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5章
封印
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1.「・・・という訳で、また封印されちゃいました。なんとかする方法知ってる人います?」
お風呂から上がった裕次郎はそう訊いてみた。しかし誰も知らないらしく、話そうとはしない。
「そうだ! 引っ張ればとれるのではないか?」
イザベルが突然立ち上がり、裕次郎の指にはまっている指輪を思いっきり引っ張った。
「痛い痛い! 指がとれちゃう指が!」
裕次郎は慌ててイザベルの手を振り払った。
「む? もっと強く引っ張ればとれそうだったぞ? なんなら切り落としてみるか?」
イザベルはそう言いながら大剣を握りしめ振りかざす。
「ちょっと待って! 切り落とすって何を! 指輪でも指でもダメだからそれ!」
裕次郎は慌ててサキの後ろに隠れた。
「パパ? どうしたの?」
サキは、後ろに隠れ震えている裕次郎を見つめた。
「サキ、そこをどくのだ。パパの指が切り落とせないだろう?」
「うん! 分かった!」
サキはそう言うと裕次郎をイザベルの目の前に押し出した。
・・・やっぱりサキの力強くなってる。いや、今はそれどころじゃない。このままだと指詰められちゃう。
裕次郎はイザベルの説得にかかった。
「あ、え、えっと、切り落とすのはいいアイデアだと思うよ? でも他にもっといいアイデアがあるかもしれないし、ちょっと落ち着こうね? そ、そうだ、それに切られたら痛すぎて漏らしちゃうかもしれないよ?」
「う、うむ。それは困るな。なら他に良いアイデアがあるのか?」
イザベルは振り上げた大剣を下ろしながらそう訊いてきた。裕次郎は最後の頼みの綱、さっちゃんへ助けを求めた。
「さっちゃんさん! なんかいい方法ありますよね!!」
「・・・・・・ないな。諦めが肝心じゃ。素直に切り落とされてはどうじゃ?」
「よし! なら切り落とすしかないな!」
「ちょっと待ってって言ってるのおお! 言うこと聞けええ!」
裕次郎は大剣を振り上げたイザベルに突進しそのまま押し倒した。
2.「ハアハア・・・次切り落とそうとしたら本格的に漏らすからね。あと泣くから」
「・・・ああ。分かった。なんかすまなかったな」
「分かればいいんですよ分かれば」
トイレから帰ってきた裕次郎はそう言いながら床に座った。
「さっちゃん、ちょっと訊いてもいい?」
「ん? なんじゃ?」
「あのさ、いったん指輪を破壊して、そのあと悪魔の力で治すなんてことは出来ないの?」
裕次郎は期待しつつ、さっちゃんの方を向きながら質問をした。しかしさっちゃんは首を横に振った。
「いや、解印による怪我は治せないはずじゃ。そもそも封印は神力を使っているしな。『封印』され『解印』してしまえばその時点で『封印される』確率は百パーセントで固定されてしまうのじゃ。仮に解印したあとお兄ちゃんの『支配』で時間を巻き戻したとしても、多少の変更はあれど再度封印されてしまうはずじゃ。百パーセントじゃから千回時間を巻き戻しても封印されてしまう未来は変わらないんじゃ。まあ、例外はあるんじゃけどね」
「例外!? なにそれ!」
「ありきたりじゃが、封印した術者を殺してしまえば良い。殺してしまえば封印する者もいなかったことになるじゃろう?」
「・・・ああ・・・なるほどね。そういうタイプね」
裕次郎は、
いや、殺すとかは無理だから。相手ヤコだし。
と思いながら頷いた。するといきなりイザベルが立ち上がった。
「よし! そうと決まれば早い方が良いだろう。ヤコは風呂場にいるのか? 待っていろ裕次郎。すぐに解決してやるからな」
そう言いながら大剣を掴み、風呂場へ向かおうとする。裕次郎はイザベルに抱きつき、必死で止めた。
