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6章

あれ?

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1.裕次郎はバーサー化したイザベルを必死に止めていた。しかし他の住人は我関せずと好き勝手に遊んでいる。
「う~ん・・・背面飛行は思ったより難しいですね・・・」
「む!? 角が少し伸びてきたみたいなのじゃ! そんな気がするのじゃ!」
「ママ~! パパ~! がんばえ~」
 そんな役立たずの住人を無視し、裕次郎はイザベルにしがみつきながら説得する。
「――だからね、ヤコは俺の為を思って封印をしたと思うんだ。方法は騙し討ちみたいな感じといえばまあそうだったけど、首チョンパるのはやりすぎと思うんだ!」
 イザベルは大剣を握りしめたまま裕次郎の話を聞いていた。その横ではヤコがぷるぷる震えながらうずくまっている。
「しかし術者を殺さなければ封印は解除できないのだろう? すぐに戦争も始まるだろうし使える力は使えた方が良いのではないか? なに、大丈夫だ。すぐに終わらせる」
 イザベルはそう言いながらヤコの真上に大剣を振り上げた。
「だから待ってっていってるでしょー!! 殺さない方向性で話し合いたいなぁ俺は!!」
 裕次郎は大声で説得する。イザベルは少し悩んだあと、しぶしぶといった感じで大剣を床に置いた。
「全く・・・そんなことでは戦争で死んでしまうのが落ちだぞ。しかし封印されたのは裕次郎自身だ。裕次郎の意見は尊重しよう」
 イザベルはどっかりと床に腰を下ろし話を続ける。
「まあしかし、もし斬ることになったら協力はするぞ」
「いやだから殺さない方向性で考えるんだってば」
「・・・そうだったな。それで何か良い方法はあるのか? おい、お前に訊いているのだぞ?」
 イザベルは震えているヤコをつまみ上げると裕次郎の目の前にそっと置いた。
「・・・ニャ・・・方法は無いニャ・・・」
 ヤコはそう言うと前足で自分の頭を隠してしまった。イザベルは腕組みをしながら頷いた。
「そうか・・・ならヤコ、お前が裕次郎を守るしか方法がないな」
「ニャ? 守る?」
「そうだ。お前は十二使徒のメンバーらしいからな。相当強いのだろう?」
「いや、ヤコちゃんは幻覚系の魔法が超得意なだけなんニャ。戦争ではあんまり役にたたないと思うのニャ」
 ヤコは後ずさりながらそう言った。
「なら仕方ないな。何かあったときの身代わりになるしかないだろう」
「ニャ!? 嫌ニャ!! まだ死にたくニャいニャ!」
 ヤコは華麗に危機から脱出しよう・・・としたが、その目の前にイザベルの大剣が突き刺さった。
「今死ぬか、あとで死ぬかもしれないか好きな方を選べ」
 髭を切られたヤコは、震えながらも答える。
「い、今死にたく無いですニャ・・・」
「そうか。なら共に最前線で戦おう」
 イザベルはそう言うと大剣を引き抜いた。しかし裕次郎はイザベルが不吉な台詞を放ったのを聞き逃さなかった。
「さいぜんせん? 最前線?」
「ああ、まだ言っていなかったな」
 イザベルは裕次郎の方へ体を向けながら話す。
「今回の戦争、念願叶い私は最前線で戦うことになったのだ。その際に裕次郎も同行させるとバイオンが言っていたのだ」
「え? 何で俺も? 他の人は? ルイーゼは? シャルロットは?」
「ん? その二人は後援の医療部隊へ配属と聞いたぞ? 学生で最前線へ行けるのは私と裕次郎だけだぞ。良かったな」
「いや全然良くないよ! 最前線なんてきいてないし! 封印された俺が戦えるわけないじゃんか!」
 裕次郎はそう吐き捨てた。さっきまでヤコが死ぬかどうかの話だったのに、いつの間にか俺が死ぬかどうかの話になってるじゃん! 何で!?
 意味不明な展開に困惑する裕次郎。しかしイザベルはお構いなしに話をする。
「まあ、だいじょうぶだろう。なにかあればこいつが身代わりになってくれるはずだ。そうだろう?」
 イザベルは猫に変身しているヤコを指差した。


 続く。




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