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1章

クエストに出発だぁぁぁぁ!

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1.裕次郎は家の中で、昨日もらった雷刀を見つめていた。
 魔法がほとんど使えなくても、ここまでは何とかなっている。問題はここから。クエストには魔獣や、魔物も出てくるらしい。ほっぺを掌で『パチン』と叩き、気合いをいれる。
「よし! これからは、イザベルから出来るだけ離れないようにしよう! 死にたくないから!」
 裕次郎は決意と共に、拳を握りしめる。 
 イザベルから離れれば、俺、絶対すぐ死んじゃうから。だって魔法使えないんだよ? カッコ悪くなんかない。
 裕次郎は自分にそう言い訳する。
「裕次郎! 学校に遅れるぞ! 早くしろ!」
 イザベルの声が玄関から聞こえてきた。
「すぐ行く!」
 裕次郎は急いで制服に着替えた。雷刀をベルトに差し込み、豆芝を抱え玄関へ走っていった。

2.裕次郎は、イザベルと並んで歩いていた。いつものように鎧を着ているが、頭の鎧は着けていないようだ。
「イザベル、俺が言うのも変ですが頭の鎧はいいの?」
 裕次郎はキリッとしたイザベルの横顔を見る。
「ん? 裕次郎が頭の鎧をしていたら、表情が見えないといったのではないか」
 イザベルが不思議そうに見下ろしてくる。
「そ、そうですけどクエストで顔に傷がついたら大変だし・・・」
 裕次郎は言葉を濁す。確かに被れと言ったり脱げと言ったり、変態っぽいかなあ、俺。
「そうか。心配してくれるのは嬉しいが、私は元々クエストの時は頭の鎧は被らんぞ。敵が見えないではないか」
 イザベルはそう言いながら自分の頭を触る。
「え? じゃあ何で、教室とかでは被っているの?」
 裕次郎は不思議に思う。別に教室で被る必要はないよな?
「そんなの決まっているじゃないか! 全身鎧の方がおしゃれだろう! まさか知らないのか? おしゃれするには少しの我慢は必要なんだぞ!」
 イザベルが腕を組ながら、偉そうに反り返る。
「おしゃれ?」
 ・・・え?まさかこの人、鎧がおしゃれと思っているのかな? そもそも鎧に、おしゃれ要素が存在するのか? 裕次郎は疑問に思い、聞いてみる。
「・・・じゃあ、今日のおしゃれポイントは?」
「よく聴いてくれたな! まず一つ目はこのスカート状になっている鎧の、トゲだ。下手に触れると怪我をするぞ。注意しろ」
 イザベルは立ち止まり、嬉しそうに説明し始めた。
「二つ目は手の鎧だな。見てくれ」
 イザベルは手の甲を裕次郎に見せる。するとたくさんのトゲが生えている。これで殴られたら、体に穴が開いてしまう。
「見たら分かると思うが、このトゲだ! 殴れば、肉を引き裂き、骨を砕くぞ。どうだ? おしゃれだろう」
 イザベルが手を開いたり、閉じたりする。
「・・・おしゃれ・・・ですね?」
 裕次郎が、イザベルを見ながら作り笑いを浮かべる。
「そうだろう! おっと、あまりゆっくりとしていると、遅れてしまうぞ!」
 イザベルはそう言いながら、トゲがついていない、掌で裕次郎の手を握る。裕次郎は、引きずられる様に学校へ向かいながら、『おしゃれってなんなんだろう』と考えていた。

3.急いで教室に到着すると半分くらい席が埋まっており、ルイーゼが怠そうに席に座っている。昨日は気付かなかったが、同じ教室だったか。裕次郎は空いていた席に着いた。
「おい! てめえ昨日は偉そうなこと言いやがって、くそ雑魚じゃねえか!」
 アジオが行きなり現れ、裕次郎の胸ぐらを掴む。
 ・・・もしかして俺が弱いのばれた? これヤバイ?
「助けてイザベル! ころされる!」
 弱いとばれた裕次郎はプライドを捨て、イザベルに必死で助けを求める。
「昨日言っはずだが? 次裕次郎に危害を加えようとしたらぶちのめすと」
 隣を見ると、イザベルが立っている。顔が超怖い。
「・・・イザベルてめぇ、いつまでもお前にびびってると思ったら大間違いだぞ!」
 アジオが少しびくつきながらも、反抗する。
「なら、しょうがないな。ぶちのめすだけだ」
 イザベルがそう言いながら拳を握る。手の甲には今日のおしゃれポイントのトゲトゲがついている。
 ・・・ヤバイ。血の雨が降っちゃう。
「やめて! 俺のために争わないで!」
 裕次郎が必死に止めようとするが、収まりそうもない。その時、呪文を唱えるルイーゼの声が教室に響く。
氷錠アイス・ロック! 貴方達! 頭を冷やしなさいよ!」
 すると、イザベルとアジオが氷付けになった。イザベルは、一瞬で氷を破壊する。アジオは、気絶したかのようにカチンコチンだ。少し調子に乗った裕次郎はアジオの前に立つ。
「バーカ! バーカ! あほ! あほ!」
 ざまーみろ!お前なんて怖くもなんともないんだよ! スッキリした裕次郎は満足げに席につく。
「出席をとるぞ。席に着け」
 ドアが開き、ザークが入ってきた。

