83 / 91
6章
けんか
しおりを挟む
1.裕次郎がイエリスと握手を交わしていると、山の斜面にめり込んでいたイザベルがいつの間にか側に立っていた。
「きゃああああ!」
裕次郎は思わず悲鳴をあげてしまった。すぐにイエリスの後ろに隠れる。
まだ俺のこと殺そうとか思ってるかもしれないし。近くにいるのはちょっと危ないかな。
しかしそれにしても、と裕次郎はイザベルを観察する。
山の斜面にめり込む程蹴られたくせに、あまりダメージを受けた様子はない。鎧は少し汚れているものの、怪我などはしていないようだった。
人間じゃないな。人間の形をした怪物かな。
裕次郎はそう結論づけた。
蹴られて頭が冷えたのか、イザベルは落ち着いているように見えた。目も据わってないし、怒っているようすもなかった。
「お久しぶりですね。姉上」
「え、そうね。久しぶりね」
ごく普通に話しかけられたせいか、イエリスは少し戸惑っているようだった。まあ、無理もない。蹴り飛ばした相手がいきなり挨拶なんてしてきたらそれは戸惑うだろう。
そんなことを考えていると、イザベルが地面を指差した。
「姉上、何か落ちてますがそれは何ですか?」
「え?」
イエリスはイザベルの指を辿って下を向いた。裕次郎もつられて下を向こうとした。が、その視界の端に大きく振り上げられた大剣が見えた。
「ちょっと待てぇ!!」
裕次郎はイエリスの後ろから飛び出し、イザベルに思いっきりタックルした。
しかし、力の差は歴然、あっけなく弾き飛ばされてしまう。が、大剣の軌道は僅かに逸れイエリスのすぐ横に大剣が振り下ろされた。
『バガァァン!!』
大剣、本気で振り下ろしたんだろうな。殺すつもりの一撃じゃん。裕次郎はそう確信した。
地面は割れ、大きく切り裂かれていたからだ。
「・・・・・・チッ・・・ああ、私の見間違いでした。用事があるのでこれで失礼します」
イザベルは何事もなかったかのように立ち去ろうとした。しかしイエリスがイザベルの腕を掴む。
「ちょっと! あんた今私のこと本気で殺そうとしたでしょ! 何しれっとどっか行こうとしてんのよ!」
「いえ? そんなつもりはありません。虫がいたんですよ。害虫が」
「姉ちゃんにそんな態度とってただですむと思ってんの!? 次は本気で蹴るよ!」
「なら私も次は本気で攻撃しますよ?」
「姉ちゃんに勝てるわけないでしょ!!」
「私はすでに姉上を越えています!!」
二人は間合いをとり、戦闘体勢に入った。一触即発の二人を止めるため、裕次郎は間に入る。
「ちょっと! 戦争中ですよ! 喧嘩しないで・・・」
そこで気がつく。自分は失敗した、と。
もうすでにイザベルは剣を振り上げ突っ込んできていた。イエリスも応戦しようと構えている。そして裕次郎はそんな中に飛び込んでしまったのだ。
イザベル急に止まれない。飛び出し禁止。
そんな標語が頭に浮かぶが、避ける方法は思い浮かばなかった。
今度こそ、死んだかな?
裕次郎がそう思ったとき、急に足を掴まれ引っ張られた。
続く。
「きゃああああ!」
裕次郎は思わず悲鳴をあげてしまった。すぐにイエリスの後ろに隠れる。
まだ俺のこと殺そうとか思ってるかもしれないし。近くにいるのはちょっと危ないかな。
しかしそれにしても、と裕次郎はイザベルを観察する。
山の斜面にめり込む程蹴られたくせに、あまりダメージを受けた様子はない。鎧は少し汚れているものの、怪我などはしていないようだった。
人間じゃないな。人間の形をした怪物かな。
裕次郎はそう結論づけた。
蹴られて頭が冷えたのか、イザベルは落ち着いているように見えた。目も据わってないし、怒っているようすもなかった。
「お久しぶりですね。姉上」
「え、そうね。久しぶりね」
ごく普通に話しかけられたせいか、イエリスは少し戸惑っているようだった。まあ、無理もない。蹴り飛ばした相手がいきなり挨拶なんてしてきたらそれは戸惑うだろう。
そんなことを考えていると、イザベルが地面を指差した。
「姉上、何か落ちてますがそれは何ですか?」
「え?」
イエリスはイザベルの指を辿って下を向いた。裕次郎もつられて下を向こうとした。が、その視界の端に大きく振り上げられた大剣が見えた。
「ちょっと待てぇ!!」
裕次郎はイエリスの後ろから飛び出し、イザベルに思いっきりタックルした。
しかし、力の差は歴然、あっけなく弾き飛ばされてしまう。が、大剣の軌道は僅かに逸れイエリスのすぐ横に大剣が振り下ろされた。
『バガァァン!!』
大剣、本気で振り下ろしたんだろうな。殺すつもりの一撃じゃん。裕次郎はそう確信した。
地面は割れ、大きく切り裂かれていたからだ。
「・・・・・・チッ・・・ああ、私の見間違いでした。用事があるのでこれで失礼します」
イザベルは何事もなかったかのように立ち去ろうとした。しかしイエリスがイザベルの腕を掴む。
「ちょっと! あんた今私のこと本気で殺そうとしたでしょ! 何しれっとどっか行こうとしてんのよ!」
「いえ? そんなつもりはありません。虫がいたんですよ。害虫が」
「姉ちゃんにそんな態度とってただですむと思ってんの!? 次は本気で蹴るよ!」
「なら私も次は本気で攻撃しますよ?」
「姉ちゃんに勝てるわけないでしょ!!」
「私はすでに姉上を越えています!!」
二人は間合いをとり、戦闘体勢に入った。一触即発の二人を止めるため、裕次郎は間に入る。
「ちょっと! 戦争中ですよ! 喧嘩しないで・・・」
そこで気がつく。自分は失敗した、と。
もうすでにイザベルは剣を振り上げ突っ込んできていた。イエリスも応戦しようと構えている。そして裕次郎はそんな中に飛び込んでしまったのだ。
イザベル急に止まれない。飛び出し禁止。
そんな標語が頭に浮かぶが、避ける方法は思い浮かばなかった。
今度こそ、死んだかな?
裕次郎がそう思ったとき、急に足を掴まれ引っ張られた。
続く。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる