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情報屋
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「ロット公爵?まあ、いい噂は聞かないな」
「こんなこというのもなんだけど、亡くなって当然よ。無理やり領地を奪ったり、騙して借金を作らせて家を奪ったりしてたんだから」
「いい人、とは程遠い方だ。身分を気にするお方だったと聞いているよ?」
ロット公爵のことがあり、一から調べ直すために住民に聞き取りを行ったが、誰一人としてロット公爵をよくいう人はいなかった。
逆に悪い噂が飛び交っているほどだ。
変わった人が出入りしていたかどうかの質問には、誰一人として、見ていないと答えていた。
ただ、見たことのない不審な人は数回見かけていて、その人物は、フードを目深に被った人だという。顔も性別も分からないが、じっとロット公爵の屋敷を見ていたらしい。
人に見られているとわかると、逃げるようにその場を立ち去るそうだ。
「……ここで不審人物は何を見ていた?」
不審人物が見かけられている位置に実際、ユズリハは立って見る。
今は、帽子に眼鏡をかけ、編んでいる髪はまとめて帽子の中にいれている。
動きやすい服装で手にはノートとペンを持ち、ロット公爵のことを調べている記者の姿に変装していた。
メイド姿は、ロット公爵家の人々と会ってしまうとばれる可能性があるため、それはあえてさけたのだ。
事件が起こったあと、集まってきた人々に紛れて屋敷から出たため、不審がられていてもおかしくはない。
そのため見つかったら、いろいろと面倒なことになってしまう。
それだけはどうしても避けたかった。
じっと屋敷の方を見ていると、屋敷のある一室が目に止まる。
カーテンで仕切られているが、その場所は確かアリアの執事―ハリーの部屋だったはずだ。
(なぜ、ハリーさんの部屋を?)
何か関係があるのだろうか。
考えていてもらちがあかないので、ユズリハはその場から離れて、街の方に道を下っていく。
しばらく歩き、店などが並ぶ商店街を抜けて、ある路地裏へと入った。
その奥は、じとっとしていて薄暗い。
だが、隠れ家のように店がポツリ、ポツリと点在しているところでもあった。
角を右に曲がったところに、一軒の店―トライアングルが建っている。
その店の中に入ると、沢山の小物やアクセサリーが綺麗に飾られていた。
「いらっしゃいませ~」
明るい声が店内に響く。
店の奥、そこにここの店主をしている女が椅子に座り、何やら作業をしながら出迎えた。
「よく来たわね~。何か買いに来てくれたの~?」
のんびりとした話し方が特徴の店主は、ニコニコと、これまた似合う笑顔を浮かべる。
ふわふわとした薄桃色の髪を肩まで伸ばし、紺色の瞳をして、ヒラヒラとフリルの付いたエプロンをかけた女店主―ミューズ・エレクトワが入ってきたユズリハに向かっていう。
「すみません、小物を買いに来た訳じゃないんですよ、ミューズさん」
「あら~、そうなの?残念ね~…。それじゃあ、別の用事かしら~?」
「はい。お聞きしたいことがありまして…」
「あら~、何かしら~?」
ミューズは小物やアクセサリーを作って販売している傍ら、情報屋も営んでいる。
沢山の情報が集められているため、知りたいことがあればここに来ると見つかることが多いのだ。
そして何より、ミューズはその情報の収集力の高さが認められ、隠密部隊黒影の副隊長を勤めている人でもある。
「…ロット公爵に付いて情報が欲しいんです」
「ロット公爵?ああ、この前亡くなった人ね~?周りからはあまり良く思われていなかったみたいね~」
「その他には?」
「うーん…あとは、銀色の仮面の男と一緒にいるところを見られてるわね~。正体は分からないけど、仮面の下の素顔を見たという人がいたみたいよ~?」
「いたんですか!?銀色の仮面の素顔を見た人が?」
「ええ。でも、見た人はその翌日に事故で亡くなってるそうよ~。だから、正体はわからない」
その亡くなったという人は、記者をしている女だったそうだ。悪い噂が絶えないロット公爵をつけていたところで二人が密会しているのを見つけたそうだ。
だが、記者の女が持っていた情報はすべてなくなっており、事故と表向きは発表されているが、殺されたという説も出ているとか。
「口封じ…と考えた方がいいですね」
「そうね~。その方がしっくりくるかも知れないわね~」
銀色の仮面の男の素顔を見たからか、それとも、ロット公爵がその密会を見られては困るものだったのか。
なんにせよ、記者の女を殺す動機はいくらでもあるだろう。
「それと、銀色の仮面の男。もしかしたら、男爵の位を持っていた方かも知れないの~」
「男爵……?なぜ、そう、思うのですか?」
「ある男爵が好んで持っていた時計を銀色の仮面の男は持っていたそうよ~。普通の時計ではなく、その男爵が職人に作らせた一点ものをね~」
「…その男爵の名前は分かりますか?」
「オリバー・ネッセル。貴女なら聞いたことあるんじゃないかしら~?」
不正をし、家族を置いて、一人、姿を眩ませた男爵。
その人の名前と同じだった。
「もっと詳しく情報が知りたければ、行ってみるといいわよ~」
そう言って一枚の紙を渡される。
それには、その男爵の住んでいた住所が書かれていた。
「これは…。まだ、屋敷が残ってるんですか?」
