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隆一くんはバイトする

バイトしよう!

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 西南高校二年生、高山隆一たかやまりゅういちは教室の机に突っ伏し居眠りしていた。本当に退屈していた。朝起きて学校に行き、授業を受け、放課後は部活。帰宅してご飯を食べ、風呂に入り眠る。毎日毎日同じことの繰り返しだ。面白味の欠片も無かった。
 新聞のニュースにはたくさんの事件や災害が起こっているのに、自分の生活には何の変化も無かった。

「高山! 良いもうけ話があるんだけどやらない?」

 突然声が降ってくる。隆一は重い頭を持ち上げた。

「もうけ話ってなに?」

 そこには、友達の深雪みゆきが立っていた。小学校からの友達で、天真爛漫な性格をしている。いつもなにかしら走り回っている変な奴だ。

「これ見てよ!」

 深雪が机の上に一枚の紙を叩きつけた。

『アルバイト募集中。家の清掃です。三人で応募してください。日給一人一万五千円、別途交通費支給します』

 そう書いてあった。確かに一日一万五千円は割りの良いバイトと言えるだろう。

「まあ、結構良いバイトだな」

「それだけじゃないの!」

 深雪は興奮ぎみに住所欄を指差した。

「......?」

 隆一は見たこともない住所に首を捻る。

「分からないの!? この住所はあの有名な『幽霊屋敷』よ!」

 隆一は暫し考え、思い出した。

「幽霊屋敷っていえば、ここの生徒達が噂していたな」

 たしかずっと空き家で、夜な夜な変な泣き声が聞こえてくるとかなんとか言っていたっけ。

「そう! その幽霊屋敷よ! そこの清掃なんて物凄く面白くない?」

 深雪はきらきらと瞳を輝かせる。

「うーんどうしようかな......」

 隆一は首を捻った。

「隆一に拒否権はないわ。昨日数学の課題を見せたのは誰だったかしら? ねえ?」

 隆一は黙りこんだ。

「こいつに貸しを作るんじゃなかった......」

 隆一はそう呟いた。

「それじゃあ、決定ね」

 深雪はそう言うと、ボールペンを渡してきた。渋々名前と住所を書いた。
 深雪は隆一が書いた瞬間紙を奪い取り、既に次のターゲットを決めていた。

あおい! 良いもうけ話があるんだけど! 乗らない?」

 深雪はそう言うと、葵の側へ走りよっていった。
 気の弱い葵のことだから、どうせ断れないのだろう。隆一はそう確信していた。
 案の定、わたわたしている葵に無理矢理ボールペンを持たせていた。




 結局バイトにいくはめになった隆一は、金曜日に三人で行くことになった。
 隆一は駅で待ち合わせし、三人は電車に揺られること三十分。そこから徒歩で二十分。やっとお屋敷に到着した。

「......ここか?」

 隆一はハアハアと肩で息をしながら尋ねた。
 見た感じ確かに古いが、そこまで不気味というほどではなかった。

「そう! ここがあの幽霊屋敷よ!」

 いつもと変わらず、元気まんまんな深雪はそう答えた。

「ちょっと待って......みんな早いよ......」

 後ろからやっと葵が追い付いていた。息も絶え絶えでお屋敷の前にたどり着いた瞬間、座り込んでしまった。




 葵が回復するのを待って、三人はブザーを押した。

「すいませーん!!」

 深雪が声を張り上げる。
 ドアがガチャリと開き、中から女の子が一人出てくる。小学生ぐらいだろうか?

「......ぱぱ~さくひんがきたよ~」

 女の子はパタパタと中へ戻っていった。代わりに男の人が出てきた。

「アルバイトの面接を希望されていた方たちですね。どうぞお入りください」

 男の人は玄関のドアを大きく開ける。

「おじゃまします!」

 一番に深雪が入っていった。続けて葵もおどおどしながらも入っていく。最後に隆一も入った。

「よくいらっしゃいました。こちらで面接をしますので来てください」

 男の人はにっこりと笑った。その笑顔を見た隆一は、何故か背筋がぞくっとしていた。
 突然、後ろからバタンと音がした。
 隆一が慌てて振り返ると、さっきの女の子が玄関のドアを閉めていた。そして隆一に向かってにっこりと笑いかけてきた。


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