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似たもの同士の裏の顔

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 アラン・リベルト

 この人と結婚?

 冗談じゃない

 そんな心中とは裏腹に、アイビーもアランに対して、薄く微笑み返す

 「初めまして、リベルト殿。私はアイビー・アルベルトと申します。以後お見知りおきを」

 いつもと同じように、ずっと薄く微笑みを浮かべたまま、アランとの初めての挨拶を終える

 周りの貴族達が何やら騒いでいるがこっちの知ったことでは無い

 「こんなに美しい方と婚約できるなんて光栄です。」

 「そんな。アラン殿はとても頭の切れる聡明な方と噂に聞いております。実際に会ってみて納得しましたわ。」

 お世辞にはお世辞を返しておく

 私が美しいのは本当のことだけど

 2人の会話にまた会場が騒がしくなる

 ほんと、うんざりする

 すると突然、アランがそっとこちら顔を近づけ、周りに聞こえないようなとても小さな声で囁いた

 「アイビー様、どこか静かな場所へ行きませんか?少しお話したいことが」

 それから何事もなかったかのように離れ、また先程のように薄く微笑んだ

 話...ね

 アイビーはこの時、初めてアランという人物に興味が湧いた

 顔を近づけられた時、アランの瞳が何にも関心がないように虚に、だが、よく見てみると、奥にはとてつもない情熱を宿しているような、とても不思議な目をしていたことをアイビーは見逃していなかった

 それからまた、アランと小さな扉のある壁のそばまで移動し、適当な雑談でその場を繋いだ

 アランとアイビーを取り巻く騒ぎがひと段落し、基本他人に興味のない貴族達が自分の話に夢中になり始めた頃、アイビーはアランに合図を送った

 自分達の話で夢中になっている人々の中に、会場から姿を消したアイビーとアランに気づく者は当然いなかった

━━━━━━━━━━━━━━━

 アイビーとアランは無言で気配を消しながら2階のバルコニーへ向かう

会場からバルコニーまでは距離があるし人が立ち寄ることが滅多にないからだ

幼少期からつまらない舞踏会を抜け出してバルコニーにで時間を潰すこともしばしばあった。

 移動は館を知り尽くしているアイビーが先導し、2人とも目を合わせることも無く黙々とバルコニーまで足を進める。

 ようやくバルコニーに着き、2人はフェンスに寄りかかりながら互いの方を向く。

 初めて見る婚約者の顔。

 美しい銀髪に氷のように薄い蒼色の目。
アイビーの着ている純白のドレスと同じような色のスーツを身につけ、脚はすっと長く、体もそこそこ鍛えているのが分かる。

 見た目は先生にそっくりだが、雰囲気は凍えそうなほど冷たい。

 本当に、雰囲気だけは先生と全く違う。

 私とそっくり。

 「お話、とはなんでしょうか」

 もうアイビーの顔からは微笑みは消えていた。

 いつものような抑揚のない声で聞く

 「喋り方ももう気にしなくていいよどうせ誰も聞いてないし」

 アランも素を見せてきた

 表情がなく、先程のような明るさも無い

 代わりに、アイビーを見下し、見定めるような目で話を始めた

 「話っていうのはね、君に僕の計画の手伝いをしてほしんだ」

 「どうして私があなたを手伝わないといけないの?」

 アイビーは表情を変えずにじっとアランが何をしようとしているのか、何を考えているのかを探っていた

 「君、叔父上のことが好きなんだろ?」

 思わず、目を見開いてアランを凝視する

 どうしてそのことを知っているの?

 「簡単なことだよ。叔父上から君の話はよく聞いていた、それで察した。それにさっき、僕と会う前叔父上を探していただろ?」

 本当にそれだけ?

 なんだか釈然としないが、今はその説明で納得することにする

 「そうよ。私はあなたの叔父上…先生のことが好き。それで?それがあなたを手伝うことになんの関係があるの?」

 「手伝いと言うか、共犯かな?そうだな...僕の計画を一緒に実行してくれたら、君と叔父上の間を取り持ってあげるよ。」

「...は?」

 この人は何を言ってるの?

 「そんなことできるはずない」

 「いいや、できる」

 「信じない」

 間髪を入れずにアランの言葉を否定する

 「まあ、まずは僕の話を聞いてよ」

 先生との間を取り持つ?

 そんなことできるはずない

 そんなことができるなら、自分でとっくに実行している

 アイビーの揺らぐ瞳を見つめながら、アランは淡々と話を続ける

 「叔父上の婚約者はエリーザ・リスト、君とは大違いの天真爛漫で裏表のない性格でとても愛らしい伯爵令嬢だ」

 アランはわざとアイビーを動揺させるような言葉を選んでいるように見えた

 しかし、それに気づかないほどアイビーも馬鹿では無い
 
 「そうやってわざと私を不機嫌にさせて判断力を削ぐつもり?」

 すぐに落ち着きを取り戻し、また話を聞き出す姿勢を整える

 「それもある。」

 あっさり認めた

だが、"それも”と言った

 これだから頭の回る人と話すのは苦手なのよ

  さっさと話してしまえばいいものを、もったいぶって全然話そうとしない

 「それで?あなたの計画って何?何を手伝えばいいの?」

 「そう急ぐなよ。今から説明する。」

 それから一息付き、今度は真面目な目をつくってアイビーに向ける

 あくまで真面目に見せているだけ

未だにアイビーを見下す姿勢は変わっていない

「叔父上の婚約者、エリーザ・リストとの駆け落ちだよ、彼女を叔父上から奪う。そのための共犯者になって欲しい」

 そう言って、手を前に突き出し、頭を下げる

 ふーん、そういうこと

 人にものを頼む態度はできてるみたいね

それなら…

 「いいわ。その提案、のってあげる」

 アイビーは手をとらず、アランの頭上から彼を見下すように答えた
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