花束

①

人は想いを送るときに花を手にすることがある。

その花は何のためにあるのか。

自分に自信が無くて手持ち無沙汰だからか、単に綺麗だからか、中学三年生の自分には分からない。　

なぜこんなことを考えているのかというと、まさに今僕には想いを伝えたい相手がいるからだ。

初恋というやつだ。

ここだけの話、どう伝えれば良いのか全く分からない。

好きという気持ちに間違いはないのだが、こんな気持ちは初めてでどう行動して何をすれば僕の思いを伝えられるのか想像もつかない。

最近流行りの音楽の歌詞には「好きならそのまま好きと伝えよう！」みたいな歌詞をよく聞くが実際はそんなに簡単な話ではない。

そんな恥ずかしさを無理矢理に正当化した暴論を持ち続けた結果、何も出来ないままとうとう卒業式の日を迎えた。

最後のホームルームの時に担任から彼女が遠くに引っ越してしまうことが告げられた。
卒業式の雰囲気も相まって彼女と仲が良かった女子だけでなく、男子も数名泣きはじめていた。

僕は内心焦っていた。

「伝えなきゃ」

そんな気持ちだけが先走りあれだけ考え込んでいたことが頭の中からすっかり消えてしまっていた。

ホームルームも終わり彼女も帰りの身支度を済ませて帰ろうとしていた。

彼女が教室を出ようとしたから思わず呼び止めてしまった。

彼女は振り向いてこちらを見ながら

「ん？」と首を傾げた。
　　
勢いのまま引き留めたことをすぐに後悔した。いつの間にか教室には僕と彼女ふたりきりになっていた。

ロケーションは完璧。

伝えるなら今しかない。

しかし、言葉が何も出てこない。

そんなはずはない。

好きなのに。

どうしてだろう。
　
咄嗟に

「引越しても頑張ってね！」

と言うと彼女は一瞬驚いたような顔をして僅かに間を空けて

「うん、ありがと」

笑顔で言うと少し足速に教室を出ていった。

「やってしまった」

後悔と同時に

「何も持っていないから」

そんな思いが浮かんだ。
何を持っていないのか自分でも分からないが強く思った。

これで僕の中学時代は彼女への想いと自分でも予想外の感情を残したまま終わりを迎えた。