走れない新幹線

R3号

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彼女を家の前まで送り届け、帰ろとすると。


「お兄さん。改めて本当にありがとうございました。私、お兄さんがいなかったらあのまま陸上をやめていただろうし、きっと下を向いてばかりの暗い毎日を送っていたと思います。でも、お兄さんと練習を始めて走る意味を教えてくれて、また昔みたいに、いや前よりもっと走りたいと思えるようになりました。おかげで次の大会は優輝君にも届くくらい一生懸命走れそうな気がしてます。」


「僕のしたことは大したことじゃないよ。元々の君の走る理由を一緒に確認しただけ。君の力だよ。」

「とにかく、こっからは由佳ちゃんの道だよ。リスタートする準備はできてる?」

僕は拳を突き出して聞いた。彼女は真っ直ぐ僕を見て力強く拳をぶつけた。

「もちろんです!いつでも走り出せます!」

「よし!じゃあ、またね。」

「はい!」
「あ、そういえば私お兄さんの名前聞いてませんでした!最後に聞くのもあれですけど教えてください。」

「名前はまた会った時に教えてあげるよ。その時まで秘密。」

「なんで格好付けてるんですか笑。わかりました。また今度にします。必ずまた会いましょうね。お兄さん!」

「ああ。」

そうして僕らの練習の日々は終わった。


8月。


涼しい部屋で仕事がひと段落して昼食を食べながらスマホを開くと

『女子陸上の県大会で新記録更新‼︎』と言う見出しが目に入った。そこに写っていたのはあの時見せてもらった写真と同じ笑顔でピースする1人の女の子だった。



去年の年末、時速300キロメートルの中で止まっていた一人の女の子の心が今、何よりも速く真っ直ぐ未来へと走っている。
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