5 / 18
似たもの同士の裏の顔
しおりを挟むアラン・リベルト
この人と結婚?
冗談じゃない
そんな心中とは裏腹に、アイビーもアランに対して、薄く微笑み返す
「初めまして、リベルト殿。私はアイビー・アルベルトと申します。以後お見知りおきを」
いつもと同じように、ずっと薄く微笑みを浮かべたまま、アランとの初めての挨拶を終える
周りの貴族達が何やら騒いでいるがこっちの知ったことでは無い
「こんなに美しい方と婚約できるなんて光栄です。」
「そんな。アラン殿はとても頭の切れる聡明な方と噂に聞いております。実際に会ってみて納得しましたわ。」
お世辞にはお世辞を返しておく
私が美しいのは本当のことだけど
2人の会話にまた会場が騒がしくなる
ほんと、うんざりする
すると突然、アランがそっとこちら顔を近づけ、周りに聞こえないようなとても小さな声で囁いた
「アイビー様、どこか静かな場所へ行きませんか?少しお話したいことが」
それから何事もなかったかのように離れ、また先程のように薄く微笑んだ
話...ね
アイビーはこの時、初めてアランという人物に興味が湧いた
顔を近づけられた時、アランの瞳が何にも関心がないように虚に、だが、よく見てみると、奥にはとてつもない情熱を宿しているような、とても不思議な目をしていたことをアイビーは見逃していなかった
それからまた、アランと小さな扉のある壁のそばまで移動し、適当な雑談でその場を繋いだ
アランとアイビーを取り巻く騒ぎがひと段落し、基本他人に興味のない貴族達が自分の話に夢中になり始めた頃、アイビーはアランに合図を送った
自分達の話で夢中になっている人々の中に、会場から姿を消したアイビーとアランに気づく者は当然いなかった
━━━━━━━━━━━━━━━
アイビーとアランは無言で気配を消しながら2階のバルコニーへ向かう
会場からバルコニーまでは距離があるし人が立ち寄ることが滅多にないからだ
幼少期からつまらない舞踏会を抜け出してバルコニーにで時間を潰すこともしばしばあった。
移動は館を知り尽くしているアイビーが先導し、2人とも目を合わせることも無く黙々とバルコニーまで足を進める。
ようやくバルコニーに着き、2人はフェンスに寄りかかりながら互いの方を向く。
初めて見る婚約者の顔。
美しい銀髪に氷のように薄い蒼色の目。
アイビーの着ている純白のドレスと同じような色のスーツを身につけ、脚はすっと長く、体もそこそこ鍛えているのが分かる。
見た目は先生にそっくりだが、雰囲気は凍えそうなほど冷たい。
本当に、雰囲気だけは先生と全く違う。
私とそっくり。
「お話、とはなんでしょうか」
もうアイビーの顔からは微笑みは消えていた。
いつものような抑揚のない声で聞く
「喋り方ももう気にしなくていいよどうせ誰も聞いてないし」
アランも素を見せてきた
表情がなく、先程のような明るさも無い
代わりに、アイビーを見下し、見定めるような目で話を始めた
「話っていうのはね、君に僕の計画の手伝いをしてほしんだ」
「どうして私があなたを手伝わないといけないの?」
アイビーは表情を変えずにじっとアランが何をしようとしているのか、何を考えているのかを探っていた
「君、叔父上のことが好きなんだろ?」
思わず、目を見開いてアランを凝視する
どうしてそのことを知っているの?
「簡単なことだよ。叔父上から君の話はよく聞いていた、それで察した。それにさっき、僕と会う前叔父上を探していただろ?」
本当にそれだけ?
なんだか釈然としないが、今はその説明で納得することにする
「そうよ。私はあなたの叔父上…先生のことが好き。それで?それがあなたを手伝うことになんの関係があるの?」
「手伝いと言うか、共犯かな?そうだな...僕の計画を一緒に実行してくれたら、君と叔父上の間を取り持ってあげるよ。」
「...は?」
この人は何を言ってるの?
「そんなことできるはずない」
「いいや、できる」
「信じない」
間髪を入れずにアランの言葉を否定する
「まあ、まずは僕の話を聞いてよ」
先生との間を取り持つ?
そんなことできるはずない
そんなことができるなら、自分でとっくに実行している
アイビーの揺らぐ瞳を見つめながら、アランは淡々と話を続ける
「叔父上の婚約者はエリーザ・リスト、君とは大違いの天真爛漫で裏表のない性格でとても愛らしい伯爵令嬢だ」
アランはわざとアイビーを動揺させるような言葉を選んでいるように見えた
しかし、それに気づかないほどアイビーも馬鹿では無い
「そうやってわざと私を不機嫌にさせて判断力を削ぐつもり?」
すぐに落ち着きを取り戻し、また話を聞き出す姿勢を整える
「それもある。」
あっさり認めた
だが、"それも”と言った
これだから頭の回る人と話すのは苦手なのよ
さっさと話してしまえばいいものを、もったいぶって全然話そうとしない
「それで?あなたの計画って何?何を手伝えばいいの?」
「そう急ぐなよ。今から説明する。」
それから一息付き、今度は真面目な目をつくってアイビーに向ける
あくまで真面目に見せているだけ
未だにアイビーを見下す姿勢は変わっていない
「叔父上の婚約者、エリーザ・リストとの駆け落ちだよ、彼女を叔父上から奪う。そのための共犯者になって欲しい」
そう言って、手を前に突き出し、頭を下げる
ふーん、そういうこと
人にものを頼む態度はできてるみたいね
それなら…
「いいわ。その提案、のってあげる」
アイビーは手をとらず、アランの頭上から彼を見下すように答えた
10
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
【短編】転生悪役令嬢は、負けヒーローを勝たせたい!
夕立悠理
恋愛
シアノ・メルシャン公爵令嬢には、前世の記憶がある。前世の記憶によると、この世界はロマンス小説の世界で、シアノは悪役令嬢だった。
そんなシアノは、婚約者兼、最推しの負けヒーローであるイグニス殿下を勝ちヒーローにするべく、奮闘するが……。
※心の声がうるさい転生悪役令嬢×彼女に恋した王子様
※小説家になろう様にも掲載しています
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!
神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう.......
だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!?
全8話完結 完結保証!!
【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません
Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。
彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──……
公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。
しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、
国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。
バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。
だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。
こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。
自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、
バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは?
そんな心揺れる日々の中、
二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。
実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている……
なんて噂もあって────
【完結】強制力なんて怖くない!
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。
どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。
そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……?
強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。
短編です。
完結しました。
なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる