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4章

角からビーム?

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1.裕次郎は間一髪でビームをかわした。思ったよりもビームの反動が強かったのか、バランスを崩したサキは尻餅をつく。サキの角から飛び出した漆黒のビームは天井を貫通し、空へと放たれた。
 と、少しずつビームは弱まりはじめる。初めは大きな丸太ほどだったが、すぐに枝ほどの太さになり、ついに消えた。
「・・・なんかでてきた? なんで?」
 いまいち状況を把握できていないサキは、首を傾げたまま裕次郎に向き直ると今度は反対側に首を傾げた。
「・・・角くっつけたから・・・かな?」
 状況を理解出来ていないのは裕次郎も同じだった。
 頭に角を付けただけでビームが使えるのなら、俺がくっつければよかった・・・
 裕次郎はそう後悔したが、今はそれどころではない。
 そう。
 サキが天井ぶち抜いちゃったからだ。頭を上げると、天井には丸い大穴が空いていた。
 このままじゃイザベルに怒られちゃうかも・・・・・・
 裕次郎はびびりながらも状況を再確認する。
 天井には大きな穴が空いている。張本人のサキは無邪気に首を傾げたままだ。役に立ちそうにない。
 さっちゃんは・・・・・・膝をつき、呆然とサキを見上げていた。
 まあ無理もない。ついさっきまで世界を征服するとかイキってた奴が、今では力を奪われただの幼女になってしまい、そしてその力を見せつけられたのだ。精神的ダメージは計り知れない。今はそっとしておいてやろう。
 裕次郎が視線を上げると、ベルは天井に張り付き空いた穴を観察していた。
「派手に空けましたね。サキがこんなに強いとは知りませんでしたよ」
 ベルはギイギイと羽音を立てる。
 すると突然さっちゃんは立ち上がり、大声をあげた。
「ってことは私もビーム打てるんじゃんか!!」
「え? 急にどうしたの? 今はそれよりも天井をどうにかしないと・・・・・・」
「そんなことはどうでもいいのじゃ! 折れた角にあれだけの力があるのだ! この角にも力があるに違いないのじゃ!」
 さっちゃんはそう言いながら二つのたんこぶを触っていた。
「そう・・・なのかな?」
 そう言いながら裕次郎は、
『いやビームとかいいから。また天井壊れたらどうすんの?』
と思っていた。しかし、さっちゃんは先程のサキと同じようにたんこぶ(角)を突きだし、ビームを放とうと構えた。
「いやちょっと待って! ビームは外でやって!」
 裕次郎はさっちゃんを止めようとするが一歩遅かった。
「いくのじゃぁぁ!」
 さっちゃんはそう叫ぶと、二つのたんこぶは神々しく光輝いた。

2.「・・・・・・」
 さっちゃんは床にうつ伏せに倒れこんでいた。サキは相変わらず首を傾げたまま固まっていた。ベルは大爆笑しながら飛び回っていた。
「あはは! あれがビームですか!」
 ベルは挑発するように飛び回るが、さっちゃんはピクリとも動かなかった。心が折れてしまっているのだろう。
 結局、さっちゃんはビームを出すことが出来なかった。いくら顔を真っ赤にしてきばっても、二つのたんこぶがぴかぴかと輝くだけだった。
「夜には役に立ちそうだね。明るいし」
 裕次郎がそう言うと、力尽きたのか床に倒れこんでしまったのだ。
 ・・・もうマジでどうすっかな。
 裕次郎が腕を組み、絶望的なこの状況を解決するべく思考していると、玄関からガチャリと音が聞こえた。
 あ。帰ってきちゃった。
 裕次郎が焦っているその間にも、ガシンガシンと鎧の音は近づいてくる。
 もういいや。土下座すれば許してくれるはず。先手必勝だ。
 裕次郎は部屋で土下座待機し、その時を待っていた。
 鎧の音が止まった。裕次郎は土下座したまま謝った。
「すいません天井壊しちゃいました殺さないで下さい!」
 思わず命乞いしてしまった裕次郎。しかしイザベルは大剣を振り上げるでもなく、鎧のトゲトゲを突き刺してくるわけでもなく、ただポカンとした表情で裕次郎を見下ろしているだけだった。
 そしてイザベルは天井と裕次郎を交互に見つめたあと、口を開いた。
「何を言っているのだ? 元々天井に穴は空いていたではないか。寝ぼけているのか?」


 続く。


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