4.出席を取った後、裕次郎達は凍ったままのアジオを放置して教室を出ると、クエスト受注カウンターへやって来た。そこでシャルロットも合流する。
「おはうございます・・・すいません、豆芝ちゃんを抱かせてもらってもいいですか?」 
 シャルロットは、会った瞬間豆芝を要求する。しかし、裕次郎は昨日魔法を見せたときに、『フッ』と笑われた事をまだ根に持っていた。
「どうしようかなぁ~?」
 裕次郎は、わざと豆芝を抱きしめる
「あ?」
「・・・すいません。いいですよ。ぞうぞ」
 裕次郎は素直に豆芝をシャルロットに渡した。
 ・・・今一瞬、めっちゃ顔怖かった。下手したらイザベルより怖かったかもしれない。少しちびっちゃった。
「いいんですか?有難うございます!」
 シャルロットは『ニッコリ』と可愛く笑いながら、豆芝を受け取った。

5.裕次郎達はどのクエストへ行くか話し合っていた。
「まずは簡単なクエストにしましょう。『飼い猫を探せ』とかにしませんか?」
 裕次郎はビビりながら提案する。まだ死にたくない。
「いやいや、火龍ファイヤー・ドラゴン討伐なんかいいんじゃないか?場所も割と近いぞ」
 イザベルが提案する。
「そうね。私も裕次郎を使って色々試したい魔法もあるし、それでいいわよ。裕次郎も、いいわよね?」
 ルイーゼが裕次郎の手を握りなら、上目遣いで見つめてくる。
「うん。いいよ」 
 ・・・そんなに見られると、俺、ドキドキしちゃう。
 照れた裕次郎は、なにも考えずに答えた。
「ありがと。それじゃ、ついでに魔力ももらうわね。魔力吸収ドレイン・タッチ!」
「ああああ! きもちわ・・る・・い・・・」
 また魔力吸いとられた。裕次郎はぐったりと床に倒れこんだ。
「これでいいわね。シャルロットも、火龍ファイヤー・ドラゴンでいいかしら?」
 ルイーゼがシャルロットに尋ねる。
「はい。私は豆芝ちゃんがいれば、どこでも良いですよ!」 
 シャルロットは、豆芝の頭を撫でながらそう言った。

6.「貴方いつまでて寝ているの! もう行くわよ!」
 ルイーゼが裕次郎を足の爪先つまさきで小突く
「・・・分かりましたよ・・・だからけらないで・・・」
 裕次郎はゆっくりと立ち上がる。うん。もう大丈夫だ。起き上がると、クエストの最終確認をしているようだ。
「裕次郎。起きたか。話がある」
 イザベルは、裕次郎を手招きする。
 ・・・おかしいなあ。昨日魔力吸収ドレイン・タッチされたときは心配してくれたのになあ。馴れって怖い。きっとこのまま、当たり前のように吸われ続けるんだろうなあ。裕次郎はそう思いながら、イザベルに近寄る。
「なんですか?」
「実は最後に、火龍ファイヤー・ドラゴンについて知っておいた方がいいと思ってな」
 イザベルはそう言いながら、クエスト用紙の説明部分を見せる。 
火龍ファイヤー・ドラゴン。体長十五メートル。火を吐き、人を襲う。毎年、百人以上の犠牲者が出ている』
 ・・・でかくない? それに人死にすぎじゃない? これは、無理。
「イザベル、これは止めましょう」
 裕次郎は冷静な判断で危機を回避しようとした。
「無理だ。一度受注したクエストは破棄できないぞ」
 イザベルは笑いながら裕次郎を見る。
「無理ですよ! 俺死んじゃいますよ!」
 裕次郎が泣き声で訴える。
「大丈夫だ。魔法使いは簡単には死なない。もう行くぞ」
 イザベルはそう言うと、裕次郎の手を掴み、凄い力で引きずっていく。裕次郎は、少し泣きながら考えていた。
 ・・・俺、魔法使えないんだけど。一撃でもくらうと死ぬんだけど・・・
 裏庭ガーデンの入り口まで引きずられた裕次郎は、覚悟を決めた。
 もういいや。どうせ俺、モテないしハーレムも作れないし魔法使えないし、もし死んだら犬に生まれ変わろう。そうしよう。
 裕次郎はシャルロットに抱かれている幸せそうな豆芝を見ながら、そう心に決めた。

続く。






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