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4章
ベル
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1.「うう・・・痛いのじゃ・・・」
さっちゃんはよろよろと立ち上がると頭をさする。しかしそこにあるはずの角はない。そしてドアにはぽっきりと折れた角が一本刺さっていた。
「・・・・・・角がとれちゃったのじゃああ!」
そう叫びながらドアから角を取り、頭の上にそっと乗せた。しかしすぐに床に落ちてしまう。
裕次郎は震えているさっちゃんに声をかける。
「あの、角折れたけど大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない!! 角がないと力が出ないのじゃ・・・・・・」
「また生えてきたりとかはしないの?」
「それはわかんないのじゃ・・・・・・」
「そっか・・・・・・」
裕次郎はそう言うと黙りこんでしまった。部屋はしんと静まり返っている。と、突然絶叫が響き渡る。
「ウジギャーー!」
突然の絶叫に裕次郎は驚き辺りを見回した。するとそこには、ガッチガチに固まっていたはずのベルが・・・・・・空中に浮遊していた。
「・・・・・・え?」
裕次郎はベルの姿をまじまじと見つめた。
体は一回り大きくなり、背中には羽が生えていた。二本しかなかった突起は六本に増え、その突起も少し大きくなっていた。
「ツチノコって・・・・・・空飛べるんだ・・・」
裕次郎は思わずそう呟いていた。ベルはブンブンと部屋を飛び回る。
「どうですかこの洗練されたフォルム! 裕次郎さんの邪力が増えたおかげで私も進化できましたよ!」
ベルは羽音を立てながら裕次郎の頭の上に止まった。
「いきなりガッチガチになったから心配したんだよ!」
「それはすいませんでした。私もまさか、こんなに早く第二形態になれるとは思っていませんでしたから・・・」
「まあ、無事なら良いんだけどね・・・」
裕次郎はそう言いながら、無事ではないさっちゃんへ視線をやる。根本しか残っていない右角を必死に押さえていた。
ベルが裕次郎の頭の上から飛び立ち、さっちゃんの前に降りた。
「あらあらサタンさん、角が折れてしまったんですかぁ~。もう邪力は使えませんねぇ」
ベルは羽をギーギーとならしながらそう言った。
進化して少し性格悪くなったのかな・・・・・・裕次郎はベルを見ながらそう思っていた。
「うっさいのじゃ! すぐに生えてくるに決まっているのじゃ!」
「いやいや。ずっと生えて来ないかもしれないじゃないですか。そしたら弱いままですね」
「・・・・・・絶対生えてくるもん! そしたら強くなって世界征服するもん!」
「偉そうな事は角が生えてから言ってください。ほら。早く出てってくださいよ」
「・・・・・・うっ・・・ひっく・・・」
さっちゃんは泣く寸前まで追い込まれていた。いや、もう泣いていた。流石にかわいそうになり、助け船を出す。
「さっちゃん。角が生えてくるまでここにいていいから。角も直ぐに生えて来る・・・・・・と思うよ?」
「うう・・・お兄ちゃんありがとう・・・・・・」
さっちゃんはよろけながらもよたよたと近づいてくると、抱きついてきた。正直俺の妹というよりサキの妹みたいだ。
「裕次郎さん! サタンをここに置いておくつもりですか!」
ベルがそう言いながら頭の上に乗った。
「うん。なんか俺の妹・・・らしいし、困ってるみたいだし・・・」
「忘れたんですか! サタンが封印を破壊したせいで裕次郎さんの右目は破壊されたんですよ! 代わりの邪眼をはめ込まれたとはいえ、許せません!」
「まあ、そう言わないで・・・・・・え? じゃがん? なにそれ?」
「裕次郎さんの右目はすでに邪眼になってるんです。サタンの力は知りませんが、簡単に言うと蝿の王の力を宿した右手と同質のものです。しかし右目は常時邪眼なのでそのぶん体への負担は大きいはずです」
「そうなんだ・・・・・・」
裕次郎は右目に触れてみた。が、やはり閉じたまま開く気配はない。とりあえずさっちゃんに聞いてみることにした。
「それで、この右目の能力はなんなの?」
「・・・・・・わかんないのじゃ」
「は?」
「だからわかんないの! つい最近堕天したばっかりなのじゃ! 力など知らん!」
さっちゃんはそう言うと口を尖らせる。
あれ?
裕次郎は嫌な予感がしていた。さっちゃんは最近天界から落とされたと言った。初めて会ったのは裏庭だ。その時さっちゃんはずいぶん疲れていた。そしてその裏庭は何者かに破壊されていた。
「あのさ、さっちゃん」
「なんじゃ?」
「地上に落ちたときになにか壊したりした?」
「なにも壊したりはしてないぞ。ただ落ちてきたからな。少し地面がえぐれてしまったのじゃ」
「・・・・・・少しってどのくらい?」
「そうじゃな・・・・・・お兄ちゃんにわかる単位でいえば一キロ四方くらいじゃ」
「・・・・・・そっか」
裕次郎は確信した。裏庭を破壊し、緊急クエスト対象の魔物は自称俺の妹、さっちゃんに間違いない、と。
続く。
さっちゃんはよろよろと立ち上がると頭をさする。しかしそこにあるはずの角はない。そしてドアにはぽっきりと折れた角が一本刺さっていた。
「・・・・・・角がとれちゃったのじゃああ!」
そう叫びながらドアから角を取り、頭の上にそっと乗せた。しかしすぐに床に落ちてしまう。
裕次郎は震えているさっちゃんに声をかける。
「あの、角折れたけど大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない!! 角がないと力が出ないのじゃ・・・・・・」
「また生えてきたりとかはしないの?」
「それはわかんないのじゃ・・・・・・」
「そっか・・・・・・」
裕次郎はそう言うと黙りこんでしまった。部屋はしんと静まり返っている。と、突然絶叫が響き渡る。
「ウジギャーー!」
突然の絶叫に裕次郎は驚き辺りを見回した。するとそこには、ガッチガチに固まっていたはずのベルが・・・・・・空中に浮遊していた。
「・・・・・・え?」
裕次郎はベルの姿をまじまじと見つめた。
体は一回り大きくなり、背中には羽が生えていた。二本しかなかった突起は六本に増え、その突起も少し大きくなっていた。
「ツチノコって・・・・・・空飛べるんだ・・・」
裕次郎は思わずそう呟いていた。ベルはブンブンと部屋を飛び回る。
「どうですかこの洗練されたフォルム! 裕次郎さんの邪力が増えたおかげで私も進化できましたよ!」
ベルは羽音を立てながら裕次郎の頭の上に止まった。
「いきなりガッチガチになったから心配したんだよ!」
「それはすいませんでした。私もまさか、こんなに早く第二形態になれるとは思っていませんでしたから・・・」
「まあ、無事なら良いんだけどね・・・」
裕次郎はそう言いながら、無事ではないさっちゃんへ視線をやる。根本しか残っていない右角を必死に押さえていた。
ベルが裕次郎の頭の上から飛び立ち、さっちゃんの前に降りた。
「あらあらサタンさん、角が折れてしまったんですかぁ~。もう邪力は使えませんねぇ」
ベルは羽をギーギーとならしながらそう言った。
進化して少し性格悪くなったのかな・・・・・・裕次郎はベルを見ながらそう思っていた。
「うっさいのじゃ! すぐに生えてくるに決まっているのじゃ!」
「いやいや。ずっと生えて来ないかもしれないじゃないですか。そしたら弱いままですね」
「・・・・・・絶対生えてくるもん! そしたら強くなって世界征服するもん!」
「偉そうな事は角が生えてから言ってください。ほら。早く出てってくださいよ」
「・・・・・・うっ・・・ひっく・・・」
さっちゃんは泣く寸前まで追い込まれていた。いや、もう泣いていた。流石にかわいそうになり、助け船を出す。
「さっちゃん。角が生えてくるまでここにいていいから。角も直ぐに生えて来る・・・・・・と思うよ?」
「うう・・・お兄ちゃんありがとう・・・・・・」
さっちゃんはよろけながらもよたよたと近づいてくると、抱きついてきた。正直俺の妹というよりサキの妹みたいだ。
「裕次郎さん! サタンをここに置いておくつもりですか!」
ベルがそう言いながら頭の上に乗った。
「うん。なんか俺の妹・・・らしいし、困ってるみたいだし・・・」
「忘れたんですか! サタンが封印を破壊したせいで裕次郎さんの右目は破壊されたんですよ! 代わりの邪眼をはめ込まれたとはいえ、許せません!」
「まあ、そう言わないで・・・・・・え? じゃがん? なにそれ?」
「裕次郎さんの右目はすでに邪眼になってるんです。サタンの力は知りませんが、簡単に言うと蝿の王の力を宿した右手と同質のものです。しかし右目は常時邪眼なのでそのぶん体への負担は大きいはずです」
「そうなんだ・・・・・・」
裕次郎は右目に触れてみた。が、やはり閉じたまま開く気配はない。とりあえずさっちゃんに聞いてみることにした。
「それで、この右目の能力はなんなの?」
「・・・・・・わかんないのじゃ」
「は?」
「だからわかんないの! つい最近堕天したばっかりなのじゃ! 力など知らん!」
さっちゃんはそう言うと口を尖らせる。
あれ?
裕次郎は嫌な予感がしていた。さっちゃんは最近天界から落とされたと言った。初めて会ったのは裏庭だ。その時さっちゃんはずいぶん疲れていた。そしてその裏庭は何者かに破壊されていた。
「あのさ、さっちゃん」
「なんじゃ?」
「地上に落ちたときになにか壊したりした?」
「なにも壊したりはしてないぞ。ただ落ちてきたからな。少し地面がえぐれてしまったのじゃ」
「・・・・・・少しってどのくらい?」
「そうじゃな・・・・・・お兄ちゃんにわかる単位でいえば一キロ四方くらいじゃ」
「・・・・・・そっか」
裕次郎は確信した。裏庭を破壊し、緊急クエスト対象の魔物は自称俺の妹、さっちゃんに間違いない、と。
続く。
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