「いやいやいや! ちょっとなに考えてんの? なにするつもりなの!」
「ん? ヤコを斬るだけだぞ?」
「いやそれ死んじゃうから! まじでなにいってんの? ついにバーサー化したの?」
「・・・一つ訊きたいのだが、ヤコは裕次郎を騙して能力を封印し、解印する方法は術者を殺すしかないのだろう?」
「・・・まあ、そんな感じだけど」
「他人を騙すような卑怯な奴は斬っても良いんだぞ? それに方法は他には無いのだろう? なら私は行ってくるから裕次郎はここで待っていろ」
イザベルはそう言いながら裕次郎を振り払い、風呂場へと走っていった。
「・・・あいつ、ヤバイ奴じゃったんな」
さっちゃんがポツリとそう呟いたと同時に、風呂場から爆発音が聞こえてきた。
3.「ニャァァァ! 殺されるニャァァァ!」
二回目の爆発音と共に、猫の姿に変身したヤコが部屋に転がり込んできた。
「往生際が悪いぞ。罪を償えヤコ!」
後から入ってきたイザベルは大剣を振りかざし、ヤコめがけて一直線に振り下ろす。
「ギニャァァァ!!」
ヤコはギリギリで大剣をかわし、その勢いでごろごろ転がりながら裕次郎の後ろへと回り込んだ。
「裕次郎助けてくれニャ! 本当の本当に殺されそうなんニャ! あの眼はガチニャ!」
「裕次郎そこを退いてくれ。ヤコを斬れないだろう」
「ママがんばえ~」
「悪魔より悪魔じゃなこやつ・・・」
「裕次郎さん、空中で止まれるようになりましたよ! ほら!」
それぞれが思い思いに適当に、好き勝手に暴れまわっていた。
ベルはブンブンホバリングしてるし、
さっちゃんはうんうん頷いてるし、
サキは角をふりふり応援してるし、
イザベルは大剣ふりふり暴れてるし、
ヤコは濡れたままブルブル震えてるし、
俺は俺でもうどうしたらいいか分かんないし。
やけくそになった裕次郎はイザベルに飛びかかった。
「さっきのは全部冗談だから! だから落ち着いてイザベル! みんなも遊んでないでイザベル止めるの手伝ってぇぇぇ!」
続く。
お風呂から上がった裕次郎はそう訊いてみた。しかし誰も知らないらしく、話そうとはしない。
「そうだ! 引っ張ればとれるのではないか?」
イザベルが突然立ち上がり、裕次郎の指にはまっている指輪を思いっきり引っ張った。
「痛い痛い! 指がとれちゃう指が!」
裕次郎は慌ててイザベルの手を振り払った。
「む? もっと強く引っ張ればとれそうだったぞ? なんなら切り落としてみるか?」
イザベルはそう言いながら大剣を握りしめ振りかざす。
「ちょっと待って! 切り落とすって何を! 指輪でも指でもダメだからそれ!」
裕次郎は慌ててサキの後ろに隠れた。
「パパ? どうしたの?」
サキは、後ろに隠れ震えている裕次郎を見つめた。
「サキ、そこをどくのだ。パパの指が切り落とせないだろう?」
「うん! 分かった!」
サキはそう言うと裕次郎をイザベルの目の前に押し出した。
・・・やっぱりサキの力強くなってる。いや、今はそれどころじゃない。このままだと指詰められちゃう。
裕次郎はイザベルの説得にかかった。
「あ、え、えっと、切り落とすのはいいアイデアだと思うよ? でも他にもっといいアイデアがあるかもしれないし、ちょっと落ち着こうね? そ、そうだ、それに切られたら痛すぎて漏らしちゃうかもしれないよ?」
「う、うむ。それは困るな。なら他に良いアイデアがあるのか?」
イザベルは振り上げた大剣を下ろしながらそう訊いてきた。裕次郎は最後の頼みの綱、さっちゃんへ助けを求めた。
「さっちゃんさん! なんかいい方法ありますよね!!」
「・・・・・・ないな。諦めが肝心じゃ。素直に切り落とされてはどうじゃ?」
「よし! なら切り落とすしかないな!」
「ちょっと待ってって言ってるのおお! 言うこと聞けええ!」
