27 / 39
五章 心咲ちゃんの恋愛事情
『心咲』核心
しおりを挟む
俺は車に乗り込み、目的地に向かっていた。ミラー越しに、少し不安そうな心咲が写っていた。本当は助手席に座らせたかったのだが、唯と葵を先に乗せてしまっていた。
「えっと、唯が行方不明になった時の状況を教えてくれない?」
俺はミラーを見ながら、分かりきっている事を尋ねてみた。まだ疑われる訳にはいかない。
「そうですね......確か、お姉ちゃんは部屋の片付けをしていました。少しお喋りした後、私は行方不明になっている友達を探しに行ったんです。でも帰ってきたらお姉ちゃんはいなくなってて......」
心咲はそこまで言うと、下を向いて黙りこんでしまった。無理も無い。友達に続いて姉まで行方不明になったのだ。そうとうショックなんだろう。
「大丈夫! 絶対二人に会わせてあげるから」
俺はニッコリと笑い、心咲を慰めた。
「......有難うございます。お兄さん」
心咲は、赤く泣き腫らした目で俺を見つめてくる。
そう。すぐに会わせてあげる。
俺は心の中でもう一回そう言うと、ハンドルをグッと握りしめる。もう少しだ。後少しでこの少女は水を注入され、飲まされ、泣いて許しを乞うだろう。
「ここは?」
俺が実家に到着すると、何も知らない心咲が尋ねてくる。
「いいから、ちょっと来てみて」
戸惑っている心咲を、俺は少し強引に引っ張った。
「お兄さん! ちょっと痛いです! 離して!」
心咲は強い口調でそう言うと、俺の手を振り払う。
「どうしたの? 多分ここに唯はいると思うよ?」
俺がそう言うと、心咲はジリジリと距離を取り始めた。
「お兄さん、一つ聞きたい事があるんです。これ、何だと思いますか?」
心咲は、右手に持っていたなにかを投げつけてきた。俺は慌てて受けとった。
バレーボールのキーホルダーだ。しかし、これが何なんだ?
「それ、最近私がお姉ちゃんにあげたキーホルダーなんです。なんでお兄さんの車の中に落ちているんですか?」
心咲がじっと俺を見つめてくる。
「......覚えてないなあ。でも、これが唯のだとは限らないだろう?」
俺はキーホルダーを摘まむと、心咲に付き出す。
まさか、こんなゴミのせいで疑われるとは思っていなかった。俺は少し焦り始めていた。
「ダメですお兄さん。そのボールは開くんですよ」
心咲は首を振る。
俺はボールを良く観察した。そしてスイッチを押した。
パカッと開いて、中から『九人目』と『十人目』が出てきた。とても楽しそうに笑っている。
「......そうだ、思い出した。最近唯を車に乗せたから、その時に落としたのかもしれない」
俺は苦し紛れに嘘をついた。しかし、この嘘が自分を追い詰めるものだと直感じていた。
「いつなんですか?」
「え?」
「いつお姉ちゃんを車に乗せたんですか?」
「......詳しくは覚えていないけど、一週間ぐらい前だったと思う」
俺がそう言うと、心咲はさらに一歩下がり、震えながら指差してきた。
「......お兄さんが誘拐したんでしょう?」
俺は焦っていた。電話されたり逃げられたりする前に、早くこいつを拘束しなければ。
俺は一歩前に進んだ。
「えっと、唯が行方不明になった時の状況を教えてくれない?」
俺はミラーを見ながら、分かりきっている事を尋ねてみた。まだ疑われる訳にはいかない。
「そうですね......確か、お姉ちゃんは部屋の片付けをしていました。少しお喋りした後、私は行方不明になっている友達を探しに行ったんです。でも帰ってきたらお姉ちゃんはいなくなってて......」
心咲はそこまで言うと、下を向いて黙りこんでしまった。無理も無い。友達に続いて姉まで行方不明になったのだ。そうとうショックなんだろう。
「大丈夫! 絶対二人に会わせてあげるから」
俺はニッコリと笑い、心咲を慰めた。
「......有難うございます。お兄さん」
心咲は、赤く泣き腫らした目で俺を見つめてくる。
そう。すぐに会わせてあげる。
俺は心の中でもう一回そう言うと、ハンドルをグッと握りしめる。もう少しだ。後少しでこの少女は水を注入され、飲まされ、泣いて許しを乞うだろう。
「ここは?」
俺が実家に到着すると、何も知らない心咲が尋ねてくる。
「いいから、ちょっと来てみて」
戸惑っている心咲を、俺は少し強引に引っ張った。
「お兄さん! ちょっと痛いです! 離して!」
心咲は強い口調でそう言うと、俺の手を振り払う。
「どうしたの? 多分ここに唯はいると思うよ?」
俺がそう言うと、心咲はジリジリと距離を取り始めた。
「お兄さん、一つ聞きたい事があるんです。これ、何だと思いますか?」
心咲は、右手に持っていたなにかを投げつけてきた。俺は慌てて受けとった。
バレーボールのキーホルダーだ。しかし、これが何なんだ?
「それ、最近私がお姉ちゃんにあげたキーホルダーなんです。なんでお兄さんの車の中に落ちているんですか?」
心咲がじっと俺を見つめてくる。
「......覚えてないなあ。でも、これが唯のだとは限らないだろう?」
俺はキーホルダーを摘まむと、心咲に付き出す。
まさか、こんなゴミのせいで疑われるとは思っていなかった。俺は少し焦り始めていた。
「ダメですお兄さん。そのボールは開くんですよ」
心咲は首を振る。
俺はボールを良く観察した。そしてスイッチを押した。
パカッと開いて、中から『九人目』と『十人目』が出てきた。とても楽しそうに笑っている。
「......そうだ、思い出した。最近唯を車に乗せたから、その時に落としたのかもしれない」
俺は苦し紛れに嘘をついた。しかし、この嘘が自分を追い詰めるものだと直感じていた。
「いつなんですか?」
「え?」
「いつお姉ちゃんを車に乗せたんですか?」
「......詳しくは覚えていないけど、一週間ぐらい前だったと思う」
俺がそう言うと、心咲はさらに一歩下がり、震えながら指差してきた。
「......お兄さんが誘拐したんでしょう?」
俺は焦っていた。電話されたり逃げられたりする前に、早くこいつを拘束しなければ。
俺は一歩前に進んだ。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
バベル病院の怪
中岡 始
ホラー
地方都市の市街地に、70年前に建設された円柱形の奇妙な廃病院がある。かつては最先端のモダンなデザインとして話題になったが、今では心霊スポットとして知られ、地元の若者が肝試しに訪れる場所となっていた。
大学生の 森川悠斗 は都市伝説をテーマにした卒業研究のため、この病院の調査を始める。そして、彼はX(旧Twitter)アカウント @babel_report を開設し、廃病院での探索をリアルタイムで投稿しながらフォロワーと情報を共有していった。
最初は何の変哲もない探索だったが、次第に不審な現象が彼の投稿に現れ始める。「背景に知らない人が写っている」「投稿の時間が巻き戻っている」「彼が知らないはずの情報を、誰かが先に投稿している」。フォロワーたちは不安を募らせるが、悠斗本人は気づかない。
そして、ある日を境に @babel_report の投稿が途絶える。
その後、彼のフォロワーの元に、不気味なメッセージが届き始める——
「次は、君の番だよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる