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二章 明弘くんの覚醒
『五人目』拷問
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俺は、葵が部屋を出ると私服に着替えて居間へ行った。今日は大変だ。『五人目』と遊んだ後、葵とも遊ばなくてはいけない。ハードスケジュールだ。
「明弘! 早くこっち来てご飯食べちゃいなさい!」
母が大きな声で俺を呼んだ。
「わかったよ。すぐ行く。」
俺は食事が用意されている部屋へ向かった。
朝食を食べ終わるとすでに父は仕事、葵は学校へ行っていた。
「最近物騒な事件が多いから鍵はしっかりと閉めときなさい」
母はそう言うと俺に鍵を渡し、パートに行った。まあ物騒な事件を起こしているのは俺なんだが。
俺は早速『五人目』と遊ぼうと道具を車へ取りにいった。あらかじめ買っておいた肉切り包丁、サバイバルナイフ、カッターの替刃、家にあったペンチを持って蔵へ向かった。
蔵に行き扉を開ける。相変わらずかび臭い。一番奥の蓋に耳をつけ様子を伺うが、なにも音は聞こえない。
心配になって床の扉を開き、下へ降りると『五人目』は眠っていた。
「起きてください。遊びに来ましたよ。」
『五人目』はゆっくりと目を開けた。
次の瞬間。
「ンンンンンン!!!!」
猿ぐつわをしている為、声は出せないが明らかに絶叫している。意味がわからず急いで猿ぐつわを外す。
「何で? 何でいるの? 何で? 何で? 何でよ............」
そうか。こいつは俺と会った事もここに居ることも全て『夢』だと思ったのか。
「夢じゃないよ。これから君は俺と一緒に遊ぶんだから。」
『五人目』はガクガク震えながら手を力一杯握りしめて下を向いている。
「それじゃあ、ルールを説明しようか。ベースは中国の拷問なんだけど、それだけじゃつまらないからゲーム性を加えてみたんだ。まず俺のお願いを聞いてもらう。もし聞けなかったら、ここに用意したくじを俺が一枚引く。カードにはどこかの体のパーツが書かれている。引いたカードの部位を削ぎ落とす。どうかな?面白いでしょ。」
ぶるぶる震えながらうめくようにして声を絞り出す。
「ごめんなさい......ゆるしてください......お家に返してお願いします............」
俺はクイズの司会者風にお願いを言った。
「それじゃあ第一問目!えーと君の妹の......望結ちゃんだっけ?にもここに来てもらって遊ぶ!どうかな?」
「............」
『五人目』はぶるぶる震えなからもしっかりと口を閉じてなにも言わなかった。
「ファイナルアンサー?」
「............」
やはりなにも答えない。一問目からハードすぎたか。少し反省しながらくじを引いた。
「はい!結果は......爪です!爪を全て剥ぎ取ります!」
ゆっくりとペンチを持って『五人目』へ近づく。
「なんで!? わたしがなんで?! きいゃああぁぁぁぁあぁあああああ!!!! くるなぁぁぁぁぁ!!」
いちいちうるさい奴だ。俺は少しイラつき、右手小指の爪を力一杯ペンチで剥いだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
『五人目』がついに失禁した。スカートの染みが徐々に広がり、椅子の足を伝って床に水溜まりを作る。
「お願いを聞いてくれるかな?」
やはりなにも答えない。面白くない俺は次々と爪を剥ぎ始めた。いちいち悲鳴をあげながらも、ついに『お願い』を聞かなかった。手足の爪、計二十個全て剥ぎ終わった。意外と根性がある奴だ。
「じゃあお願いは据え置きね!次のカードを引くよ!次は・・・左小指だ!」
「............」
もう答える気力もないようだ。しかし、体はガタガタ震えている。俺は肉切り包丁を『五人目』の小指に突き立てた。部屋に絶叫が響き渡った。
「よし! それじゃあ、ボーナスチャンス! 今から、希美ちゃんが卓也くんに助けを求める。漫画なんかじゃ、カッコ良く助けにくるパターンだね。助けに来たら、希美ちゃんを解放しよう。でも、もし十秒以内に卓也くんが助けに来なければ、カードを一枚引きます。いいですね?」
俺がそう言うが、聞いていないのか、うつ向いたままぶるぶる震えている。
「早く言ってよ」
そう急かすと、喉から絞り出すように助けを求め始めた。
「......卓也ぁ.......おねがい......たすけて............」
『五人目』は、祈るようにうつ向いた。俺は軽蔑の眼差しでうなだれている頭を睨んだ。こいつは本当に助けが来ると思ってるのか? バカなのか? そう思いながら、カウントしていく。
「十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、はい。残念でした」
『五人目』は期待していたのか、カウントが終わった瞬間、がっくりと肩を落とした。俺はゆっくりとカードを引く。そこには
『ひだりて』
の文字が書かれていた。
左手の皮を全て剥ぎ取り、カッターの替刃を手の甲へ刺して遊んでいたその時だった。
「......いいから」
よく聞こえなかった俺は聞き返した。
「希美ちゃん? 聞こえなかったからもう一回言ってれるかな?」
『五人目』は体をぐっと丸め、半狂乱で叫んだ。
「いいから!! 妹のことここに連れてきて殺していいから!! だから私を逃がして!!」
「じゃあ、卓也くんはどうする?」
「それも殺していいから!! だからわたしをたすけてよぉぉぉぉ!!! いたいのはいいやなの!!」
俺は内心、一安心していた。やっと計画通り。
「嫌だよ。俺は君を殺したいんだよ?希美ちゃん。」
『五人目』は俺を見ながら呆然としていた。そしてたった一言だけ発した。
「はっ............」
そこからは自分で言うのもあれだが、凄惨を極めた。お願いはなにも言わず、ひたすらカードを引きまくった。左手、足、頭、顔、乳房、腹、足、指。肉という肉をを切りまくり、椅子の下に出来ていた水溜まりは血溜まりになり、肉は飛び散った。もう悲鳴すらあげず、いやあげられず、『五人目』はひたすらに体から肉を削ぎ落とされ続けていた。そして俺は最後のお願いをした。
「今から右手の拘束を解きます。包丁をあげますから自分の心臓を刺して下さい」
右手のタイラップを切り、包丁を渡す。するとどこにそんな力があったのか、『五人目』は思いっきり自分の心臓めがけて包丁を突き立てた。何度も、何度も何度も。その間、『五人目』は一言も声を発しなかった。とても美しい光景だった。
そして『五人目』は死んだ。
俺は感動のあまり泣いていた。ここまで美しい殺人が今までかつてあっただろうか? いや、無かった。拷問される時に生じる『絶望』。さらに拷問され続けた結果生じる死に対する『希望』。そして最後に、死によって痛みから解放される『喜び』。
まるで人生の縮図ではないか。
俺と『五人目』で人生を創造したのだ。俺は感動に打ち震えた。しかしいつまでもこうしていられない。もうすぐ5時。葵とも遊ばなければ。俺は散らかった肉片と死体を風呂敷に包み、隅へやった。
さて。葵とは何をして遊ぼうか。
ふと床を見ると、血で真っ赤に染まっていた紐が落ちていた。俺はその紐を拾い上げ、ゴミ箱に投げ捨てた。
「じゃあカードを引くよ?」
俺は今、葵とゲームをやっているところだ。じゃんけんで勝った方がくじを引き、そこに書いてある体の部位を、棒で叩くというものだ。
