上 下
3 / 12

二話 リア充、妖精と会話する(できない)

しおりを挟む
「あも、えろえろとごめえまくおかけしてもうしまけあれまへん」

「いや、てかなんでおまえここにいるんだ」

少しはすっきりして家に入ると、どこかへ飛んでいったはずのクソパルルが空中で土下座をしていた。左頬がおたふく風邪のように膨れあがっている。可哀想に。

「えと、おあましがあるもでふがよろひ――」

「そのまえにちゃんとしゃべろ、なんて言ってか全然わからん」

一応罪を感じているのか、治療せずに話そうとするクソパルルを制止した。

確か妖精には治癒能力があったはずだ、酷使はできないがそこそこ強力な魔法の一つである。

クソパルルが自分の頬に手を当てた瞬間頬が光り出し、消えた頃には元の胸くそ悪い顔に戻っていた。

「いらいらしてきた。もう一回殴っていいか?」

「ごめんなさい!本当に反省しているので許してください!」

そう言いつつ土下座の安売りをするクソパルル。コイツ、本当に反省してるのか。

まあいい、コイツが俺を連れてきた本人だと言うなら訊かなきゃいけないことがある。

「お前の話の前に頼み、というか命令があるんだがいいか」

「は、はあ、なんでしょうか?」

「俺を元の世界に帰せ」

「え、ええええええええ!」

当然の要求のはずだが、クソパルルは予想もしてなかったように絶叫した。

「そんな、それは困ります!」

「お前の気持ちは分かる。ここに連れてきたってことは俺に何かさせたかったんだよな?だがそれは俺以外の人間でもいいはずだ。一旦俺を帰して、異世界でも好きそうなやつ連れてきてそいつにやらせろ。気乗りしない俺がやるよりよっぽどいいはずだ」

二年間、コイツに会わなかったせいで生き地獄を味わっていた俺だが、わざわざ地球から俺を連れてきた以上、使命があることは分かっている。

でも、あの黒壁を見つけたのは偶然だ。つまり、俺でなくてもよかったはずだ。

シルヴァさんはよくしてくれているが、正直こんなところにいたくはない。帰れるものならさっさと帰りたいのだ。

「いや、その、それは困るというか、なんというか・・・・・・」

クソパルルは、俺から視線を外すと、あからさまに口笛を吹き始めた。しかも吹けてない。

「おい。お前なんか隠してないか?」

「いやあの、隠すというか、向こうのことを考えれば得策ではないというか・・・・・・」

「向こうのこと?いいからはっきり話せ」

なんとも歯切れの悪いクソパルルに一喝すると、クソパルルはなにやら申し訳なさそうに俺を見た後、空中に四角形の何かを取り出した。四角形の中では、懐かしい家並みが映し出されている。

「これは?」

「地球、日本を映しています。もうそろそろリュウ様のお家が映るころかと」

「おお!」

素直に驚かされた。どこから撮っているのか分からないが、こんな簡単に地球と干渉することができるのか。妖精ってのもなかなかすごいのかもしれない。

しばらく見ていると、見慣れた家、つまるところ俺の家が映し出された。次第にズームされていき、部屋の中まで映し出されていく。

すると和室に、小さな仏壇が置いてあるのが見えた。

えっ、あんなのなかったろ。まさか母さんが・・・・・・?

「お、おい!あの仏壇、いったい誰の何だよ!?」

「リュウ様です」

「お、俺ええええええええええ!?」

今度は俺が絶叫する番だった。えっ、はい?俺って、死んだことになってんの?

