上 下
8 / 12

七話 リア充、天国と地獄へ行く

しおりを挟む
「よっこらしょ!」

部屋に入ってすぐ、眠っているリリーアさんを俺のベッドに寝かせる。重かったせいでちょっと雑に寝転がしたが、どうやら起きる気配はない。

「・・・・・・疲れたぁ」

俺はというと、軽くなった体を労るようにソファに沈み込んだ。今日はここで寝ようかな。

「んん・・・・・・」

ふとリリーアさんの方を見ると、鎧のせいで体勢が辛いのか何度も寝返りを打っている。

・・・・・・もしかして、鎧は脱がせた方がいいんだろうか?

それ自体は難しいことではない、肩と足の防具を外し、上半身に装着している鎧を脱がせるだけ。それだけでリリーアさんの寝苦しさは改善されるだろう。


・・・・・・問題は、ようなことをしてもよいかである。

リリーアさんがそういうことに関して潔癖なのは先ほどの会話からでも判断できる、もし仮に鎧を外している途中に起きようものなら本気で死を覚悟する必要がある。

だったらちょっと寝苦しいのなんて我慢していただいて俺も寝る方が賢明だ。


でも、今日は遠征から帰ってきたばかりのはず。その最初の休みがこんな形というのはなんだか申し訳ない。いや、リリーアさんの自業自得ではあるんだけど。


「・・・・・・リリーアさんが起きませんように」

俺は一度神に祈ってから、満を持してリリーアさんの眠るベッドの前に立った。

アルラさん、常連さんが来なくなったらほんとすみません。

そんなことを考えながら、仰向けで眠るリリーアさんの肩に手を伸ばす。

固く結ばれている鎖をいくつか外すと、防具はあっさりと外れてしまった。逆側も外して肩は終了、驚くほど呆気ない。これなら問題はない。

「・・・・・・」

リリーアさんも多少は寝心地が良くなったのだろう、起きるどころか静かな寝息を立てている。

よし、次は脚だ脚。

肩のとき動揺に結ばれた鎖を外して防具を外す。この防具だけでも少し重いし、リリーアさんも楽にはなるだろう。

そして最後、大本命鎧である。

さっきまでは割とスピード意識で雑にやっていたけど、鎧ではそうはいかない。仰向けのままでは終わることができない、少しずつ体勢を変えていかなくてはならないのだ。

とりあえず簡単なところ、脇腹付近にある留め具のようなものを外す。それが思いの外しっかりと留めてあるもので、逆側も外すとそれだけで鎧は首から外せるようになっていた。

なんだ、防弾チョッキみたいな作りなのか。もっと紐とか鎖とかあってゴチャゴチャしてるのかと思ってた。

そうと分かれば話は簡単、この重い鎧を頭の方へ持って行き、首から外す。

後はリリーアさんが寝返りでも打ってくれれば、背中にある鎧を外してコンプリート、リリーアさんはすやすやと眠れるはず。

少し強引にリリーアさんを体の向きを変えようと肩に手をかけた瞬間、白の上着に隠れるが目に入った。


――で、でかい。

鎧のせいではない、リリーアさんのそれは確かに豊満であり、呼吸をするたびに上下に動いていた。

以前お世話になったノノハさんもいいものを持っていたが、リリーアさんは別格だ。これはついつい見てしまいますよバハヌスさん。

ここで一発豪快にいってしまうのが男の甲斐性というやつなのかもしれないが、いかんせん大好きな彼女と一年付き合って結局キスもできない草食野郎の俺にはハードルが高すぎる。

リリーアさんありがとう、目の保養にはなりました。最低だけど許してください。

というわけで肩を少し持ち上げ無理矢理寝返りを打たせる俺。そこでようやく鎧の背中部分を引き抜くことができた。

「よし」

重い鎧を机に置き、再びソファへとダイブ。緊張も相まってリリーアさんをここに連れてきたときより疲れてしまったかもしれない。

これでさっきよりも寝心地がよくなればいいんだけど、あっ、もしかして枕とかもしてあげた方がいいかな。頭が低い位置だと嫌って人けっこういるし。

そうとわかれば再びベッドまで、そう思った瞬間だった。

立ち上がってベッドに向かう途中、おきっぱだった脚の防具に躓く俺。向かう先は、リリーアさんが眠るベッドの上。


ボンッ!!


リリーアさんのいない場所に思い切り手を付き、全体重をかけることだけはなんとか阻止した俺。

とはいえ、体は完全にリリーアさんに被さってしまった。体重も少しかけてしまっている。

すぐにどかなかったのは、リリーアさんの上が柔らかくて心地よかったから。思わず女性の体を堪能してしまったから。

――そういうやましい心が、地獄へと足を進めているとは知らずに。

「んっ」

起き上がろうとする前に、リリーアさんの腕が俺の背中に回った。そして、一気に力をこめてくる。

「い”っ!」

豪腕で抱きしめられ、思わず俺は体重を支えていた左手と足を浮かしてしまった。当然、体重がリリーアさんにかかってしまう。

するとリリーアさんは俺を抱えたまま90度寝返り、いつの間にか添い寝をするような形になってしまった。

・・・・・・ど、どうしてこんなことに?ただ俺は、リリーアさんに枕を使ってほしかっただけなのに・・・・・・

「んんっ」

俺の思考など無意味、リリーアさんは俺の頭を抱きしめるように自身に引き寄せた。

そうなればもちろん、先ほどまでただ見ているだけだったそれに、顔からダイブすることになる。

結論から言えば、柔らかくて温かくて、最高の感触だったと言える。

でもそれは、最初の数十秒だけで、俺は呼吸困難に陥りそうだった。

すぐさま抜け出そうとするも、ホールドが強すぎてとてもじゃないが無理。こんなところでヴァルキリオンの騎士の力を見せつけられるとは思いもしなかった。

「あっ・・・!」

空気を探そうと激しく顔を動かすと、リリーアさんから艶めかしい声が聞こえてきた。

これ以上はまずい!これ以上はまずい!

生的にも性的にも死ぬ一歩手前、一生懸命ベッドをタップした。こんな死に方をしたらアルラさんは亡骸に唾を吐いてきそうだ。

意識が朦朧としてきたころ、ようやく強いホールドは解かれ、俺は新鮮な空気を吸うことができた。

よかった・・・・・・謎の窒息死だけは免れた。胸を堪能なんてとてもじゃないができなかった。


・・・・・・あれ、そういえばホールドが解かれたということは・・・・・・?


「・・・・・・リュウ・・・・・・?何故同じベッドに・・・・・・」


あんな死に方はせずとも、普通の死に方なら体験できそうだと、そう思いました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...