学校から帰ってきたら遊ぼうと約束していたとはいえ、こんなに早く帰ってくるとは思わなかった。ギリギリのタイミングだった。『五人目』はまだ蔵の中だ。まあ、腐って臭いがするまではバレはしないだろう。
「えーっと......頭だね」
俺は棒を手に持ち、葵の頭を叩く。
「ぽこん」
音を立てた棒が、葵の頭に当たるとすぐにひしゃげた。やっぱり新聞紙でできた棒は威力が弱いようだ。
「つまんない~もう他のことしようよ~」
葵がつまらなそうにしながら続けてこう言った。
「だいたい、カードに目とか爪とか書かれてても叩けないじゃん! 特に目とか! 危ないよ!」
「そうかなあ。そんなことないと思うけどなあ」
俺は蔵の方を見ながらそう言った。
「はい、じゃあこのゲームはおしまい。次はトランプしようよ!」
「そうだな。そうしようか」
時計を確認すると、まだ6時前だ。いつまで遊べば葵は満足するのだろう。
そんなことを考えながら俺はトランプをシャッフルした。
結局、葵とのゲームは夜の8時まで続いた。本当に元気な奴だ。ついさっき、やっと母がパートから帰って来て、台所に立っている。野菜かなにかを切っている音だろうか?リズムよくしゃきしゃきと聞こえてくる。魂は違うとはいえ俺は明弘だ。やはり懐かしい、という感情が芽生えてくる。目を閉じて浸っていると、
「ピピピピピピピ」
うるさい電子音がポケットから聞こえてくる。いい気分が台無しだ。少しイラつきながら電話に出る。
出た瞬間、声が耳に飛び込んでくる。
「自殺かもしれないんだって。車で飛び降りて...そのまま......あなた何か透から聞いてる? 悩みとか...なんで自殺なんか......なんでよ......」
透?ああ俺の親友だった奴のことか。しかし、思った以上に早く見つかったな。俺は深く深呼吸すると、たった今、透、いや『四人目』が見つかったかのように驚いてみせた。
「透が自殺なんかするはずありません! 親友の俺が保証します! 何かの間違いです! すぐにそちらへ向かいます!」
まあ嘘はなにも言っていない。自殺ではなく他殺なのだから。
俺は電話を切ると、野菜を切っている母に後ろから声をぶつける。
「大変だ母さん! 透が車で海に飛び降り自殺したって電話がかかってきた!」
母は野菜を切っている手を止め、驚いた表情で振り返った。
電話がかかってきてからすぐに俺は家を出た。もう少し、海水漬けになっていてくれれば良かったのに。せっかくの母の手料理を食べ損なってしまった。
しかし、まあ実家にはまたすぐに戻ってくる気がする。なにしろ母、父、葵はかけがえのない家族だ。誰一人欠けてはならない。
俺は真っ暗な道を、親友の家に向かって飛ばしていた。
『四人目』の家の前に車を止め、降りると玄関には『四人目』の母が立っていた。
「ごめんなさい。電話で取り乱してしまって。中に入って話をしましょう。」
『四人目』の母はそう言うと、玄関の扉を明開けた。
入ると中にはすでに唯がいた。泣いていたようで、目が真っ赤になっている。
「明弘......」
とだけ言うとうつむいてしまった。
「詳しい事情を聞かせてください。お願いします。」
俺は『四人目』の母の方へ向き直ると、そう尋ねた。
「私も詳しくはわからないんだけど、透が海に飛び込んで自殺したかも知れないって......しかもトランクからは行方不明の女の子が発見されたって......」
「透くんもその女の子も亡くなっていたんですか?」
「ええ......そう聞いています。」
「電話がかかってきたんですか?」
「ええ......今日の午前中ぐらいに......ごめんなさい......気が動転して連絡が遅れちゃって......」
「いえ、こんなことの後じゃしようがないですよ。それより、自殺じゃないとすると何か証拠があるかもしれません。透くんの部屋を調べてもいいですか。」
「......はい」
