしようよ」

「...そうね! 達磨を作りましょうか!」

「うん! つくる!」

 二人は仲直りしたようだ。手を繋ぎながら隆一くんの元へと歩いていった。
 私は大きく息を吐き出した。床には、來唯を守るために投げ飛ばした葵が飛び散っていた。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

暗夜の灯火

波と海を見たな
ホラー
 大学を卒業後、所謂「一流企業」へ入社した俺。  毎日毎日残業続きで、いつしかそれが当たり前に変わった頃のこと。  あまりの忙しさから死んだように家と職場を往復していた俺は、過労から居眠り運転をしてしまう。  どうにか一命を取り留めたが、長い入院生活の中で自分と仕事に疑問を持った俺は、会社を辞めて地方の村へと移住を決める。  村の名前は「夜染」。

秘密の仕事

桃香
ホラー
ホラー 生まれ変わりを信じますか? ※フィクションです

その影にご注意!

秋元智也
ホラー
浅田恵、一見女のように見える外見とその名前からよく間違えられる事が いいのだが、れっきとした男である。 いつだったか覚えていないが陰住むモノが見えるようになったのは運が悪い としか言いようがない。 見たくて見ている訳ではない。 だが、向こうは見えている者には悪戯をしてくる事が多く、極力気にしない ようにしているのだが、気づくと目が合ってしまう。 そういう時は関わらないように逃げるのが一番だった。 その日も見てはいけないモノを見てしまった。 それは陰に生きるモノではなく…。

お兄さん。オレのあいさつ……無視したよね?

どっぐす
ホラー
知らない子供から、あいさつをされた。 それを無視してしまい、12年のあいだ後悔し続けた男の話。

THE TOUCH/ザ・タッチ -呪触-

ジャストコーズ/小林正典
ホラー
※アルファポリス「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」サバイバルホラー賞受賞。群馬県の山中で起こった惨殺事件。それから六十年の時が経ち、夏休みを楽しもうと、山にあるログハウスへと泊まりに来た六人の大学生たち。一方、爽やかな自然に場違いなヤクザの三人組も、死体を埋める仕事のため、同所へ訪れていた。大学生が謎の老人と遭遇したことで事態は一変し、不可解な死の連鎖が起こっていく。生死を賭けた呪いの鬼ごっこが、今始まった……。

美しい骸骨

栗菓子
ホラー
人は死んだら腐りはて、白骨死体と化す。その骸骨に人々はどんな思いを抱いたのか? ここは或る村で、死んだ家族の墓を数年後掘りおこし、頭蓋骨を泥と死肉を洗い流す。そしてしばらく天日干しする。そうすると白い骸骨が出来上がる。 家族で彼らは仲間の遺体に、丁寧に植物や岩、赤土の溶いた塗料で丁寧に芸術作品を創る儀式が或る。 花や植物の紋様。魔除けの紋様。天空の模様。鳥や獣の模様。 彼らはその骸骨を守り物とし、自然に凍った冷凍の洞窟に収める。 中央には祭壇。食べ物と葬列の花。綺麗な石。貝殻など死者を供養する綺麗な者ばかり集めて供えている。 供養だ。 喪った家族の痕跡、証はこの頭蓋骨の山によって残される。 彼らはそれに安堵し、ああまだいるんだわと錯覚をし、心の安寧を取り戻す。 村だけの祭りは、それぞれの最近死んだ骸骨を取り出し、子供たちに抱かせ村中を回り、美しい景色、先祖の創り出した遺跡などを見せる。  一周した後、洞窟に丁寧に収める。その後で大人も子どもも開放的な祭りが始まる。 その一役をかうのが、骨にまじないの紋様を書く呪術者である。 他にも託宣や、予言をするシャーマンである。

あなたが口にしたものは

浅貴るお
ホラー
 復讐を行うレストランのお話。

だから、私は愛した。

惰眠
ホラー
一生に一度の本気の愛情を注ぐ。愛するから愛されるわけではないことはわかっている。それでも愛するのって素敵でしょ?すべてを捨てでもいいと思えるほど私にとって貴方は魅力的だってこと、少しはわかって。彼女は精一杯の思いを込めて、愛を捧げた。彼女は一途だった。 貴方も私の心の中を覗きたいみたいね。 もっと狂ってしまえばいいのに。

処理中です...