そう問うユズリハにミューズはニコリと笑顔を見せる。
「それは、行ってみてからのお楽しみよ~」
「こんなこというのもなんだけど、亡くなって当然よ。無理やり領地を奪ったり、騙して借金を作らせて家を奪ったりしてたんだから」
「いい人、とは程遠い方だ。身分を気にするお方だったと聞いているよ?」
ロット公爵のことがあり、一から調べ直すために住民に聞き取りを行ったが、誰一人としてロット公爵をよくいう人はいなかった。
逆に悪い噂が飛び交っているほどだ。
変わった人が出入りしていたかどうかの質問には、誰一人として、見ていないと答えていた。
ただ、見たことのない不審な人は数回見かけていて、その人物は、フードを目深に被った人だという。顔も性別も分からないが、じっとロット公爵の屋敷を見ていたらしい。
人に見られているとわかると、逃げるようにその場を立ち去るそうだ。
「……ここで不審人物は何を見ていた?」
不審人物が見かけられている位置に実際、ユズリハは立って見る。
今は、帽子に眼鏡をかけ、編んでいる髪はまとめて帽子の中にいれている。
動きやすい服装で手にはノートとペンを持ち、ロット公爵のことを調べている記者の姿に変装していた。
メイド姿は、ロット公爵家の人々と会ってしまうとばれる可能性があるため、それはあえてさけたのだ。
事件が起こったあと、集まってきた人々に紛れて屋敷から出たため、不審がられていてもおかしくはない。
そのため見つかったら、いろいろと面倒なことになってしまう。
それだけはどうしても避けたかった。
じっと屋敷の方を見ていると、屋敷のある一室が目に止まる。
カーテンで仕切られているが、その場所は確かアリアの執事―ハリーの部屋だったはずだ。
(なぜ、ハリーさんの部屋を?)
何か関係があるのだろうか。
考えていてもらちがあかないので、ユズリハはその場から離れて、街の方に道を下っていく。
しばらく歩き、店などが並ぶ商店街を抜けて、ある路地裏へと入った。
その奥は、じとっとしていて薄暗い。
だが、隠れ家のように店がポツリ、ポツリと点在しているところでもあった。
角を右に曲がったところに、一軒の店―トライアングルが建っている。
その店の中に入ると、沢山の小物やアクセサリーが綺麗に飾られていた。
「いらっしゃいませ~」
明るい声が店内に響く。
店の奥、そこにここの店主をしている女が椅子に座り、何やら作業をしながら出迎えた。
「よく来たわね~。何か買いに来てくれたの~?」
のんびりとした話し方が特徴の店主は、ニコニコと、これまた似合う笑顔を浮かべる。
ふわふわとした薄桃色の髪を肩まで伸ばし、紺色の瞳をして、ヒラヒラとフリルの付いたエプロンをかけた女店主―ミューズ・エレクトワが入ってきたユズリハに向かっていう。
「すみません、小物を買いに来た訳じゃないんですよ、ミューズさん」
「あら~、そうなの?残念ね~…。それじゃあ、別の用事かしら~?」
「はい。お聞きしたいことがありまして…」
「あら~、何かしら~?」
ミューズは小物やアクセサリーを作って販売している傍ら、情報屋も営んでいる。
沢山の情報が集められているため、知りたいことがあればここに来ると見つかることが多いのだ。
そして何より、ミューズはその情報の収集力の高さが認められ、隠密部隊黒影の副隊長を勤めている人でもある。
「…ロット公爵に付いて情報が欲しいんです」
「ロット公爵?ああ、この前亡くなった人ね~?周りからはあまり良く思われていなかったみたいね~」
「その他には?」
「うーん…あとは、銀色の仮面の男と一緒にいるところを見られてるわね~。正体は分からないけど、仮面の下の素顔を見たという人がいたみたいよ~?」
「いたんですか!?銀色の仮面の素顔を見た人が?」
「ええ。でも、見た人はその翌日に事故で亡くなってるそうよ~。だから、正体はわからない」
その亡くなったという人は、記者をしている女だったそうだ。悪い噂が絶えないロット公爵をつけていたところで二人が密会しているのを見つけたそうだ。
だが、記者の女が持っていた情報はすべてなくなっており、事故と表向きは発表されているが、殺されたという説も出ているとか。
「口封じ…と考えた方がいいですね」
「そうね~。その方がしっくりくるかも知れないわね~」
銀色の仮面の男の素顔を見たからか、それとも、ロット公爵がその密会を見られては困るものだったのか。
なんにせよ、記者の女を殺す動機はいくらでもあるだろう。
「それと、銀色の仮面の男。もしかしたら、男爵の位を持っていた方かも知れないの~」
「男爵……?なぜ、そう、思うのですか?」
「ある男爵が好んで持っていた時計を銀色の仮面の男は持っていたそうよ~。普通の時計ではなく、その男爵が職人に作らせた一点ものをね~」
「…その男爵の名前は分かりますか?」
「オリバー・ネッセル。貴女なら聞いたことあるんじゃないかしら~?」
不正をし、家族を置いて、一人、姿を眩ませた男爵。
その人の名前と同じだった。
「もっと詳しく情報が知りたければ、行ってみるといいわよ~」
そう言って一枚の紙を渡される。
それには、その男爵の住んでいた住所が書かれていた。
「これは…。まだ、屋敷が残ってるんですか?」
そう問うユズリハにミューズはニコリと笑顔を見せる。
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