俺は泣いている唯と、うつむいたまま動かない『四人目』の母を置いて、透の部屋に向かった。
透の部屋を調べたが、特に証拠になりそうなものはなかった。俺が犯人だとばれることはまずないだろう。
しかし気になることがいくつかある。おそらくもうこの部屋は警察が調べているはず、現にオイルの缶がなくなっている。問題は一緒に置いていた充電器だ。これはまだベットの下に置きっぱなしだ。どうやらまだ警察は『二人目』と『四人目』は結びついていないらしい。
「明弘は強いよね。透が死んだのに証拠なんか探して」
声がしたドアの方を見ると扉にもたれ掛かるようにして唯が立っていた。いつからいた?これは少しまずいか。
「そんなことない。俺も気を紛らわせるためにしてるだけだ。」
俺はそう言うと部屋を出ようとした。
「まってよ。もう帰るの?」
「ああ。特に証拠はなかったし、もう帰るよ。」
「なんか明弘冷たくない?」
唯が責めるように俺を睨み付けてくる。
「勘弁してくれよ。俺も透が死んで混乱してるんだ。そんなこと言わないでくれ」
「......ごめんなさい。私どうかしてた。また今度話そう」
唯はそう言うと階段を降りていった。
『四人目』の母親に帰ることを伝えた後、俺は一人、車を運転していた。あと五人だ。あと五人殺せばノルマは達成する。しかし、本当に達成できるのか? 『五人目』の死体はもって一週間と言ったところか。それ以上は臭いでばれてしまう。二日に二人以上殺さなければならない。やはり厳しいか。このままでは父や母に蔵の死体が見つかってしまう。
その時、とても良い考えが浮かんできた。そうだ。発想の転換、死体を隠すのではなく、死体を発見する人を消せばいいんだ。簡単なことじゃないか。我ながらとても良いアイデアだ。これで『六人目』『七人目』『八人目』はとりあえず決まりだな。俺はフロントガラスに映る自分の顔を見ながら『六人目』に電話をした。
「ああ、母さん?また今度そっちに帰るから。言いたいことも少しあるし。そうだね、三日後にまた来るから」
俺は電話を切りフロントガラスに反射している顔を見つめた。するとその顔はニヤリと笑いかけてきた。
「明弘! 早くこっち来てご飯食べちゃいなさい!」
母が大きな声で俺を呼んだ。
「わかったよ。すぐ行く。」
俺は食事が用意されている部屋へ向かった。
朝食を食べ終わるとすでに父は仕事、葵は学校へ行っていた。
「最近物騒な事件が多いから鍵はしっかりと閉めときなさい」
母はそう言うと俺に鍵を渡し、パートに行った。まあ物騒な事件を起こしているのは俺なんだが。
俺は早速『五人目』と遊ぼうと道具を車へ取りにいった。あらかじめ買っておいた肉切り包丁、サバイバルナイフ、カッターの替刃、家にあったペンチを持って蔵へ向かった。
蔵に行き扉を開ける。相変わらずかび臭い。一番奥の蓋に耳をつけ様子を伺うが、なにも音は聞こえない。
心配になって床の扉を開き、下へ降りると『五人目』は眠っていた。
「起きてください。遊びに来ましたよ。」
『五人目』はゆっくりと目を開けた。
次の瞬間。
「ンンンンンン!!!!」
猿ぐつわをしている為、声は出せないが明らかに絶叫している。意味がわからず急いで猿ぐつわを外す。
「何で? 何でいるの? 何で? 何で? 何でよ............」
そうか。こいつは俺と会った事もここに居ることも全て『夢』だと思ったのか。
「夢じゃないよ。これから君は俺と一緒に遊ぶんだから。」
『五人目』はガクガク震えながら手を力一杯握りしめて下を向いている。
「それじゃあ、ルールを説明しようか。ベースは中国の拷問なんだけど、それだけじゃつまらないからゲーム性を加えてみたんだ。まず俺のお願いを聞いてもらう。もし聞けなかったら、ここに用意したくじを俺が一枚引く。カードにはどこかの体のパーツが書かれている。引いたカードの部位を削ぎ落とす。どうかな?面白いでしょ。」
