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五章 心咲ちゃんの恋愛事情
『心咲』核心
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俺は車に乗り込み、目的地に向かっていた。ミラー越しに、少し不安そうな心咲が写っていた。本当は助手席に座らせたかったのだが、唯と葵を先に乗せてしまっていた。
「えっと、唯が行方不明になった時の状況を教えてくれない?」
俺はミラーを見ながら、分かりきっている事を尋ねてみた。まだ疑われる訳にはいかない。
「そうですね......確か、お姉ちゃんは部屋の片付けをしていました。少しお喋りした後、私は行方不明になっている友達を探しに行ったんです。でも帰ってきたらお姉ちゃんはいなくなってて......」
心咲はそこまで言うと、下を向いて黙りこんでしまった。無理も無い。友達に続いて姉まで行方不明になったのだ。そうとうショックなんだろう。
「大丈夫! 絶対二人に会わせてあげるから」
俺はニッコリと笑い、心咲を慰めた。
「......有難うございます。お兄さん」
心咲は、赤く泣き腫らした目で俺を見つめてくる。
そう。すぐに会わせてあげる。
俺は心の中でもう一回そう言うと、ハンドルをグッと握りしめる。もう少しだ。後少しでこの少女は水を注入され、飲まされ、泣いて許しを乞うだろう。
「ここは?」
俺が実家に到着すると、何も知らない心咲が尋ねてくる。
「いいから、ちょっと来てみて」
戸惑っている心咲を、俺は少し強引に引っ張った。
「お兄さん! ちょっと痛いです! 離して!」
心咲は強い口調でそう言うと、俺の手を振り払う。
「どうしたの? 多分ここに唯はいると思うよ?」
俺がそう言うと、心咲はジリジリと距離を取り始めた。
「お兄さん、一つ聞きたい事があるんです。これ、何だと思いますか?」
心咲は、右手に持っていたなにかを投げつけてきた。俺は慌てて受けとった。
バレーボールのキーホルダーだ。しかし、これが何なんだ?
「それ、最近私がお姉ちゃんにあげたキーホルダーなんです。なんでお兄さんの車の中に落ちているんですか?」
心咲がじっと俺を見つめてくる。
「......覚えてないなあ。でも、これが唯のだとは限らないだろう?」
俺はキーホルダーを摘まむと、心咲に付き出す。
まさか、こんなゴミのせいで疑われるとは思っていなかった。俺は少し焦り始めていた。
「ダメですお兄さん。そのボールは開くんですよ」
心咲は首を振る。
俺はボールを良く観察した。そしてスイッチを押した。
パカッと開いて、中から『九人目』と『十人目』が出てきた。とても楽しそうに笑っている。
「......そうだ、思い出した。最近唯を車に乗せたから、その時に落としたのかもしれない」
俺は苦し紛れに嘘をついた。しかし、この嘘が自分を追い詰めるものだと直感じていた。
「いつなんですか?」
「え?」
「いつお姉ちゃんを車に乗せたんですか?」
「......詳しくは覚えていないけど、一週間ぐらい前だったと思う」
俺がそう言うと、心咲はさらに一歩下がり、震えながら指差してきた。
「......お兄さんが誘拐したんでしょう?」
俺は焦っていた。電話されたり逃げられたりする前に、早くこいつを拘束しなければ。
俺は一歩前に進んだ。
「えっと、唯が行方不明になった時の状況を教えてくれない?」
俺はミラーを見ながら、分かりきっている事を尋ねてみた。まだ疑われる訳にはいかない。
「そうですね......確か、お姉ちゃんは部屋の片付けをしていました。少しお喋りした後、私は行方不明になっている友達を探しに行ったんです。でも帰ってきたらお姉ちゃんはいなくなってて......」
心咲はそこまで言うと、下を向いて黙りこんでしまった。無理も無い。友達に続いて姉まで行方不明になったのだ。そうとうショックなんだろう。
「大丈夫! 絶対二人に会わせてあげるから」
俺はニッコリと笑い、心咲を慰めた。
「......有難うございます。お兄さん」
心咲は、赤く泣き腫らした目で俺を見つめてくる。
そう。すぐに会わせてあげる。
俺は心の中でもう一回そう言うと、ハンドルをグッと握りしめる。もう少しだ。後少しでこの少女は水を注入され、飲まされ、泣いて許しを乞うだろう。
「ここは?」
俺が実家に到着すると、何も知らない心咲が尋ねてくる。
「いいから、ちょっと来てみて」
戸惑っている心咲を、俺は少し強引に引っ張った。
「お兄さん! ちょっと痛いです! 離して!」
心咲は強い口調でそう言うと、俺の手を振り払う。
「どうしたの? 多分ここに唯はいると思うよ?」
俺がそう言うと、心咲はジリジリと距離を取り始めた。
「お兄さん、一つ聞きたい事があるんです。これ、何だと思いますか?」
心咲は、右手に持っていたなにかを投げつけてきた。俺は慌てて受けとった。
バレーボールのキーホルダーだ。しかし、これが何なんだ?
「それ、最近私がお姉ちゃんにあげたキーホルダーなんです。なんでお兄さんの車の中に落ちているんですか?」
心咲がじっと俺を見つめてくる。
「......覚えてないなあ。でも、これが唯のだとは限らないだろう?」
俺はキーホルダーを摘まむと、心咲に付き出す。
まさか、こんなゴミのせいで疑われるとは思っていなかった。俺は少し焦り始めていた。
「ダメですお兄さん。そのボールは開くんですよ」
心咲は首を振る。
俺はボールを良く観察した。そしてスイッチを押した。
パカッと開いて、中から『九人目』と『十人目』が出てきた。とても楽しそうに笑っている。
「......そうだ、思い出した。最近唯を車に乗せたから、その時に落としたのかもしれない」
俺は苦し紛れに嘘をついた。しかし、この嘘が自分を追い詰めるものだと直感じていた。
「いつなんですか?」
「え?」
「いつお姉ちゃんを車に乗せたんですか?」
「......詳しくは覚えていないけど、一週間ぐらい前だったと思う」
俺がそう言うと、心咲はさらに一歩下がり、震えながら指差してきた。
「......お兄さんが誘拐したんでしょう?」
俺は焦っていた。電話されたり逃げられたりする前に、早くこいつを拘束しなければ。
俺は一歩前に進んだ。
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