「二年経ちますからね、そうなっていてもおかしくないと言いますか」

なんか涙を拭う仕草をしてるクソパルルだが、どうにもわざとらしく見える。俺の心が荒んでいるのだろうか。

「そうか、じゃあ母さんは今一人で・・・・・・」

あの家は俺と母さんの二人暮らし、よく祖父母が遊びに来てくれていたが、それでも今は一人。

俺が黒壁に手なんか突っ込んだせいで、母さんを一人に・・・・・・

「そこは心配ありませんよ!私がお母様のおなかに子種を蒔いておきましたから!」

「えええええええええええええええええええええ!?」

「うるせえぞ隣!!」

「す、すみません!」

お隣さんに怒られるほどの奇声を発してしまった俺。「頑張りましたよ私」的な笑みを浮かべるクソパルルをもう一度ぶん殴りたくなってきた。

「お前、子どもがどうやって生まれてくるか知ってんのか!?父さんいないのにどうやって身籠もるんだよ!?」

「えっ、お父様いらっしゃらないのですか?」

「病気でな。だからどう考えてもおかしくなるだろう?」

「ご病気・・・・・・それは本当に可哀想に・・・・・・」

「今それいいから!心配してくれて嬉しいけど!」

「じゃあおじいさまから身籠もったというのは」

「アウトだよ!!お前って馬鹿なの!?頭おかしいの!?」

「でもお母様、『龍ちゃんの生まれ変わりが宿ったのね』と嬉しそうに」

「お母様!?」

叫びすぎて、喉が痛くなってきた。この妖精は、どれだけ常識を知らないのだろうか。

「そうだ、母さん40近いのに大丈夫なのかよ、無事生まれたのか!?」

高齢出産は母胎に負担がかかると訊いたことがある。いくら元気な子が生まれても母さんが無事じゃなければ・・・・・・

「それも問題ありません!全国津々浦々、安産祈願のお守りを送っております!」

「それお前の力じゃなくね!?日本の神様の力じゃね!?」

「失礼ですね、全国からお守りを集結させるのけっこうな手間なんですよ?」

「そういうことを・・・・・・!言ってるんじゃ・・・・・・!ねえ・・・・・・」

もはやツッコミが追いつかない。確かにこの異世界は変なところだけど、コイツは確実に頭がおかしい。

「ついでに申し上げますと、あなたの彼女は新しい彼氏を作られております」

「そ、そうだよな」

泣きっ面に蜂。ただでさえダメージを負ったのに、容赦なく追撃してくるクソパルル。

「で、でもよかったじゃないですか!私が死んでたら、恋人には新たな恋を見つけてほしいと思いますし!」

「死んでたらな!俺生きてるからな!?お前は慰めが下手か!」

恐らくもう戻っても居場所がないことを伝えたいのだろうけど、ところどころに棘を感じるのは何故だろうか。殴られたことをまだ怒っているのか。

「ちなみに、リュウ様は行方不明ということで捜索されていましたが、三日で打ち切られております」

「三日!?早くね!?」

「それは私がリュウ様は死んだと暗示をかけたからでしょう。全国を3日間で、私ってなかなか優秀ですね!」

「・・・・・・あ”あ”?」

ドスのきいた声が、部屋に響き渡った。クソパルルが危険を察知する前に、後頭部を掴む。

聞き捨てならない言葉が、そこにあった。

「あ、あの、なんでしょうか?」

「なんで俺が死んだと暗示をかけた?」

「そ、それは、リュウ様にはやってもらいたいことがありましたし、無駄に捜索を続けてもらうよりは死んだことにした方が手っ取り早いと思いまして」

「なるほど。まあそれはいい、今となっては。解せないのはそれじゃない」

涙目で震えるクソパルルの後頭部に力をこめる。

「お前、俺を見失ったって言ったけどよ、それ、日本で三日も暗示かけてたからじゃねえのか?」

ギクリと、クソパルルの体が動いた。ほんと、わかりやすい性格で助かるわ。

「そうか、そんな無駄なことをしたせいで、俺は何も分からない異世界に一人で放り出されたのか」

「いえ、無駄ということは・・・・・・日本の捜索費を抑えたというかなんというか」

「パルル、俺が何したいか分かるよな」

「あのほんとに、痛いのはかんべ――」

両手中指の第二関節をクソパルルのこめかみにあてがい、思い切りねじ込んだ。

「歯ぁ食いしばれえ!!」

「ぎゃあああああああああ!!」


二回目の怒り放出。


分かったのは、日本に俺の居場所がないということだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...