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四章 唯ちゃんの好きな人
『唯』恋愛◯
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今日の午後に、明弘が家に来ることになった。
私は慌てて部屋を片付け始めた。明弘が訪ねてくるなんて何年ぶりだろう。小学生の時は、よく明弘と二人でこの部屋で遊んでいた。あの時はお互い親友として、とっても仲が良かった。
でも、成長するにつれて、私の家で遊ぶ回数は少なくなっていった。それに比例するように、私と、明弘と、透三人で遊ぶことが多くなっていった。三人で仲良く......。
今日、私は明弘が来てくれる嬉しさと、透が自殺してしまった悲しみとに板挟みになっていた。
なんで透は自殺してしまったんだろう。私は、明弘になにか心当たりがあるかもしれない。そう思って電話した。
違う。嘘だ。本当はただ、明弘に会いたかったから。だから電話したんだ。私、透を言い訳にして最低だ......
落ち込みながら、一人で自己嫌悪に陥る。私はいっつもこうだ。人前では強くて元気な子を演じているくせに、一人になると、うじうじと悩んでしまう。
「しっかりしないとね!」
私は自分に聞かせるようにそう言うと、部屋を片付け始める。床には読みかけの漫画が伏せてあるし、洋服は脱ぎっぱなし。タンスからはブラジャーがはみ出ている。
私はため息をつき、タンスをしっかりと閉めた。
「こんなもんかな!」
私は最後に掃除機をかけた後、部屋を見渡した。うん。これなら明弘もあきれないだろう。
「お姉ちゃん? 部屋の片付けしてるの?」
私が振り返ると、妹がドアの外に立ってこっちを見ていた。笑ってはいるけれど、目の下のくまが疲れを隠しきれていない。
「......今日もいくの?」
私は聞いてみた。
「......うん。希美、まだ見つからないから」
妹はそう言いながら、自作のポスターを一枚渡してきた。
可愛らしく笑っている写真の上に、大きな文字で『探しています』と書かれている。妹はこの『希美』ちゃんと、とても仲が良かったらしい。毎日必死に探しているみたいだ。
「......無理はしないでね」
私がそう言うと、妹は弱々しく笑いかけてきた。
私は妹が立ち去った後、換気の為に開けていた窓を閉めながら考えていた。最近、私の回りでたくさん人が死んでいる。透と、一緒に乗っていた女の子。それに近くの公園でも、ジャングルジムから落ちて男の子が亡くなったらしい。まさか妹の友達も......
不吉な想像をしていると、玄関のチャイムが鳴った。時計を見ると、もう十二時を回っていた。
「いらっしゃい!」
私は玄関を開け、元気よく出迎えた。明弘は照れたように私の顔を見た後、中に入ってきた。
正直明弘がこんな表情をしたのは意外だった。私は少し戸惑いながらも部屋に案内していく。
「もっと散らかってると思ったよ」
明弘は、私が必死に片付けた部屋を見渡す。
「あんまり見ないでよ! 飲み物持ってくるから、そこに座ってて!」
私はそう言うと、部屋を出て冷蔵庫にあった缶ジュースを二本取りだし、部屋に戻っていく。中に入ると、明弘は座って漫画を読みながら待っていた。
私は缶を手渡し、テーブルを挟んで明弘の前に座った。
「......それで、何か話があったんじゃないの?」
明弘は缶を開けながら訪ねてくる。そうだ。透の事を聞くんだった。
「明弘、透の家で何か調べてたみたいだけど、知ってることがあるなら教えて?」
「......唯、今から話す事は誰にも言わないでくれ」
明弘はそう前置きして、話を始めた。
「実は、透が行方不明になる前に、俺の家に来ていたんだ。その時に、『大変なことをしてしまった』とは言っていたが、すぐに帰ってしまったんだ。恐らく、あの女の子を殺してしまったんだろう......」
明弘は言いにくそうに顔を背けた。
「そんな......透が......」
私は言葉を失った。透がそんな事をするなんて信じられない。でも、刑事さんたちも似たような事を言ってたっけ......