ぶるぶる震えながらうめくようにして声を絞り出す。
「ごめんなさい......ゆるしてください......お家に返してお願いします............」
俺はクイズの司会者風にお願いを言った。
「それじゃあ第一問目!えーと君の妹の......望結ちゃんだっけ?にもここに来てもらって遊ぶ!どうかな?」
「............」
『五人目』はぶるぶる震えなからもしっかりと口を閉じてなにも言わなかった。
「ファイナルアンサー?」
「............」
やはりなにも答えない。一問目からハードすぎたか。少し反省しながらくじを引いた。
「はい!結果は......爪です!爪を全て剥ぎ取ります!」
ゆっくりとペンチを持って『五人目』へ近づく。
「なんで!? わたしがなんで?! きいゃああぁぁぁぁあぁあああああ!!!! くるなぁぁぁぁぁ!!」
いちいちうるさい奴だ。俺は少しイラつき、右手小指の爪を力一杯ペンチで剥いだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
『五人目』がついに失禁した。スカートの染みが徐々に広がり、椅子の足を伝って床に水溜まりを作る。
「お願いを聞いてくれるかな?」
やはりなにも答えない。面白くない俺は次々と爪を剥ぎ始めた。いちいち悲鳴をあげながらも、ついに『お願い』を聞かなかった。手足の爪、計二十個全て剥ぎ終わった。意外と根性がある奴だ。
「じゃあお願いは据え置きね!次のカードを引くよ!次は・・・左小指だ!」
「............」
もう答える気力もないようだ。しかし、体はガタガタ震えている。俺は肉切り包丁を『五人目』の小指に突き立てた。部屋に絶叫が響き渡った。
「よし! それじゃあ、ボーナスチャンス! 今から、希美ちゃんが卓也くんに助けを求める。漫画なんかじゃ、カッコ良く助けにくるパターンだね。助けに来たら、希美ちゃんを解放しよう。でも、もし十秒以内に卓也くんが助けに来なければ、カードを一枚引きます。いいですね?」
俺がそう言うが、聞いていないのか、うつ向いたままぶるぶる震えている。
「早く言ってよ」
そう急かすと、喉から絞り出すように助けを求め始めた。
「......卓也ぁ.......おねがい......たすけて............」
『五人目』は、祈るようにうつ向いた。俺は軽蔑の眼差しでうなだれている頭を睨んだ。こいつは本当に助けが来ると思ってるのか? バカなのか? そう思いながら、カウントしていく。
「十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、はい。残念でした」
『五人目』は期待していたのか、カウントが終わった瞬間、がっくりと肩を落とした。俺はゆっくりとカードを引く。そこには
『ひだりて』
の文字が書かれていた。
左手の皮を全て剥ぎ取り、カッターの替刃を手の甲へ刺して遊んでいたその時だった。
「......いいから」
よく聞こえなかった俺は聞き返した。
「希美ちゃん? 聞こえなかったからもう一回言ってれるかな?」
『五人目』は体をぐっと丸め、半狂乱で叫んだ。
「いいから!! 妹のことここに連れてきて殺していいから!! だから私を逃がして!!」
「じゃあ、卓也くんはどうする?」
「それも殺していいから!! だからわたしをたすけてよぉぉぉぉ!!! いたいのはいいやなの!!」
俺は内心、一安心していた。やっと計画通り。
「嫌だよ。俺は君を殺したいんだよ?希美ちゃん。」
『五人目』は俺を見ながら呆然としていた。そしてたった一言だけ発した。
「はっ............」
