成長する殺人鬼1(完結)

一二の三太郎

文字の大きさ
上 下
11 / 39
二章 明弘くんの覚醒

『五人目』監禁

しおりを挟む
  俺はゆっくりと『五人目』に近づいていった。
『五人目』は怯えた表情を顔面に張り付かせ、目は見開かれ、足はまるで貧乏揺すりしているかのように震えている。無理もない。いきなり知らない男に連れ去られ椅子に縛られ、殺すと言われる。失禁してないだけまだましだというものだ。
「今から猿ぐつわを外す。もし大声を上げたら殺す。大丈夫、質問に答えてくれればすぐに解放する」
『五人目』はこくこくと泣きながら首を動かしている。まるで壊れたおもちゃのようだ。
 俺は猿ぐつわをはずし質問した。
「好きな人はいるの?」
「............」
「答えなかったら刺すよ」
『五人目』は金切り声で叫ぶようにして答えた。
「同じ!クラスの! 卓也くんです!」
「どんなところが好きなの?」
「やさしくて......カッコいいところ......」 
 声に元気がなくなり再び泣き出した。構わず質問を続けていく。
「家族構成は?」
「お父さんとお母さんと妹の四人家族です......」
「妹さんの名前は?」
「............」
「答えないと刺す。三回目はないよ」
「......望結のあです」
「君の名前を聞いてなかったね。名前は?」
「希美です......」
「じゃあ希美ちゃん。将来の夢は?」
「幼稚園の......先生......」
 一段と泣き声が大きくなる。俺は慌ててビンタした。『五人目』はびっくりしたのかパニックを起こし暴れ始め、椅子が前後左右に激しく揺れる。俺は叫び声をあげられないように無理やり猿ぐつわを噛ませ、話しかける。
「ごめんなさい。つい手が出てしまいました。次の俺の話を聞いたら解放しますから落ち着いてください。」
『五人目』はゆっくりと頷いた。
「よく聞いてくださいね」
 声が出せない為また頷いた。『解放しますから』と言ったからか、安堵の表情を見せる。
 俺はできるだけ優しく話しかけた。
「解放するといったのは嘘です。貴方は間違いなく死にます。俺が殺す『過程』を経るからです。貴方の命は持って後二日です。ご愁傷さまです」
『五人目』はとたんに暴れだした。椅子が倒れ、痙攣している。顔は恐ろしいほど白く、白目を向いて鼻水か涙か顔がぐちゃぐちゃになっている。俺は優しく椅子を起こし話しかける。
「希美ちゃん?」
しかし気絶したのか返事がない。とりあえず二発ビンタして意識を取り戻させた。
「希美ちゃん、実はこの部屋はこの間証拠を消すために掃除したばっかりなんだ。だから希美ちゃんとは他の場所で遊ぶことにするよ。一緒にそこまでドライブに行こうか」
 俺はそう言うと出掛ける準備を始めた。

 今から帰ると母に電話をした。久々の里帰りだ。運転している車の後部座席には大きな風呂敷で包んだ『五人目』を乗せている。椅子に縛り付けたまま包んだのですごい大荷物に見える。
 俺はこれからの予定を『五人目』に伝えた。
「これから俺の実家に行くよ。そこの離れにある蔵で一緒に遊ぼっか。丈夫な蔵だから叫び声も聞こえないだろうし最適だ」
 聞いているのかいないのか風呂敷で包まれた『五人目』は全く反応しなかった。

 日も暮れ、辺りも暗くなってしまった。ようやく実家に着いた頃には完全に日が沈んでいた。
 俺の実家ははっきり言って『ど』がつくほどの田舎にある。俺の住んでいるアパートから車で三時間ほどだ。とりあえず車を蔵の前まで運転し、持ってきた懐中電灯で照らす。時代劇なんかで出てきそうな大きな蔵で、小さい頃には宝探しをしていた場所だ。もっともがらくたしかなかったが。
 俺は蔵の扉を明け中を照らした。中はかび臭く、俺が遊んでいた時とほとんど変わっていない。
 蔵の一番奥へ歩いていくと、床に一メートル四方の蓋がしてある。その蓋に付いている取っ手を思いっきり引っ張った。
『ギギギッ』
 と、音を立てながら床の扉が開いてくる。完全に開くと中へ入っていった。
 中は意外と広く、五メートル四方くらい、高さは二メートルほどだ。天井の扉からは梯子が降りている。
 懐中電灯で照らしながら電灯のスイッチをつける。パチッとスイッチをつけると最初は暗かった電灯がじわじわと明るくなってくる。電気はまだ生きていたようだ。
 俺はすぐに車へ戻り、『五人目』を風呂敷のまま担いで蔵へ入った。地下の部屋へ入れる時に少し落としてしまったが大丈夫だろう。
 風呂敷を開けると『五人目』が出てきた。目を開いたまま、涙を流しピクリともしない。とりあえず『五人目』を中央に置き、猿ぐつわをとってペットボトルに入った水を無理やり飲ませた。
「ゲホッ  ガホッ」
『五人目』がむせている。しかしこれで脱水症状になることはない。猿ぐつわを噛ませていないのに叫びもしないことを不思議に思いながら念のため再度、猿ぐつわを噛ませる。電気を消し、天井の扉を閉め俺は蔵から出た。
 その後、何事もなかったかのように車を家駐車場に止め、玄関を開けた。
「ただいま。帰ってきたよ」 
 部屋の向こうから母が顔を出した。