「透がそんな事をしたと信じたくない気持ちは分かる。でも事実なんだ」
明弘はまっすぐに私を見つめてくる。
「............」
私は何も言えずに、黙りこんでしまった。自然と目から涙が溢れてくる。
「唯!」
明弘は突然立ち上がり、私の側まで来ると、いきなり抱きついてきた。
「えっ!?」
私は突然の出来事に驚いたが、拒否はしなかった。だって、私は明弘の事が......。
「透の事が辛いのは分かる。でも、これ以上考えても不幸になるだけだ」
明弘は私を抱き締めながらそう呟いてきた。私は泣きながら明弘にしがみついていた。
「......唯。お前を笑顔にしてやりたい。俺と付き合ってくれ」
明弘はそう言うと、抱きついてきていた腕を離し、真剣に見つめてきた。
「............はい」
私がそう言うと、明弘は無言で抱きついてきた。
私、ずっと明弘を待ってて良かった。明弘を好きで良かった。私は貴方を愛しています。これからもずっと――。
「......唯。お前を笑顔にしてやりたい。俺と付き合ってくれ」
俺はそう言って、唯を見つめる。唯は泣きそうで、笑いそうな表情をしていた。
「............はい」
唯がそう返事をすると、俺はまた抱きついた。泣いているのか体が震えている。多少不自然な展開ではあるが、うまくいった。しかし、こいつもバカな女だ。透を殺した男と付き合う奴の気が知れない。そもそも、俺は別に唯の事は好きでは無い。まあ、ブスでは無い以上利用価値は十分にある。それに、あまり勝手に動かれても困る。手元に置いておいて損はないだろう。
俺は、優しく唯の肩に手をかける。
察したのだろう。唯は目をつぶり、唇を差し出してきた。そして俺はそれを受け取った。
唯とキスしながら透の事を考える。俺から命を奪われ、殺人者の汚名を着せられ、好きな人を奪われた今、あいつはどんな気持ちだろうか。そう考えるだけで俺の心は震えた。
私は慌てて部屋を片付け始めた。明弘が訪ねてくるなんて何年ぶりだろう。小学生の時は、よく明弘と二人でこの部屋で遊んでいた。あの時はお互い親友として、とっても仲が良かった。
でも、成長するにつれて、私の家で遊ぶ回数は少なくなっていった。それに比例するように、私と、明弘と、透三人で遊ぶことが多くなっていった。三人で仲良く......。
今日、私は明弘が来てくれる嬉しさと、透が自殺してしまった悲しみとに板挟みになっていた。
なんで透は自殺してしまったんだろう。私は、明弘になにか心当たりがあるかもしれない。そう思って電話した。
違う。嘘だ。本当はただ、明弘に会いたかったから。だから電話したんだ。私、透を言い訳にして最低だ......
落ち込みながら、一人で自己嫌悪に陥る。私はいっつもこうだ。人前では強くて元気な子を演じているくせに、一人になると、うじうじと悩んでしまう。
「しっかりしないとね!」
私は自分に聞かせるようにそう言うと、部屋を片付け始める。床には読みかけの漫画が伏せてあるし、洋服は脱ぎっぱなし。タンスからはブラジャーがはみ出ている。
私はため息をつき、タンスをしっかりと閉めた。
「こんなもんかな!」
私は最後に掃除機をかけた後、部屋を見渡した。うん。これなら明弘もあきれないだろう。
「お姉ちゃん? 部屋の片付けしてるの?」
私が振り返ると、妹がドアの外に立ってこっちを見ていた。笑ってはいるけれど、目の下のくまが疲れを隠しきれていない。
「......今日もいくの?」
私は聞いてみた。
「......うん。希美、まだ見つからないから」
妹はそう言いながら、自作のポスターを一枚渡してきた。
可愛らしく笑っている写真の上に、大きな文字で『探しています』と書かれている。妹はこの『希美』ちゃんと、とても仲が良かったらしい。毎日必死に探しているみたいだ。
「......無理はしないでね」
私がそう言うと、妹は弱々しく笑いかけてきた。
私は妹が立ち去った後、換気の為に開けていた窓を閉めながら考えていた。最近、私の回りでたくさん人が死んでいる。透と、一緒に乗っていた女の子。それに近くの公園でも、ジャングルジムから落ちて男の子が亡くなったらしい。まさか妹の友達も......