そこからは自分で言うのもあれだが、凄惨を極めた。お願いはなにも言わず、ひたすらカードを引きまくった。左手、足、頭、顔、乳房、腹、足、指。肉という肉をを切りまくり、椅子の下に出来ていた水溜まりは血溜まりになり、肉は飛び散った。もう悲鳴すらあげず、いやあげられず、『五人目』はひたすらに体から肉を削ぎ落とされ続けていた。そして俺は最後のお願いをした。
「今から右手の拘束を解きます。包丁をあげますから自分の心臓を刺して下さい」
右手のタイラップを切り、包丁を渡す。するとどこにそんな力があったのか、『五人目』は思いっきり自分の心臓めがけて包丁を突き立てた。何度も、何度も何度も。その間、『五人目』は一言も声を発しなかった。とても美しい光景だった。
そして『五人目』は死んだ。
俺は感動のあまり泣いていた。ここまで美しい殺人が今までかつてあっただろうか? いや、無かった。拷問される時に生じる『絶望』。さらに拷問され続けた結果生じる死に対する『希望』。そして最後に、死によって痛みから解放される『喜び』。
まるで人生の縮図ではないか。
俺と『五人目』で人生を創造したのだ。俺は感動に打ち震えた。しかしいつまでもこうしていられない。もうすぐ5時。葵とも遊ばなければ。俺は散らかった肉片と死体を風呂敷に包み、隅へやった。
さて。葵とは何をして遊ぼうか。
ふと床を見ると、血で真っ赤に染まっていた紐が落ちていた。俺はその紐を拾い上げ、ゴミ箱に投げ捨てた。
「じゃあカードを引くよ?」
俺は今、葵とゲームをやっているところだ。じゃんけんで勝った方がくじを引き、そこに書いてある体の部位を、棒で叩くというものだ。
学校から帰ってきたら遊ぼうと約束していたとはいえ、こんなに早く帰ってくるとは思わなかった。ギリギリのタイミングだった。『五人目』はまだ蔵の中だ。まあ、腐って臭いがするまではバレはしないだろう。
「えーっと......頭だね」
俺は棒を手に持ち、葵の頭を叩く。
「ぽこん」
音を立てた棒が、葵の頭に当たるとすぐにひしゃげた。やっぱり新聞紙でできた棒は威力が弱いようだ。
「つまんない~もう他のことしようよ~」
葵がつまらなそうにしながら続けてこう言った。
「だいたい、カードに目とか爪とか書かれてても叩けないじゃん! 特に目とか! 危ないよ!」
「そうかなあ。そんなことないと思うけどなあ」
俺は蔵の方を見ながらそう言った。
「はい、じゃあこのゲームはおしまい。次はトランプしようよ!」
「そうだな。そうしようか」
時計を確認すると、まだ6時前だ。いつまで遊べば葵は満足するのだろう。
そんなことを考えながら俺はトランプをシャッフルした。
結局、葵とのゲームは夜の8時まで続いた。本当に元気な奴だ。ついさっき、やっと母がパートから帰って来て、台所に立っている。野菜かなにかを切っている音だろうか?リズムよくしゃきしゃきと聞こえてくる。魂は違うとはいえ俺は明弘だ。やはり懐かしい、という感情が芽生えてくる。目を閉じて浸っていると、
「ピピピピピピピ」
うるさい電子音がポケットから聞こえてくる。いい気分が台無しだ。少しイラつきながら電話に出る。
出た瞬間、声が耳に飛び込んでくる。
「自殺かもしれないんだって。車で飛び降りて...そのまま......あなた何か透から聞いてる? 悩みとか...なんで自殺なんか......なんでよ......」
透?ああ俺の親友だった奴のことか。しかし、思った以上に早く見つかったな。俺は深く深呼吸すると、たった今、透、いや『四人目』が見つかったかのように驚いてみせた。
「透が自殺なんかするはずありません! 親友の俺が保証します! 何かの間違いです! すぐにそちらへ向かいます!」
まあ嘘はなにも言っていない。自殺ではなく他殺なのだから。
俺は電話を切ると、野菜を切っている母に後ろから声をぶつける。
「大変だ母さん! 透が車で海に飛び降り自殺したって電話がかかってきた!」
