夜明けのひかり

湯殿たもと

文字の大きさ
上 下
17 / 26
3章 二年目の七月

夜明けのひかり その16

しおりを挟む
夜明けのひかり その16


翌朝。目が覚めたのは朝の五時だった。まだひので君はすやすや寝ていて、その間に朝の支度を済ませる。そして、一番のお気に入りのワンピースを着た。普段こんな時間から着ないけれど今日は特別だった。本当にこれでいいのかな、と迷いが入る。

と、その時ひので君が目を覚ました。私の方を、思ったよりもじーっと見ていたので緊張するけど表情には出さない。そして起き上がって朝の支度を始めた。ひので君はそれが終わると窓の外を見始めた。私も覗いてみたけど特に何か珍しいものがあるという訳ではなかった。

少したってから、いつも通り食堂で朝御飯の支度をする。準備をしているとひので君があとからついてきた。それを見た同居人のお爺さんが首をかしげる。

「新入りさんか?」

私がつれてきたことを伝えるとお爺さんは咎めるような表情で、

「勝手に連れてきて騒ぎになったらどうする。帰してやりなさい」

と言う。私は大丈夫と言ったが確かにまずいかもしれない。よその人間をつれてきたひとをこの町で見たこともない。九尾さんに話をしてあるから大丈夫なのだけど。

外に出掛けようと思って着替えたのにこれじゃだめだ。朝ごはんを済ませると二人で部屋に戻る。

「俺はまだお前の名前を聞いてないぞ、自己紹介してくれ」

「そういえばそうだね、私は湯殿たもと。よろしくね」

「よろしくな」

危ない危ない。危うく名乗りはぐるところだった。私は名前をなのり安心したのだけど、ひので君はそわそわしている。

「何かしよう?」

「竹馬と競争はやだぞ」

「ボードゲームは?」

「ボードゲーム?」

「まあそれなら」

「超次元オセロで良い?」

「なんだその超次元って」

「イカサマオセロ?」

「せっかくだしそのイカサマとやらを見てみようか」

ひので君は案外ノリが良かった。思い出してみるとそんなにノリが悪い印象は無かったのだけどすっかり忘れていた。そしていろいろやっているうちに夕方になった。前もこんなゆったりとした一日があったような気がする。

「湯殿さん」

「どうしたの」

「どうして俺を誘拐したんだ、何をさせるってわけでもないのに」

「どうしてだと思う?」

「見当つかないな」

「高校生の男の子からは特に美味しい鍋が出来るんだよ」

「鍋の時期じゃないだろう」

「冗談だよ」

「だったら何でだよ」

「寂しかったからね」

「・・・・・・」

誘拐した直接の原因。それはひので君がタイムリープして一年前の私のところにやって来たから。でもそれは今のひので君は知らないし、言っても混乱を招くだけだった。

しかし、今ひので君の前にいて、私が言った「寂しさ」が紛らわされることは無かった。その寂しさはひので君が理解してくれることは無かった。梨香姉さんやよこちゃんは事情を知っているけどひので君は知らない。

晩御飯の後、私はふらりと町へ出た。空はうっすらと太陽の光を残し星が見えていた。梨香姉さんのところにやってくる。

「あれ?ひので君はどうしたのさ」

驚いたような顔でこちらを見る。私は今考えている、その気持ちを全部伝えた。冷静に考えるとバカみたいだけど、それを頷きながら聞いてくれた。

「それはね、ひので君と話足りないんだよ。もっと話したらきっと寂しさも紛れるから」

「そうかな」

「そうだよ、あたしも初めてここに来たときには寂しかったけど、たくさん話したら平気になったよ」

「ありがとう、私がんばってみる」

「うん。辛くなったらいつでも戻ってきなよ」

落ち着いた気持ちでひので君のいる部屋に戻る。ひので君とたくさん話して、寂しさを紛らわせていこう。

・・・・・・でも。九尾さんとの約束の時間は明日の十時だった。


続きます。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...