 母がこちらに走ってきながら声をかける。
「明弘あんた、帰ってくるならくるでもっと早く連絡しなさいよ~。お父さんと葵もいるからゆっくりしていきなさい」
とりあえず居間へ入ると父と葵がテレビを見ているところだった。
「......おう」
 父が俺を見ながら右手をあげる。元々無口な父はあまり喋らない。いつもこんな感じだ。
「お兄ちゃんお帰り~」
 いきなり後ろからあおいが飛び付いてくる。こいつは俺の妹だ。いつまでたっても兄離れ出来ずにいる。
 ひとり暮らしするときも最後まで泣いて嫌がっていた。
「いつまで?いつまでいるの?」
 葵が嬉しそうに聞いてくる。まるで子犬のようだ。
「まあ大学もあるし、三日位かな」
 そう答え葵の顔を見ると、とても嬉しそうだ。
「今日はお兄ちゃんと一緒に寝よっかな~」
 葵がにこにこ笑いなからそう言うと、玄関から戻ってきた母が呆れたように言った。
「あんたもう中学二年生になるんだから、そろそろ兄離れしなさいよ」
「いいじゃんべつに~お兄ちゃん大好きだもん!!」
 恥ずかしげもなくそう言うと、にこにことこっちを見てくる。
 俺は逃げるように元々使っていた自分の部屋に入っていった。

 中へ入るとドアを閉め、部屋を見回す。俺がここを出て行った時と全く変わっていない。疲れていた俺はベットに入った。
 ベットに入ってすぐにドアをノックする音がする。
「どうぞ」
 と声をかけるとドアが開き、枕を持ったパジャマ姿の葵が立っていた。
「お兄ちゃん、一緒に寝てもいい?」
 手を後ろに組み、頭を少しかしげながら聞いてきた。
 少し考えて俺は布団の端を持ち上げた。
「わかったよ。ほら、おいで」
 妹は嬉しそうにこちらに走ってきて布団に潜り込んだ。手足を俺に絡めてくる。
「タコかお前は」
 俺が葵の肩に手をまわしながらそう言うと、嬉しそうに笑い、俺の胸元に顔を埋めてきた。
 疲れていた俺は最初葵を見ていたが、まぶたが重くなり、目を閉じた。
「『六人目』、『七人目』、『八人目』か......」
 そう考え始めた所で記憶が途切れた。

 朝起きると、懐かしい天井が目に入った。そうだ。実家に里帰りをしているんだった。
 横を見ると、葵が俺の服によだれをなすりつけてきている。
「葵!起きろ! 俺の服によだれを着けるんじゃない!」
「......お兄ちゃん? 何でいるの?」
 寝ぼけた目を擦りながら上半身を起こしている。服がめくれて下着が丸見えだ。
「寝ぼけてるんじゃない!服も直せ!」
 葵の肩を持って前後に揺さぶる。やっと目が覚めてきたみたいた。
「お兄ちゃん! そうだ昨日帰って来たんだ!」
 そう言うと葵は抱きついてきた。俺の腰に手を回す。
 俺は目の前にある頭を優しく撫でながら言った。
「早く顔を洗って来たらどうだ。今日学校だろう?」
「学校休むもん!」
「バカなこと行ってないで準備しなさい」
 結局、葵が帰ってきたら目いっぱい遊ぶと約束をさせられた。しょうがないやつだ。
「いつ帰ってくるんだ?」
「う~ん、部活もあるから夕方の6時位かな」
 そう言い残し、葵は居間に走っていった。
「おかーさーん今日の朝ご飯なに~」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

『忌み地・元霧原村の怪』

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は月森和也(語り部)となります。転校生の神代渉はバディ訳の男子です》 【投稿開始後に1話と2話を改稿し、1話にまとめています。(内容の筋は変わっていません)】

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小径

砂詠 飛来
ホラー
うらみつらみに横恋慕 江戸を染めるは吉原大火―― 筆職人の与四郎と妻のお沙。 互いに想い合い、こんなにも近くにいるのに届かぬ心。 ふたりの選んだ運命は‥‥ 江戸を舞台に吉原を巻き込んでのドタバタ珍道中!(違

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

処理中です...