母は野菜を切っている手を止め、驚いた表情で振り返った。
電話がかかってきてからすぐに俺は家を出た。もう少し、海水漬けになっていてくれれば良かったのに。せっかくの母の手料理を食べ損なってしまった。
しかし、まあ実家にはまたすぐに戻ってくる気がする。なにしろ母、父、葵はかけがえのない家族だ。誰一人欠けてはならない。
俺は真っ暗な道を、親友の家に向かって飛ばしていた。
『四人目』の家の前に車を止め、降りると玄関には『四人目』の母が立っていた。
「ごめんなさい。電話で取り乱してしまって。中に入って話をしましょう。」
『四人目』の母はそう言うと、玄関の扉を明開けた。
入ると中にはすでに唯がいた。泣いていたようで、目が真っ赤になっている。
「明弘......」
とだけ言うとうつむいてしまった。
「詳しい事情を聞かせてください。お願いします。」
俺は『四人目』の母の方へ向き直ると、そう尋ねた。
「私も詳しくはわからないんだけど、透が海に飛び込んで自殺したかも知れないって......しかもトランクからは行方不明の女の子が発見されたって......」
「透くんもその女の子も亡くなっていたんですか?」
「ええ......そう聞いています。」
「電話がかかってきたんですか?」
「ええ......今日の午前中ぐらいに......ごめんなさい......気が動転して連絡が遅れちゃって......」
「いえ、こんなことの後じゃしようがないですよ。それより、自殺じゃないとすると何か証拠があるかもしれません。透くんの部屋を調べてもいいですか。」
「......はい」
俺は泣いている唯と、うつむいたまま動かない『四人目』の母を置いて、透の部屋に向かった。
透の部屋を調べたが、特に証拠になりそうなものはなかった。俺が犯人だとばれることはまずないだろう。
しかし気になることがいくつかある。おそらくもうこの部屋は警察が調べているはず、現にオイルの缶がなくなっている。問題は一緒に置いていた充電器だ。これはまだベットの下に置きっぱなしだ。どうやらまだ警察は『二人目』と『四人目』は結びついていないらしい。
「明弘は強いよね。透が死んだのに証拠なんか探して」
声がしたドアの方を見ると扉にもたれ掛かるようにして唯が立っていた。いつからいた?これは少しまずいか。
「そんなことない。俺も気を紛らわせるためにしてるだけだ。」
俺はそう言うと部屋を出ようとした。
「まってよ。もう帰るの?」
「ああ。特に証拠はなかったし、もう帰るよ。」
「なんか明弘冷たくない?」
唯が責めるように俺を睨み付けてくる。
「勘弁してくれよ。俺も透が死んで混乱してるんだ。そんなこと言わないでくれ」
「......ごめんなさい。私どうかしてた。また今度話そう」
唯はそう言うと階段を降りていった。
『四人目』の母親に帰ることを伝えた後、俺は一人、車を運転していた。あと五人だ。あと五人殺せばノルマは達成する。しかし、本当に達成できるのか? 『五人目』の死体はもって一週間と言ったところか。それ以上は臭いでばれてしまう。二日に二人以上殺さなければならない。やはり厳しいか。このままでは父や母に蔵の死体が見つかってしまう。
その時、とても良い考えが浮かんできた。そうだ。発想の転換、死体を隠すのではなく、死体を発見する人を消せばいいんだ。簡単なことじゃないか。我ながらとても良いアイデアだ。これで『六人目』『七人目』『八人目』はとりあえず決まりだな。俺はフロントガラスに映る自分の顔を見ながら『六人目』に電話をした。
「ああ、母さん?また今度そっちに帰るから。言いたいことも少しあるし。そうだね、三日後にまた来るから」
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