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三章 葵ちゃんは告白したい
『葵』純愛◯
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――この話は(『六人目』毒殺)から少し遡った葵視点のお話です――
台所で夕飯の料理をしていた母が、食器を片手にいきなり私に重大な事実を発表してきた。
「そうそう、今日明弘が帰ってくるわよ」
私は、ボーッとテレビを見ながら、居間でお菓子をパクついていた。
「え?」
そう呟いた私の口から、食べかけのお煎餅が床にこぼれ落ちる。
「......何時に帰ってくるの?」
私が母に恐る恐る尋ねてみた。
「詳しくは聞いてないけど、多分あと一時間ぐらいじゃないかしら」
母は時計を見ながら答えた。私は急いで立ち上がると母を睨んだ。
「そういうことは早く教えてよ!」
私は慌てて自分の格好を見る。上下セットの学校指定のジャージだ。色気の欠片もない。匂いを嗅ぐと、部活の時にかいた汗の香りがツンと鼻をついた。
「私、お風呂入ってくる!」
そう言うと、急いでタオルと着替えを掴み、お風呂場へ駆け足で向かった。
お風呂場へ入ると、蛇口をひねり、すぐにシャワーを出す。
最初は冷たかった水が、少しずつお湯へと変化していった。
完全にお湯になった事を確認すると、シャワーを浴びていく。汗をかいた肌を綺麗に洗い流し、身体を洗っていった。
あまりにも色気のない身体に、ため息をつく。中学二年生であるにもかかわらず、胸の膨らみはささやかだ。
クラスの女子の中でも小さい方だと思う。しかも下はまだだし......
私は身体を洗い終えると再度ため息をつき、お湯が張ってある浴槽に入る。
部活で疲れた身体に、お湯の暖かさが染み渡る。
「ふ~」
思わずため息をついた後、鼻までお湯に浸かり、お兄ちゃんの事を考える。
私のお兄ちゃんは大学一年生。最近家を出て、アパートで独り暮らしを始めたらしい。
結局、私は最後まで反対していた。泣きながらしがみつかれたお兄ちゃんは、苦笑しながら頭を撫でてくれたっけ......
多分お兄ちゃんは、私の事を可愛い妹としか見ていないだろう。でも私は......
最初は、兄としてお兄ちゃんが大好きだった。でも、お互いに成長していくうちに、次第に男の子として意識し始めるようになってしまった。
自分の気持ちに気づいてからは、わざと一緒に寝ようとしたり、必要以上に抱きついたりと、必死にアピールをした。
でも、私の事を妹以外の視線で見てくれなかった。でも、私はそれでもいいと思っていた。例え恋愛対象としてでは無くても、お兄ちゃんは一緒に寝てくれるし、抱きつかせてくれる。それで満足していた。
......でも、万が一という事もある。だから私は必死に綺麗になろうとするんだ。それに、今日はどうしても言わなきゃいけないことがある。
お風呂から上がると、ちょうどお兄ちゃんが玄関に立っていた。私は深呼吸し、気持ちを落ち着けた後、声をかけた。
「あ! お兄ちゃん! お帰り!」
私はそう言うと駆け寄っていき、抱きついた。大好きな匂いにつつまれ、幸せな気持ちにひたる。
「お兄ちゃん帰ってくるなら、一緒にお風呂入れば良かった~」
私は抱きつきながら嘘をついた。一緒にお風呂なんて入ったら、恥ずかし過ぎる。貧相な身体は絶対見られたくない。
お兄ちゃんの顔を見ると、何か考え事をしているようだ。もしかして、他の女の子の事とか考えてるのかな......
