花束

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眠たい。

一限目の授業へ向かいながらあくびをした。
高校時代は部活のためにあんなに早起きが出来ていたのにどうしてこんなに眠いんだ。

僕は平凡な大学生活を送っていた。

新たな友人もそれなりにできて授業も軽い気持ちで入ったサークルも本当に「普通」の大学生活だ。

そんな日々に変化が起きたのは一年生の夏休み直前だった。

生まれて初めて告白をされた。

サークルの一つ年上の先輩。
初めは彼女が何を言っているのかわからなかった。

それまであの子だけを追いかけ続けて自分のことを見てくれている人がいるとは考えた事もなかった。

あの子のことを忘れられる気はしないが僕も年頃の男だ。
彼女の告白をOKして付き合うことにした。

彼女は一つ年上ということもあり大人らしい落ち着いた雰囲気と、楽しい時には素直によく笑う女性で一緒にいてとても楽しかった。

二人で色々な場所へ行った。進級する頃には彼女とも完全に打ち解けていた。週末は一人暮らしをしている彼女の家に泊まりに行ったり、大学で昼休みを一緒に過ごしたり。

でも、彼女には絶対に言えないことがある。

それっはやっぱりあの子のこと。

もちろんあの子を忘れるほど濃い時間もあった。

でも

なんでもない時にふと彼女の後ろ姿や仕草を中学時代に初めて好きになったあの子に重ねてしまう。

自分でもわかっている。

そんな前の女の子の面影を今自分を大切に見てくれている女性に重ねてしまうことがどれほどおかしいことかなんて。

そんなことをしながら付き合い続けて二年生の六月末、二回目の記念日の二週間前だった。

彼女から別れ話をされた。

理由は、就職活動が忙しくなり二人の時間を作れないからと言うものだった。
僕はそんな話を申し訳なさそうに話す彼女を見つめながら聞くことしか出来なかった。

僕の方こそいつからか彼女に会いたいのか彼女の重なって見えるあの子の面影に会いたいのかわからなくなっていた。

「ごめん。ありがとう」

それが彼女からの最後の言葉だった。
僕たちは別れることにした。

彼女は心から二人の時間が作れなくなることをもうし訳なく思ってくれて悩み抜いた末に別れを口にしてくれた。

僕は彼女のことを本当に考えて別れることができたのだろうか。

彼女からはこの一年で本当にたくさんの「花」を貰った。

種類も大きさも色もバラバラで二人で過ごした様々な時間でそれらを受け取った。

中には見ると辛かったり悲しくなる花もある。

だけどそれさえも今後大切にしていけると思った。

僕もいつか誰かにこんなにたくさんの花をあげられる日は来るのかな。

その誰かって誰なんだろう。
彼女に対する申し訳なさと感謝の気持ちと共にしばらくそんなことばかり考えていた。
 
それからの大学生活はとても早く過ぎていった。就職活動や卒論などを進めていた。

四年生になりしばらくしてやっと内定をもらうことができた。

何となく地元を離れるのが嫌で地元の企業の営業職になることにした。

あとは卒論を書き上げるだけだった。

友人と海外へ卒業旅行に行ったり朝まで飲み明かしたり真夜中にドライブしたりと大学最後の一年はとても楽しいものだった。

大学を卒業する頃、僕は片手に「花束」を持っていた。
赤、水色、紫、オレンジと、それぞれの花を見ていると様々な感情や思い出が湧いてくる。

これから社会に出るともっと沢山の「花」を手にすることができるんだろうな。
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