裕次郎は大剣を振り上げたイザベルに突進しそのまま押し倒した。
2.「ハアハア・・・次切り落とそうとしたら本格的に漏らすからね。あと泣くから」
「・・・ああ。分かった。なんかすまなかったな」
「分かればいいんですよ分かれば」
トイレから帰ってきた裕次郎はそう言いながら床に座った。
「さっちゃん、ちょっと訊いてもいい?」
「ん? なんじゃ?」
「あのさ、いったん指輪を破壊して、そのあと悪魔の力で治すなんてことは出来ないの?」
裕次郎は期待しつつ、さっちゃんの方を向きながら質問をした。しかしさっちゃんは首を横に振った。
「いや、解印による怪我は治せないはずじゃ。そもそも封印は神力を使っているしな。『封印』され『解印』してしまえばその時点で『封印される』確率は百パーセントで固定されてしまうのじゃ。仮に解印したあとお兄ちゃんの『支配』で時間を巻き戻したとしても、多少の変更はあれど再度封印されてしまうはずじゃ。百パーセントじゃから千回時間を巻き戻しても封印されてしまう未来は変わらないんじゃ。まあ、例外はあるんじゃけどね」
「例外!? なにそれ!」
「ありきたりじゃが、封印した術者を殺してしまえば良い。殺してしまえば封印する者もいなかったことになるじゃろう?」
「・・・ああ・・・なるほどね。そういうタイプね」
裕次郎は、
いや、殺すとかは無理だから。相手ヤコだし。
と思いながら頷いた。するといきなりイザベルが立ち上がった。
「よし! そうと決まれば早い方が良いだろう。ヤコは風呂場にいるのか? 待っていろ裕次郎。すぐに解決してやるからな」
そう言いながら大剣を掴み、風呂場へ向かおうとする。裕次郎はイザベルに抱きつき、必死で止めた。
「いやいやいや! ちょっとなに考えてんの? なにするつもりなの!」
「ん? ヤコを斬るだけだぞ?」
「いやそれ死んじゃうから! まじでなにいってんの? ついにバーサー化したの?」
「・・・一つ訊きたいのだが、ヤコは裕次郎を騙して能力を封印し、解印する方法は術者を殺すしかないのだろう?」
「・・・まあ、そんな感じだけど」
「他人を騙すような卑怯な奴は斬っても良いんだぞ? それに方法は他には無いのだろう? なら私は行ってくるから裕次郎はここで待っていろ」
イザベルはそう言いながら裕次郎を振り払い、風呂場へと走っていった。
「・・・あいつ、ヤバイ奴じゃったんな」
さっちゃんがポツリとそう呟いたと同時に、風呂場から爆発音が聞こえてきた。
3.「ニャァァァ! 殺されるニャァァァ!」
二回目の爆発音と共に、猫の姿に変身したヤコが部屋に転がり込んできた。
「往生際が悪いぞ。罪を償えヤコ!」
後から入ってきたイザベルは大剣を振りかざし、ヤコめがけて一直線に振り下ろす。
「ギニャァァァ!!」
ヤコはギリギリで大剣をかわし、その勢いでごろごろ転がりながら裕次郎の後ろへと回り込んだ。
「裕次郎助けてくれニャ! 本当の本当に殺されそうなんニャ! あの眼はガチニャ!」
「裕次郎そこを退いてくれ。ヤコを斬れないだろう」
「ママがんばえ~」
「悪魔より悪魔じゃなこやつ・・・」
「裕次郎さん、空中で止まれるようになりましたよ! ほら!」
それぞれが思い思いに適当に、好き勝手に暴れまわっていた。
ベルはブンブンホバリングしてるし、
さっちゃんはうんうん頷いてるし、
サキは角をふりふり応援してるし、
イザベルは大剣ふりふり暴れてるし、
ヤコは濡れたままブルブル震えてるし、
俺は俺でもうどうしたらいいか分かんないし。
やけくそになった裕次郎はイザベルに飛びかかった。
「さっきのは全部冗談だから! だから落ち着いてイザベル! みんなも遊んでないでイザベル止めるの手伝ってぇぇぇ!」
続く。
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