「お兄ちゃん? どうしたのボーッとして?」
私は気を引くために袖口を引っ張った。お兄ちゃんははっと我に返ると、頭を撫でてくれた。
「ごめん。葵の事を考えてたんだよ」
お兄ちゃんはニッコリと笑いかけてきた。
「私も大好き~」
話の返しとしては少し変だけど、私はそう言いながら、お兄ちゃんの胸に飛び込む。心臓の鼓動がどんどん早くなっていった――
夕ご飯を食べた後、お兄ちゃんがお茶をいれてくれた。ごくごくと飲み干し、お兄ちゃんの横に座った。
「お兄ちゃん! 一緒に寝てもいい?」
私は、軽い口調で聞いてみた。反対に、心臓はドキドキと音をたてていた。
「うーん」
お兄ちゃんは悩みながら、断る口実を探していた。それがわかった私は、必死にお願いする。
「今日だけ!お願い!」
私は両手を合わながら目をつぶった。
「......わかったよ。先にベッドで寝てて」
お兄ちゃんは、苦笑しながら頭を撫でてくれた。
「......なんか頭がボーっとするから、さきに寝るわよ」
母が、頭を押さえながら寝室へ向かっていった。父も無言で居間を出ていった。
私は、お兄ちゃんが頭を撫で終わるまで、ここにいると決めていた。
お兄ちゃんがお風呂に入っている間に、一人でベッドに横たわる。
お兄ちゃんが家を出てから何回もここで眠っていた。最初はお兄ちゃんの匂いがしていたけど、最近は全然しなくなっていた。残念。
私は天井を見ながら、今日言おうと決めていた台詞を暗唱する。
『お兄ちゃんの事が、女の子として好きです』
頭で思い浮かべただけで、顔が火照り、熱くなる。
でも、今日言わないとダメなんだ。
お兄ちゃんはもう大学生。彼女もできるし、結婚もするだろう。どうしてもその前に、私の気持ちを知っていて欲しい。
結果がどうなるかは分かってる。言ってしまえばもう、抱きついたり、一緒に寝たり出来なくなる。もしかしたらキモいと思われて、無視されるかもしれない。でも、どうしても伝えたいんだ。
思わず涙で視界が歪む。慌てて袖で目を擦った。
「あれ?」
涙をぬぐっても、視界の歪みは消えるどころか、ますますひどくなっていく。
「...おにい...ちゃん......」
視界がどんどん歪み、ついに意識を失ってしまった。
葵の目じりから、涙が一筋こぼれ落ちた。
台所で夕飯の料理をしていた母が、食器を片手にいきなり私に重大な事実を発表してきた。
「そうそう、今日明弘が帰ってくるわよ」
私は、ボーッとテレビを見ながら、居間でお菓子をパクついていた。
「え?」
そう呟いた私の口から、食べかけのお煎餅が床にこぼれ落ちる。
「......何時に帰ってくるの?」
私が母に恐る恐る尋ねてみた。
「詳しくは聞いてないけど、多分あと一時間ぐらいじゃないかしら」
母は時計を見ながら答えた。私は急いで立ち上がると母を睨んだ。
「そういうことは早く教えてよ!」
私は慌てて自分の格好を見る。上下セットの学校指定のジャージだ。色気の欠片もない。匂いを嗅ぐと、部活の時にかいた汗の香りがツンと鼻をついた。
「私、お風呂入ってくる!」
そう言うと、急いでタオルと着替えを掴み、お風呂場へ駆け足で向かった。
お風呂場へ入ると、蛇口をひねり、すぐにシャワーを出す。
最初は冷たかった水が、少しずつお湯へと変化していった。
完全にお湯になった事を確認すると、シャワーを浴びていく。汗をかいた肌を綺麗に洗い流し、身体を洗っていった。
あまりにも色気のない身体に、ため息をつく。中学二年生であるにもかかわらず、胸の膨らみはささやかだ。
クラスの女子の中でも小さい方だと思う。しかも下はまだだし......
私は身体を洗い終えると再度ため息をつき、お湯が張ってある浴槽に入る。
部活で疲れた身体に、お湯の暖かさが染み渡る。
「ふ~」
思わずため息をついた後、鼻までお湯に浸かり、お兄ちゃんの事を考える。
私のお兄ちゃんは大学一年生。最近家を出て、アパートで独り暮らしを始めたらしい。
結局、私は最後まで反対していた。泣きながらしがみつかれたお兄ちゃんは、苦笑しながら頭を撫でてくれたっけ......
多分お兄ちゃんは、私の事を可愛い妹としか見ていないだろう。でも私は......
最初は、兄としてお兄ちゃんが大好きだった。でも、お互いに成長していくうちに、次第に男の子として意識し始めるようになってしまった。
自分の気持ちに気づいてからは、わざと一緒に寝ようとしたり、必要以上に抱きついたりと、必死にアピールをした。
でも、私の事を妹以外の視線で見てくれなかった。でも、私はそれでもいいと思っていた。例え恋愛対象としてでは無くても、お兄ちゃんは一緒に寝てくれるし、抱きつかせてくれる。それで満足していた。
......でも、万が一という事もある。だから私は必死に綺麗になろうとするんだ。それに、今日はどうしても言わなきゃいけないことがある。
お風呂から上がると、ちょうどお兄ちゃんが玄関に立っていた。私は深呼吸し、気持ちを落ち着けた後、声をかけた。
「あ! お兄ちゃん! お帰り!」
私はそう言うと駆け寄っていき、抱きついた。大好きな匂いにつつまれ、幸せな気持ちにひたる。
「お兄ちゃん帰ってくるなら、一緒にお風呂入れば良かった~」
私は抱きつきながら嘘をついた。一緒にお風呂なんて入ったら、恥ずかし過ぎる。貧相な身体は絶対見られたくない。
お兄ちゃんの顔を見ると、何か考え事をしているようだ。もしかして、他の女の子の事とか考えてるのかな......
「お兄ちゃん? どうしたのボーッとして?」
私は気を引くために袖口を引っ張った。お兄ちゃんははっと我に返ると、頭を撫でてくれた。
「ごめん。葵の事を考えてたんだよ」
お兄ちゃんはニッコリと笑いかけてきた。
「私も大好き~」
話の返しとしては少し変だけど、私はそう言いながら、お兄ちゃんの胸に飛び込む。心臓の鼓動がどんどん早くなっていった――
夕ご飯を食べた後、お兄ちゃんがお茶をいれてくれた。ごくごくと飲み干し、お兄ちゃんの横に座った。
「お兄ちゃん! 一緒に寝てもいい?」
私は、軽い口調で聞いてみた。反対に、心臓はドキドキと音をたてていた。
「うーん」
お兄ちゃんは悩みながら、断る口実を探していた。それがわかった私は、必死にお願いする。
「今日だけ!お願い!」
私は両手を合わながら目をつぶった。
「......わかったよ。先にベッドで寝てて」
お兄ちゃんは、苦笑しながら頭を撫でてくれた。
「......なんか頭がボーっとするから、さきに寝るわよ」
母が、頭を押さえながら寝室へ向かっていった。父も無言で居間を出ていった。
私は、お兄ちゃんが頭を撫で終わるまで、ここにいると決めていた。
お兄ちゃんがお風呂に入っている間に、一人でベッドに横たわる。
お兄ちゃんが家を出てから何回もここで眠っていた。最初はお兄ちゃんの匂いがしていたけど、最近は全然しなくなっていた。残念。
私は天井を見ながら、今日言おうと決めていた台詞を暗唱する。
『お兄ちゃんの事が、女の子として好きです』
頭で思い浮かべただけで、顔が火照り、熱くなる。
でも、今日言わないとダメなんだ。
お兄ちゃんはもう大学生。彼女もできるし、結婚もするだろう。どうしてもその前に、私の気持ちを知っていて欲しい。
結果がどうなるかは分かってる。言ってしまえばもう、抱きついたり、一緒に寝たり出来なくなる。もしかしたらキモいと思われて、無視されるかもしれない。でも、どうしても伝えたいんだ。
思わず涙で視界が歪む。慌てて袖で目を擦った。
「あれ?」
涙をぬぐっても、視界の歪みは消えるどころか、ますますひどくなっていく。
「...おにい...ちゃん......」
視界がどんどん歪み、ついに意識を失ってしまった。
葵の目じりから、涙が一筋こぼれ落ちた。
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