成長する殺人鬼1(完結)

一二の三太郎

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五章 心咲ちゃんの恋愛事情

『心咲』逃亡

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 私は、お兄さんが一歩近づいてきた瞬間、体を翻し駆け出す。そして急いでポケットに手を入れた。
 信じたくは無かった。あの優しかったお兄さんが、お姉ちゃんを誘拐した犯人だなんて......。
 でも、お兄さんのあの顔は、犯罪者の顔だった。
 私は全力で走り、少し開いていた蔵の中へ逃げ込むと、扉を閉め必死に押さえる。
「心咲ちゃん。何もしないから出てきてよ」
 お兄さんは扉をどんどんと叩く。気のせいか、少し笑っているようにも聞こえた。
 私が黙っていると、お兄さんはまた話しかけてきた。
「実はね、そこに希美ちゃんがいるんだよ」
 私はそう言われ、思わず聞き返した。
「希美がいるってどういう意味ですか!」
「言葉通りの意味だよ。奥の床に扉がある。その中に希望ちゃんはいるよ」
 私はそれを聞くと、全力で蔵の奥へ走り出した。
 ずっと探していた希美がここにいる。私の親友がすぐそこにいる。
 突き当たりにあった扉を開け、梯子を下へ降りていく。
 むわっとした強烈な臭いが鼻孔を刺激する。構わず一番下まで降りた。日中とはいえ、中は暗くほとんど何も見えない。
「希美! どこにいるの!」
 しかし返事は何もなく、微かに何かが動く音が聞こえて来る。
 突然、ドスンと音が聞こえ、振り返ると、お兄さんが上から飛び降りてきていた。
「どう? その子と友達だったんだよね?」
 お兄さんはにこにこと微笑んでいる。
「希美はどこにいるんですか!」
 私は、目の前にいるこの人が誘拐犯だという事も忘れ、詰め寄っていった。
「そう慌てないで。今電気をつけてあげるから」
 お兄さんがそう言うと、部屋が一気に明るくなった。私は目が眩んだけれど、必死に辺りを見回した。壁にはたくさんのハエが止まっていが、誰もいない。我慢できずに部屋から出ようとはしごに足をかけた。
すると、部屋の角に、何かを包んでいる風呂敷が目に入った。微かに動いているようだ。
「の、希美?」
 私は震える声で話しかける。まさか。
 返事は無い。私は震える足で一歩一歩近づいていった。
「......希美?」
 私は震える手で風呂敷の結びを解き、一気に開けた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
 そこには、人の形をした蛆虫がごそごそと這い回っていた。
「お友達とのご対面だ」
 お兄さんが笑いながらそう言った。
 もしかして、これが希美なの......
 私は、お兄さんの笑い声を聞きながら暗闇に落ちていった。

「心咲ちゃん。気分はどう? まだ起きないの?」
 私はそう言われ、目を覚ました。全部悪い夢だったのかな......
「え? なんで!」
 私は一瞬で眠気が吹き飛んだ。手足をベッドに縛り付けられ、服を全て脱がされていたからだ。
 私は恐怖、屈辱、羞恥、後悔。色々な感情がぐちゃぐちゃになり、涙が溢れていった。
「うっ......ひっく......」
「あ、目が覚めたんだね」
 声が聞こえて来た方を見ると、お兄さんが立っていた。そして左右の手に何かを持っていた。
 私はすぐにそれが何かに気づく。
「お姉ちゃん! あああああ! なんでぇぇぇ!」
 私は泣き叫び、暴れた。
 優しかったお姉ちゃんが、首だけですぐそこにいた。
「いいことを教えてあげる。蔵の部屋にあった死体は希美ちゃんのだよ。君のお姉ちゃんも殺しちゃった。ね?」
 お兄さんは、得意気にお姉ちゃんを持ち上げる。
 私は涙で視界がぼやけていた。優しかったお姉ちゃん。仲良しだった希美。そして密かに好きだったお兄さん......
 そしてそのお兄さんが私の大切な人達を奪っていったんだ......
「それじゃあ、心咲ちゃんもみんなの所に送ってあげるね。君は水を入れて殺してあげる。口と膣と肛門にホースを突っ込むんだよ」
 お兄さんはそう言って部屋を出ていった。私は一人、震えていた。

「それじゃあいくよ。まずは膣からね」
 お兄さんはそう言うと、ピタリとホースを当ててきた。
「やめて! お願い! 許してぇぇぇぇ!!」
 私は必死に許しを乞う。しかし、無駄だった。
 無理矢理ホースを突っ込まれ、そのままグリグリと回される。鈍い痛みと共に、私の中に更に入ってきた。
「......ひっく......こんな......」
 私はなにも出来なかった。何一つ抵抗出来なかった。
「それじゃあ、水を入れていこうか」
 お兄さんはそう言うと、部屋から出ていった。しばらくして、私の中に冷たい液体が入ってきた。
 私は力の限り叫んだ。

「まだ行けそう?」
 戻ってきたお兄さんがホースを押さえ、水を注入していく。
 私は恐怖と痛みのあまり、叫び声を上げた。
「やめてえぇぇぇ! 痛い痛いいたいいたい!」
 どんどん水が入ってくる。
 私、ここで死ぬのかな。そう諦め始めていた。
 でも。
 お姉ちゃんが私を助けてくれたのかな。部屋の扉が勢い良く開く。
「取り押さえろ!」
「10時10分逮捕!」
 私はその声を聞き、気を失ってしまった。


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