花束

R3号

文字の大きさ
上 下
2 / 6

しおりを挟む
四月

数名を除きほとんどの同級生が地元の同じ高校に進学した。

そして、僕は中学時代と同じ野球部に入部した。
この辺ではそこそこの強豪校として知られているだけあり僕の高校生活が部活動一色になるのはすぐの話だった。毎日朝練をして放課後はどの部活よりも遅い時間まで練習をした。

あっという間に最初の一年が過ぎた。二年生になるとさらに部活に熱が入るようになっていた。大会にも結果を残し自分の実力にも自信が持てるようにもなっていた。
 
僕の高校の部活は二年生の夏の大会を最後に引退をすることになっていた。

「これが最後の夏ってやつか」

自分でも驚くほど本気だった。
どおりで漫画や映画のシュチュエーションでよく使われる訳だ。


予選準決勝敗退。

完敗だった。

試合が終わりロッカールームに戻ると全員で肩を組みながら大泣きした。監督の言葉も何も入ってこない。監督が解散を告げても僕らはその場を動くことができなかった。

しばらくするとポツリポツリと帰り始め、僕も家路についた。

一人でトボトボ歩きながら無意識にこんなことを思った。

「最後の試合あの子に見に来てほしかったな。」

「?」
すぐに我に帰り自分に驚いた。

それまで部活動一色で頭から無理やり消していたはずの彼女がなんで今出てくるんだ?


これだけ時間が経っても彼女にいてほしいのか、僕は。

これはどうしようもない。

やっぱりまだ好きなんだよな。

となんだか呆れるように考えた。

数日後、引退式兼後輩への引き継ぎ式を部活内で行った。

後輩たちの後は任せろと言わんばかりの真っ直ぐな瞳を見て少し気持ちが軽くなった。
後輩のマネージャー達から色紙と花を受け取った。   

真っ赤な芍薬の花だった。

意外にも監督が選んだらしく花言葉は「誠実」

うちの部活のモットーだっけか。
最後まで監督なんだなと心の中で少し笑った。

式も終わり帰り道の中、仲間の一人が花掲げてこんなことを言った。

「俺たちの高校生活はこの花みたいに青春と情熱の赤だったな!」

皆が歩みを止めた。

「くさすぎる」「よくそんなことが言えるな」

と全員でツッコんで笑った。

笑いながら僕は
「赤ね。仮に花に例えるなら確かにそうかもな」
と内心少し納得してしまった。

これは誰にも言わないでおこう。


そこからは受験勉強をしながら残りの高校生活を楽しもうと学校行事には全力で参加した。

定番だが、学園祭の準備で夜遅くまで友達と学校に残ったり、体育祭でがむしゃらになったり、放課後にファミレスで勉強したり、地元の夏祭りに行ったりとそれまで部活動で通ってこなかった普通の「青春」を送ることができていたと思う。

そんな楽しい時間の合間にも「この場に彼女がいたらな」と考えてしまう。

毎日の生活のさまざまな場面に彼女の姿を思い浮かべていた。 

三年生になりあっという間に受験本番だ。

野球は高校でやりきったと感じたから進路はかなり迷った。

ならばやりたいことを見つけられるところに行こうと決めて、たくさんの業界について学べる学部がある大学へ進学することにした。

勉強は部活動の時から厳しく習慣化されていたからそこまで苦手ではなかった。

そのおかげか受験もスムーズに進み無事志望した大学に合格できた。

部活に続けてまた一つ落ち着いた。後は卒業式を待つのみ。


三月

卒業式の日だ。

周りが別れを惜しむ中僕は
「あの卒業式からもう三年も経つのか」
みたいなことを考えていた。

式を終え友人たちと先生方に別れとお礼伝えて高校を後にした。

通学路を歩きながら

「せっかくなら僕個人の高校生活も花に例えてみよう」と思いついた。

僕はあいつの花に例える感じを気に入っているらしい。
いろいろなことを思い出した。

部活動、授業、休み時間や放課後のくだらない事、一瞬気になる子もできたっけな。

そんなことを思い返しながら頭にパッと浮かんだのは水色の花だった。

なんの種類かもわからない。

だけど自分の中でとてもしっくりきた。
「水色の花か、爽やかでいいじゃないか。」
なんてことを考えた。

こうして僕は二本の花を持って高校生活に終わりを告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...