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1章

怒ったぞぉぉぉぉぉぉぉ!!

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1.「ふざけるなザケル!」
 そう叫んだ瞬間、ヘンリーに向かって黄色い閃光が、刃のように空を切り裂き飛んで行く。しかし裕次郎は驚かなかった。そもそも魔術が発動しないという発想が全く無かったのだ。
雷爆弾サンダー・バレット! / 爆氷散弾アイス・ショット・ガン!」
 ヘンリーは慌てずに二つ呪文を唱えると、まず雷弾らいだんを発射し、高速で飛んでくる閃光を撃ち落とした。直ぐ様、裕次郎へ向かって大量の氷を散弾のように放つ。
大絶氷解散弾アイス・ガンズ・バレッド!」
 裕次郎も力を見せつける為、あえて同じような魔術を使う。大量の氷を弾丸のように形成し、ヘンリーの放った魔法を迎撃する。
『ガガガガガガガガガ!』
 幾百いくひゃくもの氷が空中で激突した。はじけた氷は細氷さいひょうのようにキラキラと宙を舞い、床に積もる。
 裕次郎とヘンリーは、無言でお互いの出方を伺う。
 どこかに隙を見つけたのか、裕次郎が動いた。
獄炎大爆球ヘル・フレイムボール!」
 裕次郎の頭上に炎の球が現れ、みるみるうちに大きくなる。限界まで巨大化、圧縮を繰り返した炎の球は、直径五メートル程で安定した。まるで太陽のように輝き、表面は炎の渦に包まれている。
 裕次郎はこの技で決着を着けるつもりだった。相手がどうでるのか、全神経を集中させいつでも攻撃できるよう体勢をとった。
爆雷流星サンダー・メテオ!」
 ヘンリーは右手を上にあげ、呪文を唱える。掌の上に現れた球状の雷はゆっくりと上がっていき、ピタッと止まる。次の瞬間一瞬で膨張し、裕次郎の獄炎大爆球ヘル・フレイムボールとほぼ同じぐらいの大きさになった。どうやら真っ向から応戦するつもりのようだ。
裕次郎とヘンリーは、同時に攻撃を仕掛けようとした。しかし、突然二人の間に割り込んできた人影が目に入り攻撃を止める。
「裕次郎! これ以上はやり過ぎた! 落ち着け!」
 飛び込んできた影の正体はイザベルだった。凛とした、しかし優しい声で裕次郎を止めようとする。
 裕次郎はイザベルを見た瞬間、赤く染まっていた目の前が少しずつ薄れると共に、不思議と怒りも収まってきた。
 裕次郎は爆発しないよう獄炎大爆球ヘル・フレイムボールを少しずつ小さくし、消滅させる。
 ヘンリーも裕次郎と同じように誰かに説得されたようで、雷の球は消えていた。