不吉な想像をしていると、玄関のチャイムが鳴った。時計を見ると、もう十二時を回っていた。
「いらっしゃい!」
私は玄関を開け、元気よく出迎えた。明弘は照れたように私の顔を見た後、中に入ってきた。
正直明弘がこんな表情をしたのは意外だった。私は少し戸惑いながらも部屋に案内していく。
「もっと散らかってると思ったよ」
明弘は、私が必死に片付けた部屋を見渡す。
「あんまり見ないでよ! 飲み物持ってくるから、そこに座ってて!」
私はそう言うと、部屋を出て冷蔵庫にあった缶ジュースを二本取りだし、部屋に戻っていく。中に入ると、明弘は座って漫画を読みながら待っていた。
私は缶を手渡し、テーブルを挟んで明弘の前に座った。
「......それで、何か話があったんじゃないの?」
明弘は缶を開けながら訪ねてくる。そうだ。透の事を聞くんだった。
「明弘、透の家で何か調べてたみたいだけど、知ってることがあるなら教えて?」
「......唯、今から話す事は誰にも言わないでくれ」
明弘はそう前置きして、話を始めた。
「実は、透が行方不明になる前に、俺の家に来ていたんだ。その時に、『大変なことをしてしまった』とは言っていたが、すぐに帰ってしまったんだ。恐らく、あの女の子を殺してしまったんだろう......」
明弘は言いにくそうに顔を背けた。
「そんな......透が......」
私は言葉を失った。透がそんな事をするなんて信じられない。でも、刑事さんたちも似たような事を言ってたっけ......
「透がそんな事をしたと信じたくない気持ちは分かる。でも事実なんだ」
明弘はまっすぐに私を見つめてくる。
「............」
私は何も言えずに、黙りこんでしまった。自然と目から涙が溢れてくる。
「唯!」
明弘は突然立ち上がり、私の側まで来ると、いきなり抱きついてきた。
「えっ!?」
私は突然の出来事に驚いたが、拒否はしなかった。だって、私は明弘の事が......。
「透の事が辛いのは分かる。でも、これ以上考えても不幸になるだけだ」
明弘は私を抱き締めながらそう呟いてきた。私は泣きながら明弘にしがみついていた。
「......唯。お前を笑顔にしてやりたい。俺と付き合ってくれ」
明弘はそう言うと、抱きついてきていた腕を離し、真剣に見つめてきた。
「............はい」
私がそう言うと、明弘は無言で抱きついてきた。
私、ずっと明弘を待ってて良かった。明弘を好きで良かった。私は貴方を愛しています。これからもずっと――。
「......唯。お前を笑顔にしてやりたい。俺と付き合ってくれ」
俺はそう言って、唯を見つめる。唯は泣きそうで、笑いそうな表情をしていた。
「............はい」
唯がそう返事をすると、俺はまた抱きついた。泣いているのか体が震えている。多少不自然な展開ではあるが、うまくいった。しかし、こいつもバカな女だ。透を殺した男と付き合う奴の気が知れない。そもそも、俺は別に唯の事は好きでは無い。まあ、ブスでは無い以上利用価値は十分にある。それに、あまり勝手に動かれても困る。手元に置いておいて損はないだろう。
俺は、優しく唯の肩に手をかける。
察したのだろう。唯は目をつぶり、唇を差し出してきた。そして俺はそれを受け取った。
唯とキスしながら透の事を考える。俺から命を奪われ、殺人者の汚名を着せられ、好きな人を奪われた今、あいつはどんな気持ちだろうか。そう考えるだけで俺の心は震えた。
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