2.イザベルに説得された裕次郎は、自分から床に正座する。流石にやり過ぎてしまったと少し反省した。
 改めて部屋を見回すと、中はめちゃめちゃになってしまっていた。所々焦げたり壊れたりしている。
 ・・・でも俺悪くないもん! サキを怪我させるからだもん!
 裕次郎は、心の中で言い訳けをする。
「しかし、裕次郎があんなに強いとは思わなかったぞ」
 イザベルが少し感心したように裕次郎を見下ろす。
「怒ってる?」
  裕次郎は、イザベルの顔色を伺う。実の父に魔法をぶっぱなされたのだ。おこってるよなぁ。
「ん? 別にそんなことはないぞ。私もあれぐらいの親子喧嘩はいつもしていた」
  イザベルはヘンリーを見ながらそう言った。裕次郎はホッとしながら、つられて同じ方向を向く。
「もう! 勝手に手紙なんかだして! 少し待ちなさいと言ったでしょう!」
  ヘンリーも、裕次郎と同じように正座させられ誰かに怒られている。さっきまでの威厳ある態度とのギャップがものすごい。
「ち、違うんだよ......イザベルのことが心配だったから......」
  ヘンリーが情けなく言い訳している。
「言い訳しないの!」
  裕次郎が、ヘンリーを説教している相手の顔に見覚えがあることに気づく。
「あの人、イザベルに似ている・・・」
 裕次郎はそう呟いた。イザベルはその声が聞こえたのか、説明し始めた。
「あの人は私の母上だ。父上よりも強いんだぞ。私の理想だな」
 イザベルが母を見つめる眼差しは、尊敬の念が込められていた。
「ちょっと! イザベルと裕次郎さん! それにサキちゃん! こっちにいらっしゃい!」
 イザベルのお母さんがイザベル達を呼んだ。
 裕次郎はサキを探し、辺りを見回す。すると、部屋の端で三人と一匹が固まっているのが目に入った。
「サキ、こっちに来て」
 裕次郎が手招きすると、こっちに向かって一生懸命走ってくる。
「パパつよかった!」
 サキは嬉しそうに裕次郎に駆け寄ると抱きついてきた。怪我は治してもらったのか、元気いっぱいだ。
 裕次郎はサキを抱いたまま、先に床へ座っていたイザベルの隣に座る。
「私はイザベルの母で、マリアといいます。それで裕次郎さん、なぜ喧嘩をしていたの?」
 名前を名乗った後、裕次郎に優しく尋ねる。
「えっと、サキが怪我させられたから俺が怒っちゃって・・・」
 裕次郎は、サキを膝に乗せながら、そう言った。
「......あなた。それは本当なの?」
 マリアは睨み付けるようにして、ヘンリーを見下ろす。
「ち、違う! 怪我をしたように幻術魔法で見せただけだ!」
 ヘンリーは、狼狽えながらそう答えた。裕次郎は本当にそうなのか、イザベルに小声で確認する。
「え? サキは怪我してなかったの?」
「煙で見にくくはあったが、私が見た限りではそうだ。裕次郎がいきなり父上に攻撃したからビックリしたぞ」
 イザベルも裕次郎と同じように小声で話す。
 良かった。サキは怪我してなかったんだ。裕次郎はひと安心した。
「なぜ、そんな事をしたの!」
 マリアは険しい目付きで、ヘンリーを睨む。
「それは......裕次郎とやらが、イザベルに相応しいか見極めようと......」
 ヘンリーが俯きながら小さい声でそう言った。怖そうなオーラがまるで無い。
「あなた、本当にイザベルに子供が出来たと思ってたの?」
 マリアは呆れたような表情で、ヘンリーを見る。
「イザベルからは、確かにそう聞いた!」
「なら聞きますけど、イザベルが家を出てからどの位経ちましたか?」
「......一年半ぐらいだ」
「あそこにいるサキちゃんが一才以下に見えますか?」
「......見えん」
 ヘンリーが消え入りそうな声でそう呟く。
「サキは私の子供です!」
 黙って話を聞いていたイザベルが、慌てように立ち上がる。
「じゃあどうやって子供を作ったの?」
 マリアが諭すように問い掛ける。
「裕次郎と一緒に暮らしていたのです! 父上は男と女が一緒に暮らすと子供が来ると言っていました! ですよね父上!」
 イザベルはヘンリーの方を見ると、自信たっぷりにそう言った。
「............」
 ヘンリーは、下を向いたまま、なにも答えない。なんでこうなるまでイザベルを放置していたんだろう? 裕次郎は疑問に思う。
「イザベル? いいかしら?」
 なにも答えないヘンリーの代わりに、マリアが口を開いた。
 裕次郎は子作りの仕方を今ここで話すのかと少し期待する。イザベルのお母さん美人だし、なんかドキドキしてきた。『実際にヤりかたを見せるわね』とか言わないかな・・・グフフ。
「本当はね、子供は一緒にいるだけじゃ出来ないのよ」
「そうなのですか!? ならどうやったら出来るのですか!」
 何も知らないイザベルは、躊躇いもなくそう聞いてくる。知らないって怖い。
「......それは......好きな人が出来れば、子供は産まれるの」
 マリアは目を逸らしながら、そう言った
 この人逃げやがった! 裕次郎は、少し残念に思った。子作りの仕方を美人から聞けるかと期待したのに。
「そうなのですか! ではサキは誰の子なんでしょう?」
 イザベルは不思議そうに首をかしげる。その質問に、やっと誤解が解く事ができると安堵しながら裕次郎は答えた。
「たぶんサキは、俺が召喚した悪魔だと思います・・・」
「そうなのか!?」
 イザベルが、心底驚いた! という表情で裕次郎を見る。
「全部、勘違いだったようですね。あなた。」
 マリアがガックリと肩を落としているヘンリーにそう言った。

3.裕次郎は誤解も全て解け丸く収まり、ルンルン気分で帰り道を歩いていた。
 壊れた部屋もマリアさんの魔法で元通りになったし、ヘンリーさんとも『イザベルに手を出したら許さん』とは言われたけど一応仲直りしたし、全部うまくいった! 俺絶対今日死ぬと思ってた!
「でも裕次郎さんが、最低な人じゃなくて良かったです」
 裕次郎が必死で事情を説明し、やっと納得してくれたシャルロットが裕次郎の隣にやって来た。誤解が解けるまでは、三メートル以内には近づいてくれなくて説明するのが大変だった・・・
「本当よ。しっかり事情を説明してくれれば良かったのに! 変な勘違いしちゃったじゃない!」
 ルイーゼは、少し顔を赤くしている。
「いや~、本当に良かった! ね、サキ!」
 裕次郎は上機嫌でサキを肩車する。
「たかい!」
 サキも嬉しそうだ。
「そういえば裕次郎、さっきは凄い魔法使ってたわよね? あんなに強かったなんて知らなかったわよ」
 ルイーゼが感心したように裕次郎を見る。
 !!!! そうだ! 誤解を解くことに必死で忘れてた! 俺なんで魔術使えたのかな?
 裕次郎は必死に考えるが、答えは見つからない。
「そうだ! 何か凄い魔法見せてよ!」
 ルイーゼが、尊敬の眼差しを込めて裕次郎を見る。
「え? しょうがないなぁ~。地形変わっちゃうかも知れないから本気は出せないけどね~」
 裕次郎はにやにや笑いながら立ち止まるとサキを地面に下ろし、注目の視線を感じつつ呪文を唱える。
獄炎大爆球ヘル・フレイムボール!」
『ポッ』
マッチより少し大きな火が指先に灯る。
 ・・・少し手加減し過ぎてしまったようだ。次は全力でいこう。
大絶氷塊散弾アイス・ガンズ・バレッド!!!!」
『カランカラン』
ジュースに入れるのにピッタリな氷が二つ、地面に落ちる。
 なんで!? さっきまでは物凄い大魔術撃てたのに、なんで今は宴会芸レベルになってるの? いみわかんない・・・・・・ 
「なんか全然ダメみたい・・・・・・」
 裕次郎は泣きそうになりながら、振り返る。
「・・・裕次郎って、なんかカッコ悪いわね」
 ルイーゼが、先程とはうって変わって、バカにした表情で見てくる。シャルロットはそもそも見もしないで豆芝と遊んでいる。
 ・・・ちくしょう! せっかく大魔術が使えたのに、モテる気がしない。そもそも、さっきはなんで使えたんだろうか?
 裕次郎が必死で考えると、ある一つの結論に達した。それは、
『俺がぶちギレたときのみ、超強いスーパーな隠された力が、どうにかこうにかなって魔術が発動する』
だ。うん。これしかない。なんかちょっとだけカッコいい。
 裕次郎が一人で納得していると、サキが手を引っ張ってきた。
「おんぶして!」
 裕次郎はサキを優しく抱きかかえ、背中に乗せた。

4.裕次郎とイザベルは、家に戻ってきていた。サキは帰ってきたとたんに眠ってしまい、ベッドで可愛らしい寝息をたてている。
「イザベル、少し話があるんだけど」
 裕次郎は緊張しながら床に正座し、イザベルに話し掛けた。
「なんだ?」
 イザベルも同じように床に座る。
「実はサキの事なんだけど・・・これからどうしよう」
 裕次郎は今後、サキをどうするが話し合うことにした。最悪、ここを出ていくしかない。
「どうしようとは?」
 イザベルが、意味がわからないと言いたげに首をかしげる。
「それは、サキはイザベルの子供じゃないし・・・」
 裕次郎は言葉を濁す。
「うむ。確かに私と血は繋がっていないな」
「俺が召喚したからね・・・」
「だがな、今日家を出るときは確かにサキは私の子供だったのだ。それをいきなり血が繋がっていないだけで他人になる必要はない。誰がなんと言おうとサキは私の子だ!」
 イザベルは力強くそう言った。裕次郎は感動のあまり、イザベルに抱きついてしまう。
「イザベル! ありがとう! 俺一人じゃどうしようかと思った!」
「お、おい抱きつくな! もし二人目が出来たらどうするのだ!」
 イザベルが慌てたように立ち上がり、裕次郎を振り払う。
「え?」
 意味がわからない裕次郎は『ポカン』とした表情でイザベルを見つめる。
「ま、まあ万一という事があるからな! そういうのは無しだ!」
 イザベルは慌てたように裕次郎に背を向け、自分の部屋に入っていった。



続く。













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